お嬢様でも駄女神だよ

 さて今日も今日とて授業だ。いつもの場所でいつもの四人。

 お昼前のちょうど腹が減ってやる気が出ない時間である。


「つっても毎回内容考えるのは難しくてな」


「なんにも思いつかなかったのね?」


「というかお前ら成長してきたろ? しかも新スキルを与えたばかり。それの訓練一辺倒になりそうでな。ちょいと工夫が欲しい」


「まったく別のことをするということですの?」


「でなきゃ特訓をする」


 その特訓も内容が思いつかないと困るんだけど。さてどうする。


「確かに、斬新な特訓法は必要ですね」


「なんかこう……あれするのよ。鉄球を」


「なんで特訓イコール鉄球なんだよ。前も聞いたぞ」


 そこそこ前に聞いた。過酷な訓練と聞いて思い浮かべるものが鉄球らしい。


「トゲ鉄球とか使うわよね?」


「何知識だそれ」


「わかんない。他にある?」


「火だるま鉄球はどうですの?」


「鉄球禁止で」


 何かやりたい特訓や、やってみたいことを聞いてみよう。

 そういう所からヒントを得るのだ。


「難しいですね」


「悟りでも開いてみる?」


「できねえよ。あれめっちゃ時間かかるぞ」


「なぜ普通に達成しているのですか」


「前にチャレンジしたから。それほど強くなるわけでもないし、無駄に時間かかるから却下」


 そこで時計を見たサファイアが提案してきた。


「メロンパン作りましょう」


「完全に腹減っただけだな」


「だってお腹へったし!」


「ここで運動は厳しいものがありますね」


 俺も動く気分じゃないしな。

 かといってなにも進展なしじゃあまずい。


「学校っぽいことをしませんか?」


 ここでローズから意外な提案。

 駄女神を強くして、立派な女神にすることに重点を置いていたが、ここは学校。


「なるほど。悪くないな」


「先生は学校って行ったの?」


「色々行ったぞ。スポーツとか、音楽とか、忍者とか、女装してお嬢様学校とか」


「最後どういう事よ!?」


 あんまり触れないでください。俺も封印したい記憶です。


「破廉恥教師ですね」


「その頃まだ先生じゃねえよ!」


「それでもどうかと思いますわ」


「しかたねえだろ敵がそういう連中だったんだから……女神にやれって言われました」


「苦労してんのね……」


 なんか同情されています。いやもう異世界って不思議がいっぱいあるよね。


「ではお嬢様学校での変態的なエピソードをどうぞ」


「ねえよ! なんもねえって!」


「えー着替えとかどうしてたのよ?」


「誰もいないうちにやる。幸い自分の部屋は個室だった」


 時間停止と着替え魔法は超便利。なかったら光速で着替えりゃいい。


「同室の子がいたら詰みね」


「マジで危ねえな。入浴時間とか気をつけないと、はち合わせるだろう」


「ほう、お嬢様の裸体はどうでした? 私を超える裸体があるとは思えませんが」


「見てねえよ。あと人間が外見で女神を超えるって難しいんだぞ」


 こいつら見た目だけはいいからな。女神ってのはそういうもんなのだろう。


「そういえば、わたくしも着替えやお風呂で会ったことが……あら? ありましたか?」


「俺そういうの無いんだよ。何故か知らんがね」


 昔からいわゆるラッキースケベというものに遭遇しない。

 ゼロとは言わないが、めっちゃめちゃ希少である。

 別にいまさら女の裸に興味もないし、どうでもいい。


「女に縁はない。逆にそういう事が起きない体質なのかもな」


「この家では初日に会ったわね」


「ああ、あれは油断していた。超レアケースだ」


 実は驚いていた。いつもの俺なら、間違いなく出会わなかっただろう。


「そんなわけで結構自由行動しても気づかれなかったよ」


「よくばれませんでしたわね」


「結構頑張ったぜ。それに比べりゃここは楽な学校だよ。生徒も少ないし、飯も美味い」


「お金持ちの学校じゃないの? ご飯も高級でしょう?」


「食った気がしねえ」


 量も少なければ、味も薄い。たまに出る珍味とかも扱いが雑。

 ぶっちゃけ俺が作ったほうが美味い。その頃には料理マスターしてたし。


「高級食材で作っちゃえばいいじゃない」


「昔な。A5ランクの牛肉で、特盛牛丼作ったことがある」


「おいしそうですわね」


「美味かったよ。けど二度食いたいもんじゃないな。ああいう料理と高級品って合わないんだよ」


 雑な食い物には雑な味が似合う。

 これは俺の味覚の問題だから、人によって違うだろうけどな。


「ふーん……じゃあ今日の授業はお嬢様よ!!」


「学校の話どこ行ったんだよ」


「女神には気品も必要です」


「気品ゼロだもんな」


「失礼ね! 優雅さハイパーマックスよ!」


 こいつ一応女神女王神の娘的ポジションだよな?


「気品とかそういう教育も必要なのか」


 こりゃ記憶を掘り起こさないとな……あんまり思い出したくねえなあもう。


「できるのですか?」


「できるけど……めんどくっせえ……いいやちょっとだけ触りの部分やって飯にするぞ」


「触っておかずにする」


「言い方悪いわ!」


 そんなわけで三人をお嬢様っぽい学生服に替える。


「はいじゃあ優雅にお辞儀とかしてみようか」


「ごきげんよう」


 スカートの端をつまんで優雅なお辞儀。

 カレンはこういうのができる。

 お嬢様っぽいのは口調だけではないのだ。


「おおー、それっぽいわね!」


「感心してないでお前らもやれ」


「しかし掴むスカートが無い場合はどうすれば?」


 当然の権利のように脱ごうとしているローズ。


「脱ぐなや! 裸は下品だろうが!」


 しっかり脱げないように魔法かけてやった。

 俺はこんなことのために魔法覚えたわけじゃないのに。


「ですが有名な彫刻や絵画などは裸もありますよ」


「今やってんのお嬢様だから! 誰が芸術作品になれと言った!」


「オーッホッホッホ! なっちゃいませんわねローズさん!」


「その高笑いも違う!」


 サファイアはサファイアでまた勘違いしている。


「えー、漫画とかでこういうのいるじゃない」


「いるけどそれ悪役だろ」


「悪役令嬢ね!」


「何でそういう知識だけあるんだよお前は!!」


 半端に漫画の知識があるぶん矯正がめんどい。

 逆に活かしてくれたりすると期待したのに。


「令嬢という点では同じでは?」


「そうなんだけどさあ……」


「オーッホッホッホッホ!!」


「似合ってねえからやめろ」


「よろしくってよ!!」


 そこから歩き方や話し方講座に入っていく。

 まさかお嬢様学校でやったことが活かされる日が来るとは思わなかったぜ。


「とまあこんな感じだ」


「誠にありがとう存じますわ」


 カレンはもう完全にお嬢様だな。


「素晴らしいですわ、カレン様」


「ええ、お美しいですわ」


 こいつらはどうもコスプレ感が抜けないが、まあマシになってきている。


「あと聞きたいことはあるか?」


「メイドはどこで買うとお得ですか?」


「野菜か。スーパーで野菜買うんじゃないんだぞ。今日はそこまでやらん」


 メイドの訓練もさせたら、ちっとは静かになってくれるだろうか。


「執事の名前はセバスチャンですの?」


「自由に名乗らせてやれ」


「フェイバリットホールドはどうするの?」


「フェイバリットホールド!? ねえよ! 誰に技かけるんだよ!!」


「そりゃ敵の令嬢じゃないの?」


「もう令嬢ってなんだよ……」


 いかん俺の中で令嬢がなんだかわからなくなってきた。


「口に咥えるバラはどこで調達しますか?」


「いらねえよそんなもん!」


「バラで攻撃とかしないの?」


「まず攻撃がおかしいんだよ! 戦うことをメインにするな!!」


 なんで令嬢がバトルで定着したんだろう。原因がわからん。


「じゃあ紅茶を優雅に飲む訓練とかどうかしら」


「普通に落ち着いて飲めばいいんだよ。失礼のないように」


「では練習のために紅茶とケーキを希望します」


「結局腹減ってるだけか!!」


 駄女神どもの腹が鳴ったのと同時にチャイムが鳴ったのでここまで。

 普通に昼飯食って、放課後に紅茶とケーキを作ってやった。

 大好評だったが、なんか予定と違う気がするのは気のせいだろうか。

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