人神融合究極合体

 コピーの姑息な不意打ちにより、リリカの腹が貫かれた。

 そこまで汚い手に出ますか。


「リリカちゃん!!」


「リリカを離しやがれ!!」


 花梨とフランが引き離し、女神たちが回復魔法をかける。

 まだ死んじゃいない。蘇生はできるはずだ。


「回復が終わるまで、コピーを止めるよ!」


「後ろだ魔女!!」


 魔女の背後に透明化したコピーが迫り、回し蹴りが暴風を生み出す。


「きゃう!?」


「うああぁぁぁ!!」


 吹き飛ばされる魔女二人。追撃の魔力波乱れ打ちを女神達が撃ち落とすが、それは後手に回るということ。


「女神を甘く見るなよ!」


「許せませんわ!」


 クラリスとカレンの手刀がコピーを捉えた。

 だが全く同じ動きで相殺され、斬撃の裏にもう一撃重ねられていることに気づくのが遅れた。


「がはっ!?」


「あうぅ!?」


「これ以上やらせるか!!」


 コピーは叩き込まれる攻撃を、魔力を螺旋状にしていなしている。


「あれは……美由希の動き?」


「コピーされたってのかい?」


『勇者は戦いの中で成長していく。同じ攻撃を続ければ、それを模倣し昇華するなど容易いこと』


 もう全員の技と動きをマスターし始めている。

 こいつ危険だ。ジンかリリスが全力だしゃいけるかもしれんが、まず全世界がもたない。

 人間組は余波で死ぬだろう。女神だって危険だ。


「心なしか動きが良くなっていませんか?」


『不屈の闘志で立ち上がり、その度にパワーアップして復活する。それも勇者のお約束。これが奇跡』


「だからって諦めるわけにはいかねえぜ!」


「攻撃を続けていれば、ダメージは蓄積するはずよ!」


 龍一とフランの猛攻を浴びながらも、その動きをマスターして反撃に出る、


「馬鹿な!?」


「きゃあぁぁ!!」


 二人の霊装術の鎧を殴り砕き、さらに動きのキレが増していく。


「ええいどうすりゃいいデスかこいつ!!」


 コピーの手には緑色の霧。それを打ち払い、消していくリリス。


「うーわ……そういうの使うかしら……全員一斉攻撃! 私は気にしないでいいから、とにかく接近は避けて!」


「どういうことデス!」


「あれは師匠が異世界を回って見つけた、その世界にしか無い病魔を混ぜ合わせた結晶だ。いわば究極のウイルス」


「アホかああぁぁ!? そんなんどうすることもできないでしょうが!!」


「本当に、本当に敵に回すと勝ち目がないですね先生」


 攻撃の苛烈さが掛け値なしに跳ね上がる。

 全員疲労の色が濃くなっているし、このままだとまずいかな。


「よかろう。こちらも終わったところだ」


 ジンが惑星を生産し続ける星を拳圧飛ばして破壊し終えた。


「勇魔救神拳を使わせる暇など与えんぞ!」


「やるしかないわね。リリス、ジン、ちょっと時間稼いで」


「どうするのかしら?」


「このままじゃ、悔しいけど二人の足手まといよ。だからみんな! あれをやるわよ!!」


 ジンとリリスを残し、全員が集合する。

 正直それしか無いだろう。


「秘策があるようね。面白いわ。見せてみなさい」


 コピーを徹底的に攻撃し、時間を稼ぐ二人。

 同種の技をぶつけるリリスと、勇魔救神拳を潰すための技を使うジン。

 協力すれば時間稼ぎなど容易い。


「そうね。覚悟決めたわ」


「やりましょう。今ならコントロールもできるはず」


「人と神の力……見せてやるデス!!」


 リーゼを中心に、全員の魔力が重なり、波長を合わせていく。


『見たことのない加護。リーゼの仕業か』


「私はあらゆる加護を生み出し、合成する。人と女神に全く同じ加護を与え、融合を開始」


 全員の魔力と生命力で満たされた小さな空間に、サファイアが入っていく。


「確かに人間は弱いさ」


「けれど、人には奇跡を起こせる瞬間がある」


「大好きな人を想い。世界が平和であるよう願う」


「誰かが悲しまないように。誰も死ななくていいように」


「そんな強い願いから生まれる行動は、いつだって奇跡を起こす鍵なんだ」


 全員が光の中へと消え、やがて人の形を作り出していく。


「特訓の中で何度も何度も慎重に馴染ませた」


「もう誰も失わない。自己犠牲じゃない。誰も不幸になんてならない、最高のハッピーエンドのために」


「全員の想いは一つ。ならばその力も一つにできるはず」


「これは魂の器が圧倒的に大きいサファイアを本体にすることで可能となった」


「人と女神の願いが、望む未来が同じなら。絶対に、絶対にやり遂げる!!」


 光の中から現れたのは、全てを内包したただ一人。

 長い金色の髪と、蒼く綺麗な瞳。

 美しく流麗でクリスタルのように光る豪華で、それでいて神の存在を強烈に植え付けられる鎧。


「これが人神融合。スーパーサファイア様よ!!」


「ほう……役立たずの駄女神は卒業したようだな」


「面白いわ。これが人と女神の新しい形なのね」


 その佇まいはまさしく女神。慈愛と神格を備えた究極の女神であった。


『人と神の融合……? そんなことをすれば、神にその存在は消されてしまう。それは人の死。生贄ということ』


「違うな。全員の魂がちゃんとある。戦いが終われば元通りさ」


「先生はハッピーエンド以外認めないのよ!!」


『全員の力を足したとしても、勇者に届くとは限らない』


「これは足し算じゃないわ。乗算なのよ。これならコピーにくらい届くわ」


 膨大な力が瞬時に高まり、爆発的な力が世界に満ちる。

 サファイアの姿が消え、コピーがド派手にぶっ飛ばされた。


「こんな風にね」


「やるね。ここにきて完璧な融合だ」


『大勢の魂を完璧に重ねるなんて、人間にできるはずがない。いくらサファイアの器が大きくても、人は耐えられない』


「できるわ。ここにいるみんなの願いは一緒。心は最初から一つ。なら融合だってできるのよ!」


 コピーとサファイアの拳がぶつかり、空間が弾け、世界が揺れる。

 そして打ち負け、拳が砕かれたのはコピーの方だ。


『再生が遅れている?』


「再生が追いつかない威力で殴り、再生する仕組みや概念を砕いているのさ。それが本能でできるよう叩き込んだ」


 コピーの手から暖かい光が放たれ、触れた大地や空気が光となってさらに溢れ出す。


『敵に痛みを与えること無く浄化する。その光は防御する結界や、破壊しようとする攻撃魔法までも光の養分となる。勇魔救神拳、異能の二十九。極光浄解波』


「無駄よ」


 サファイアが手をかざした場所から光が消えていく。

 無効化と吸収を同時に行い、最速で自身のエネルギーへと変換している。

 コピーの力と異能への抵抗の両方が備わっていないとできない技だ。


「やるではないか」


 ジンの闇がコピーの背後より忍び寄り、斬撃となって背中を切り裂く。

 コピーがぐらついた。ここがチャンスだ。


「一気に決めるわ!」


 足に螺旋魔力を流し、太陽のエネルギーを込め、霊力と混ざり具足となる。


「螺旋烈光脚!!」


 鮮烈なる光がコピーの体深くまで抉り抜ける。

 その衝撃に耐えられず、地面を派手に転がっていくコピー。


「ジン!」


「俺様に命令するな駄女神!」


 右腕だけを第二形態へと変質させ、ごく単純であまりにも純粋な暴力によりコピーを天高く打ち上げた。


「さっさと決めろリリス」


「魔王に命令される勇者がいてたまるものですか」


 すでに空中にはリリスがいる。

 その手には、以前戦った時よりも一層研ぎ澄まされた剣があった。


「見よう見まねの未完成…………桜花雷光斬!!」


 再生も因果を曲げることも許さず、ただ敵を残滅していく希望の光。

 それはコピーの肉体を完全に消滅させるには十分であった。


「先生の強さは、こんな偽物なんかじゃあ表せないのよ」


「同感ね」


「フン、当然だろう」


 戦闘終了とともに鐘が鳴る。

 コピーは完全に消えた。これで駄女神の勝ちだ。


『面白い。非常に見応えがあった。コピー勇者程度なら勝てると判断する』


「さ、これで試練ってのは終わりね?」


『……虚無と戦ってみる?』


 妙な提案だな。自画自賛みたいでためらわれるが、コピーより強いと思えん。


「提案の意図が不明だな」


『勇者のコピー一体なら勝てることはわかった。けれど最強ではない。虚無の恐ろしさは別にある』


「なるほどねえ……どこまでもデータ取りか」


 こいつはこいつで自分の役目を果たそうとしているだけだな。


「ちゃんと説明しなさいな」


「虚無の恐ろしさは無限に成長と進化と回復ができ、無がある限り生まれるところにある。際限なくな。しかもでかいしうざい。当然の権利のように全知全能で全ステータス無限だ」


「先生をでっかくて無機質にした感じってこと?」


「俺のことどう見てんのさ?」


 なんか俺のイメージがおかしい。

 勇者ムーブをもっと見せつける必要があるのかもしれん。


『メインイベントは決まっている。虚無に私の加護を与え、勇者との戦闘を観測。最終的な判断を下す。それまでに取れるデータは全て取りたい』


「面白い。出せ」


「いやいや終わったんだろ? なら戦う必要がない」


「違うわ先生。それじゃルビィは満足しない。虚無だって敵。いいえ本当の敵と言ってもいいわ。それも倒せてこそハッピーエンドよ」


 できれば危険な目にあって欲しくない。

 教師としても勇者としても止めたいところだが。


「ならこうしましょう。後一回鐘が鳴るまでの延長戦。そこまで生き残れば、後は先生が終わらせる」


『興味深いね。勇者が良ければそれでいい』


「…………言っても聞かなそうだな。必ず生き残れよ」


「当然!」


『虚無をこの世界に出す。そのためには大地が邪魔』


「なんですって?」


 一瞬で地面が消し飛び、宇宙空間と空と大地が上下左右ランダムにある変な空間になった。


『本来戦闘の余波はこんなものじゃない。勇者がこっそり世界を強化したからこれで済んだ』


「どこまでも勇者ねえ先生」


「そらそうだろう」


『ちなみにもう始まっている』


「後ろだ!!」


 突然ジンが叫ぶと同時に魔力波を放つ。

 何も無いように見える空間に直撃し、何かが爆発する。


「何だ? 何かに当たったはずだ」


「お、本物だな」


 昔戦ったやつと似ている。確かザコより強めのザコだ。

 コピーよりも一層懐かしい感じがする。


『これが虚無の指揮官クラス。宇宙よりも大きく、無味無臭透明で気配も殺気も何もない。魔王の防衛本能で気づいたのは優秀』


「宇宙よりもって……そんなのがどうやって世界に入るのよ? 世界が潰れちゃうんじゃないの?」


『虚無に質量なんて関係ない。そこには何もなくて、全てがある。全てが等しく消える。どこにだって入り込める』


『今回は勇者因子の欠片をコピーからわずかに抽出して投入済み』


「変な名前をつけるんじゃない」


 しかし本物が出るか……マジで今回で完全消滅させんとな。


「今回は色つけてやろう」


「その程度俺様でもできるわ」


 虚無が黒くなる。いや白いのもいるな。金ぴかもいる。


「私だってできるのよ」


「今のわたしに不可能はないわ!!」


「そうか。んじゃがんばれ」


 そろそろこの戦いもクライマックスか。

 どんな結論が出るにせよ、最後は俺が動かないとな。

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