駄女神の先生は続く

 ジンとの戦いが終わり、ティーナの世界に別れを告げて戻ってきた。

 そんなわけでいつもの教室。いつものメンバーだ。


「最後まで見たかったのに……」


「あくまで見学会だ。最後までずっといたら迷惑だろ」


 魔王と幹部の半数が死んだので、あとはゆっくり冒険でもしてくれたらいい。

 もう問題ない世界だし、何かあればティーナが連絡をくれる。

 なので帰ってきた。邪魔になるし。


「他人の迷惑顧みず、やはり駄女神ではないか。クックック」


「お前はなんでいるんだよ!」


 ふっつーに教室にジンがいる。

 駄女神と同じ机と椅子があるのは作ったのかね。


「リベンジに来たぞ!」


「はええよ! もうちょい修行してこい!」


「あんたも女神の迷惑顧みず教室来てるじゃない」


「俺様は魔王だからよい! 推奨行為だ!」


「んなわけあるか! また別世界救ったりして、そっからならリベンジ受ける。俺は教師やるって言った。それを破ると勇者っぽくないだろ」


 勇者がやると言ったのだ。達成しないと気が済まん。

 こいつらに愛着も湧いてきたし、ちゃんと卒業させてやりたい。


「そもそもなぜ女神界にいますの?」


「どうやって来たのか疑問です」


「駄女神三人組に魔力の発信機をつけておいた。師匠がまさか女神界にいるとは思わんかったぞ」


「俺も来る予定はなかったよ。まあ駄女神が減るならそれでいいかなって」


「こんな学校を作るほど増えているのか……嘆かわしいな」


 ジンは俺と異世界を巡っていた時期がある。

 つまり駄女神の被害に結構あっているのだ。


「あんたも駄女神被害者なわけ?」


「ああ……いっそ自分の足を切り落とそうかと思うほど足引っ張られたぞ」


「そんなに!?」


「魔王歴が長いが、どの魔王より、どんな邪神より厄介だ。殺して終われないことが苦痛であると痛感した」


 味方にいると厄介で敵に回しても鬱陶しい。

 それが駄女神なのだ。マジでしんどいぞ。


「魔王なのに女神を殺したことはないのですか?」


「おそらくな。魔界に堕ちた外道女神は知らんが」


「なんで? 普通敵対するもんじゃないの?」


「俺様は魔界をアホほど征服し、人間界の征服一発目で師匠に出会っている」


「…………うーわ」


 なんか同情するような視線がジンに向けられている。

 いやいや俺は勇者だからさ。悪い魔王来たら倒すもんだよ。


「人間とはこれほど強いものかと驚いたぞ。絶望の淵に沈んだ。まさか人類最高峰クラスの化物に出発で出会うとは思わんからな。魔界の頂点たる俺様が、為す術もなく倒されたぞ」


「ちょっとかわいそうですわね」


「師匠は魔界侵攻に積極的ではないからな。噂も聞かなかった」


 興味を持っているようだし、ちょっと魔界について授業でもしてみるか。


「人間界に攻めてきた魔王とか軍は倒すし、諦めなけりゃ魔界ごと叩くよ。そんだけ」


「なぜ行かないのです? 先生が最初に魔界を潰してしまえば楽なのでは?」


「魔界といっても、魔族が楽しく過ごしているだけの世界もある。例外的にいい悪魔ってのもいたりする。ジンは自分の魔界を平和に統治していたしな」


 これがまた面白いのだ。

 人間より強くて珍しい技を使うやつや、特殊な種族もいる。

 観光に行ってみると楽しいのさ。


「魔界ってのはいい場所もあれば悪いやつしかいない場所もある。そして魔界のルールがある。それは人間が勝手に変えるものじゃない」


 世界には世界ごとのルールがある。

 それは魔族しかいない魔界も同じ。

 人間界から独立しているのなら、そこは魔界のルールが適用されるべきだ。


「だから魔族イコール悪でもない。人間と共存しようとするやつもいる」


「漫画とかであるわよね。主人公とかライバルとかに」


「そういうこと。無闇に襲ってはいけない。ただし外道に手加減はするな」


「うむ、それが適切であろう」


 人間とともに生きたいという魔界の王子とかいた。

 ああいう困難だが平和への道を歩むやつってのは応援したくなる。


「まあ魔王ってのは普通は悪人だし、倒しちゃっていいパターンが多いさ」


「だからといってホイホイ倒せるのは貴様くらいだ」


「ちなみに、前に会ったジンはどれほど強かったのですか?」


「難しいな……今のクラリスや美由希よりも強かったはず」


 ごめんちゃんと覚えてない。だってステータスとか全部限界突破してたし。

 何回か殴ったら死にかけただろお前。判定できん。


「女神を超えていたのですか……」


「女王神様かイヴならいけるかもしれませんわよ?」


「イヴ? なぜあいつを知っている?」


「知り合いなの?」


「顔馴染みだ」


 そういや面識あったな。

 同時に稽古つけてやったこともあったはず。


「そうそう、ちょこっとだけ時期が被ってんだよ。なんかイヴ生きてたぞ」


「そうか。まあ不思議ではない。あいつの師匠への執念は尋常では無いからな」


 さらっと受け入れおった。何この魔王、器でかい。


「懐かしいな。そういやお前ら仲いいのか悪いのかわからんかったなあ」


「先生は意外とそういうことを忘れていますわね」


「そりゃずっと前だからな。大抵は別の異世界で冒険中だし、思い出す機会が少ないのさ」


「そうやって他の女神も忘れて泣かせているのだろう?」


「ぐふう!?」


 俺の心に深刻なダメージが入る。

 こいつ察しがいいな。流石は魔王であり俺の弟子。


「美由希・アリアが泣きそうでしたね」


「クラリスさんも忘れかけてましたわ」


「これは私たちも忘れられる可能性がありますね」


「ないない。っていうか仕方ないだろ。基本的にいくつもの世界を一緒に巡ることは少ない。もう二度と会わないし、長いこと旅を続けていれば、最近のことを優先的に思い出すもんだ」


 完全に忘れたわけじゃない。ちゃんと思い出せる。

 ただ記憶と世界の真理とかで膨大な量なんだよ。


「どうしても新しい世界や女神、倒した魔王のことが浮かぶからな。逆にジンは女神のこと覚えてんのか?」


「よほどの強者……イヴクラスでなければ興味はない。最悪貴様にリベンジできればいい。道中の敵も興味なしだ」


「敵は俺も覚えてないんだよなあ……」


「ザコばかりだからな」


 いつからだろうな。記憶に残る敵すらいなくなったのは。

 ちょっと寂しいんだよなあ張り合いがないの。


「いいなー強くて。手っ取り早くそのパワーくれないもんかしら」


「やめとけ。制御できないから」


「普段から暴れないようにすればいいんでしょ?」


「違う。そういうレベルじゃない」


「詳しい説明を求めます」


 急に力を手にするというのは、半端な力だと危険だ。

 だが俺たちクラスになるともう危険とかじゃないんだよ。

 これは話しておくべきか。


「女神の加護ってあるだろ」


「いまさらですね。異世界転移させた人間や勇者に与えるものでしょう」


「そう。大抵はその能力を無効化すればいい。けど俺やジンはもうそういうことじゃない」


「つまりどういうことですの?」


 ちょっと真面目な空気が流れる中、なるべくわかりやすく話す。

 あんまり自分の力自慢みたいになるのは好きじゃないが、こういう場合は仕方がないだろう。


「極端な話、全部の加護を無効化能力とかで消されるとするだろ? それでも俺たちは鼻息や指パッチンとかデコピンで全世界を一瞬で消せる。純粋な身体能力だけで」


「百兆分の一の力も出さずにな」


「やっぱおかしいわよ……」


「相変わらず人間でも何でもないスペックですね」


「ちょっと想像できませんわ」


 まあ引かれるよね。ドン引きは考慮しております。

 でもいきなり強くなると危険なので教えておきましょう。


「そんなもんを段階踏まずに習得してみろ。間違いなく宇宙ぶっ壊れるし、脳みそおかしくなる」


「救うはずの世界を消滅させる。魔王よりタチが悪いな。クックック」


「あまり否定できんのが痛い……だからパワーはゆっくり習得しましょう。特殊能力とかも、基本的には体がすごく頑丈なら効かないから。まず鍛えろ」


「それでどうにかなるのは先生だけです」


「俺様とイヴもできたぞ」


「嫌な前例が増えていきますわ……」


 ちなみに勇者パーティーの連中もできるよ。

 つまり女神ほどの素質があれば、大抵は鍛錬でどうにかなる。


「鍛えるのは大切だ。魔法のオートガード機能とかも便利だが、最終的にはどんな攻撃も能力も鍛えておけば筋肉がガードする」


「でも宇宙が消えるほどの力が来たらどうしますの?」


「そんなもので倒せる三下など、どのみち死ぬであろう」


「別に全宇宙が崩壊しても、時間巻き戻すか、新しい世界と宇宙をぱぱっと作ればいい。修復は簡単だ。壊すのがダメ」


 勇者や女神というのは、世界を守ったり、悪を討つものです。

 それが破壊に偏っているとおかしなことになる。

 それをちゃんと教えてやらないとな。


「だからこれからも魔力と体力の鍛錬は続くぞ」


「うえー……やっぱりあるんだ」


「フン、駄女神のまま師匠に手間を掛けさせるな。俺様のリベンジタイムが減る」


「いやお前もう帰れって。また異世界救って修行しててくれ」


「次のリベンジは何百年後だ?」


「んー……どうすっかな……じゃあたまーにこいつらの教材になれ。呼ぶから。そしたら何かで勝負してやるよ。それまで異世界を救い続けて、さらに強くなっといて」


 あんまり女神界に魔王が長居するのもよろしくないだろう。

 できる限りゲスト的な形で呼びたい。


「まあ落とし所としては妥当か」


「先生にボロ負けしたんだから、今のあんたじゃ勝てないってことよね?」


「やかましい駄女神……だが事実だな。よかろう! 貴様の代わりに異世界を救っておく! 次の俺様はさらに強くなっているぞ!」


「おう、期待してる。基本的に俺は女神界から出ないから」


「うむ、さらばだ師匠! そして皆の衆! ハーッハッハッハッハッハ!!」


 唐突に現れ、嵐のように去っていった。

 これでとりあえず授業が進むな。

 

「よし、じゃあ授業するぞー。さっきも話したが、強すぎる力と魔界についてだ」


 今はこいつらをちゃんと鍛えよう。

 今の俺は勇者でもあるが、駄女神の先生なのだから。


 第三部 完。

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