過去の強敵を撃破しろ

 神殿内は広く清潔。というかほぼ何もない。

 目の前には三個の通路。


『女神は左。人間は右。勇者と魔王は真ん中で観戦すること』


 またルビィの声だ。どうも別個に試験を受けさせる気らしいな。


「どうする?」


「行くしか無いさ。俺とジンは真ん中だな」


「こんなところで負けるなよ。俺様の指導が無意味と言われるようで不愉快だ」


「あんた素直じゃないわね。魔王ってそんなもんなの?」


「やかましい駄女神」


 ぶつくさ言いながらも全員で入った。

 全員が部屋に入ると同時に鐘が鳴る。


「なんだこりゃ?」


 入ってみれば大きな部屋が一つ。

 ガラスのような何かで仕切られているが、全員の姿が見える。

 中央は狭くなっていて、机と椅子があった。

 ここで観戦しろということか。


『最初は人間と女神の力を見せてもらった。次は個別に見る』


 それを合図にするかのように現れる影。


「遅かったわねえ。どれだけ待たせるんだい?」


「特忍ともあろうものが、もっと迅速に動けないのかしらねえ?」


 メテオの召喚士パラス。

 闇忍のトップ香蘭。

 どちらも確実に倒したはずだ。


「なっ!? お前どうして!?」


「そんな……生きていたの!?」


「ふひゃはははははは!! いいねいいねえ! その顔が見たくて待ってたんだぜえ!」


「妖鬼王……そう、どうやったのか知らないけれど、復活したのね」


 魔女の世界を荒らしていた、巨大な鬼までいる。


「こりゃどういうことだ?」


『可能性を見せて』


 どこからかルビィの声が響く。姿を見せる気はないのか。


「んじゃ説明頼むぜ」


『人間の世界は勇者が、貴方が救ったもの。どんな世界も貴方がいれば救われる。だからわからない。その世界の人間だけで平和になるのか。人の可能性を霧の中へと隠してしまう』


「確かにな。師匠がいれば有象無象など不要となる」


『だから示して。人の力だけでかつての敵を倒し、その勇者がいなくても世界は平和になると』


 なるほどそう来ますか。まあ納得だな。


「いけるか?」


「当然!」


「修行の成果ってやつを見せる時だな」


『女神は不参加。アドバイスは禁止』


 透明な壁に魔力が流され、女神が声までも隔離される。

 純粋に人の力を見たいんだな。


「事情が事情だ。仕方があるまい」


「みなさんでガツンとかましてやるデース!!」


 俺達には声が聞こえるようだ。

 妙な所で手際いいなルビィ。


「よし、いくぞみんな!!」


「おう!!」


 素早く陣形を変え、魔女に援護射撃をさせながら突っ込む人間組一同。


「小賢しい。薙ぎ払えばいいんだろうがよお!!」


「できるといいねえ」


 妖鬼王の大鉈を、リリカと花梨で止めている。

 相手がでかくても、問題なく切り結べているな。よしよし。


「フリージングバインド!!」


「フレアチェーン!!」


 フレイアと吹雪の魔法が香蘭の腕に巻き付いた。

 炎と氷だというのに打ち消し合わず、両者の威力が増していく。


「印を結ばないといけないのでしょう?」


「忘れたのかい? こっちは十傑を呼べるんだよ。織部! 時間を稼げ!」


「そんな時間は与えねえ! スーパー旋風脚!!」


 香蘭の背後から飛び出した織部を蹴り飛ばし、全攻撃を最小の動きで避けながら迎撃している。


「いける。オレにも攻撃が見える!!」


「織部が撃ち負けるだと!?」


「いくぜフラン!」


「やってやるわ!」


 龍一の光り輝く霊装術はわかる。

 フランも黒く光る似たような術を展開しているじゃないか。

 あれは初めて見るな。


「これがあたしの奥義。闇忍技術と特忍の、龍一の技術の合わせ技。秘伝忍法・魔装霊術!」


「だがまだ十傑は呼べる!」


「ライジングストラッシュ…………百七十五倍!!」


「ぬおおおぉぉぉ!?」


 リリカによって敵全域に稲妻の斬撃が迸る。

 十傑全員を葬ることはできない。だが時間稼ぎとしては十分だ。


「見せてやるぜ、オレたちの合体奥義!!」


 二人が天高く飛び上がり、白と黒の霊力が九つの龍の形を成す。


「超必殺!!」


「九頭龍裂空脚!!」


 膨大な霊力を秘めた龍が飛び、荒れ狂う力の渦が十傑ごと香蘭を飲み込んでいく。


「何故だ!? なぜ学園のガキなんぞに勝てない!! ウアアアアアァァァァ!!」


 呆気なく消え去り地獄へと戻る香蘭。

 確実に修行の成果が出ている。


「こちらも決めるわよ、吹雪」


「いいわ。やってやろうじゃない。対勇者リベンジ用秘密兵器!!」


 魔女らしい宝石くっつけた杖だ。

 あれ確かあの世界の秘宝だったような。


「ただやられるのを待つと思ってんのかあ!!」


 詠唱中は高速移動ができない。

 二人が協力して放つ技という性質上、動き回れば魔力が分散する。


「火炎手裏剣!!」


「ゴガア!?」


 特忍コンビの手裏剣が妖鬼王に刺さり、爆炎を撒き散らす。


「援護します! コード・ブレイブレーザー!」


 あやねのアーマーから質量無視の巨大レーザー砲が出現。

 妖鬼王の腹に直撃し、完全に動きを止める。


「グググググ…………調子に乗るなアアアァァァ!!」


「東西究極融合! アルティメットマジカルバスター!!」


 光の渦があやねのレーザー砲と混ざり合い、巨大な妖鬼王を浄化する。

 これで残るはパラスのみ。


「おーいいぞいいぞ。そのまま倒しちまえ」


「使える程度には完成したか。褒めてやろう」


 ジンと座って観戦中。香蘭たちも強化されているっぽいのに倒せるもんだねえ。

 ちゃんと修行つけてあげてよかった。


「どうしてだ……メテオもフォトンも以前より使える。女神に強化だってされた! なのになぜ勝てぬ! 貴様らと何が違うというのだ!!」


「私利私欲に目がくらみ、てめえ自身を磨き続けることを怠った結果さ」


「どれだけ強くなろうとも、あなたの進む道は邪道。私達が必ず止めてみせます!」


「わたしはもう負けない。あなたのような、人の命をなんとも思わない人になんか、負けてやるもんか!!」


 リリカと花梨の武器に光が宿る。

 その光は雷となり炎となって重なり合う。


「リリカ、さっさとやっちまうよ」


「了解です!」


「おのれ! フォトン使いだけでもここで殺してくれるわ!!」


「地獄の鬼共に教わった、灼熱地獄の炎だ! 豪炎煉獄斬!!」


 パラスの緑色のフォトン光を押しのけ、焼き尽くし、花梨の槍が突き刺さる。


「うっ、があ!! 生意気な!!」


「原動力は勇気。刀身は友情。そこに乗せるは己が魂!! ファイナルライトニングウウウゥゥゥ…………セイバアアアァァァ!!」


 前の決戦で見たものよりも、ずっと綺麗で尊い、神聖さすら感じる光が世界を照らす。


「私のフォトンが……世界がああぁぁぁぁ!!」


 大爆発を起こし、野望と共にパラスは散った。


「世界はあなただけのものじゃない! みんなで作っていくものなんだ!!」


 そこで三回目の鐘が鳴る。まるで決着を告げるかのように。


『人類の成長を確認。女神の加護があるとはいえ立派』


「お前だって敵に加護つけただろ?」


『つけた。フェアなデータが欲しかった。人間組は回復してあげる』


 回復魔法が発動し、俺達が使っている椅子が人数分現れた。

 同時に俺と合流できるよう、透明な壁も消えたようだ。


「はー……つっかれたぜ……」


「先生! 先生のおかげで勝てました!!」


「正直特訓の方がずっと辛かったわ」


「おつかれさん。ちゃんと見てたぞ。全員最高だったぜ!!」


「特別に俺様が褒めてやる。大儀であった!!」


 ジュースとかお菓子を出してやる。

 しばらくゆっくり休むといい。先は長そうだからな。


『それじゃあ次は女神。女神は人間に加護を与え導くもの。ならば人間よりも試練は厳しく、そして自分の過去に勝てなければいけない』


「待っていたよ。ようやく出番かい」


 奥の扉からやって来たのは、大昔に見た女神たちであった。


「なんだ……あのでっかい女は」


「あれ全部女神なの?」


 中でも目をひくのは、十メートルはある巨体の女神だろう。


「マリア!?」


「あの時はガラクタと勇者に邪魔されたけど、今度は完全にぶっ壊してあげるよ美由希!!」


「勇者さえいなければ、貴様らに遅れはとらん。今度こそ消してあげるよ、クラリス」


「リュカ……アンリまで」


 イヴの一件で倒した連中までいるのか。

 敵の数が多い。しかもルビィに超強化されているようだ。


「もう一度あの世界で使ってやるよリーゼ!!」


「クローディア……」


「誰が来ようと負けないわ。わたしたちは勇者の生徒。過去の悪役なんぞに負けてらんないのよ!!」


『それじゃあ始めるよ。駄女神でも奇跡は起こせるという証明をして』


 女神の死闘の幕が上がる。

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