信長さんの取材でも駄女神だよ

「はい、今回はお忙しい中、知り合いの織田信長さんにアポが取れました。本日はよろしくお願いします」


「お願いしまーす!!」


 安土城の天守閣に、元気良く響く駄女神どもの声。

 今回は人生をループし、様々な異世界やら未来人を家臣にしてきた信長にインタビューすることにした。


「うむ、よろしく」


「今日は異世界人はいないのですか?」


「おらんよ。この時期はまだ来ないようになっておる」


「今川と戦うずっと前だからな。そこから改革する場合、織田軍以外に行くケースが多いぞ」


 このへんのさじ加減は時期によっても変わるので、確定ではない。

 だが暇な時間なのは知っていたので連絡取った。

 わざわざ未来予知とか駆使したよ。久々に使ったわ。


「勇者には恩もある。今日限り質問を受け付けよう」


「先生何やったの?」


「異世界人とか未来人が増えて、歴史戦略ゲームっぽいことやりだしたから、一回俺と信長さんで天下取って、世界の在り方を変えた」


「どえらいことしてるわね」


「なかなか痛快であった。どうだ? また儂と天下を取らんか?」


「やめとく。俺はやっぱ勇者がいい。今は先生だしな」


 確かに楽しかったし、先生やってなかったら乗ってた話かも。

 まあ半分冗談で誘っているのだろう。こういうのはよくあった。


「はい昔話はここまで。今回は戦国時代に転移という状況で、転移者にする注意や、女神としての振る舞いを勉強するぞ」


「はーい!」


 返事だけはいいんだよなあ。

 今回でちょっとは成長してくれよ。


「えーまず前提として、女神という身分はあまり利用すべきではない。なんなら人間界に来るべきでもないのう」


「裏方に徹しろということですか?」


「戦国時代はのう……本願寺という勢力がおる」


「ゲームとかでなんかやたら強くて数がいるわよね」


「うむ、あやつらがおるし、仏教以外にもザビエルとか来るじゃろ。そこで女神じゃ。頭がおかしくなったか、異教徒扱いなんじゃよ」


 これひっじょーにめんどい。

 たまにそういう世界もある。お前女神って何教のだよ的な。


「ごく一部の例外を除いて、女人が戦場で指揮を取ることもない。はっきり言って危険じゃ」


「転移者に加護を渡すにとどめるのですわね」


「うむ、おすすめじゃな」


 よしよし真面目に聞いているな。

 信長の威厳がありつつもわかりやすい解説と体験談は面白い。

 駄女神も興味持ったみたいだし、この調子で進んでいこう。


「女性武将はいないのですか?」


「ほれ、未来でなんか一時期ブームになった……」


「井伊直虎か?」


「そうそうあやつじゃ。あやつは例外じゃ。そもそもなんで今頃ブームなんじゃあやつ」


「もうブーム終わったわよ」


「……現代日本は良いのう……娯楽が山程有りおって」


「信長はここが現代だろうに」


「いやもうエアコン無しとかきっついわ」


 天守閣エアコン完備である。

 異世界とか未来とかなんか理由あったけど忘れた。


「あとは……なんでもかんでも未来の知識を使えるわけではない」


「具体的な例はありますか?」


「うーむ、水道管と蛇口と下水道はきついじゃろ。しかし治水工事や作物の育て方、衛生面の注意や、戦闘における陣形や戦術は聞いても良い」


「最新式の鉄砲や装備はどうですか?」


「まず材料がないんじゃよ」


「ああー……」


「資源も無限ではない。物事には順序があるじゃろ」


 日本というのは、基本的には小さめの島国である。

 それを分割しまくっているのだから、そりゃ資源は貴重さ。


「基本的にそういうもんだよ。戦争やってるから余裕がない」


「先生の時はどうされましたの?」


「俺が無限錬成した」


「こやつは例外じゃ。英語で言うとイレギュラー。参考にしてもろくな目には会わんぞ」


「しょうがないだろ、あん時は危なかったしな。あまり手段を選んでいる場合じゃなかった」


 濡れてもいい連発できる火縄銃とか作りまくった。

 流石にアサルトライフルとかは自重したけど。


「昔から妙なところで頑固じゃのう。よいから巨大ロボ使わせろというのに」


「よくねえっての。そういう戦国じゃないから禁止です」


「巷では女体化武将が流行っていますが、ああいう世界はどうすれば?」


「基本その世界の信長によるが……まあ女神でも武将になれるじゃろ。比較的ゆるい、シリアスよりはギャルゲ的な部分が多い世界のはずじゃ」


 ガッチガチの戦国世界で女体化武将ってあんまりないんだよな。

 いつも超技術か魔法っぽいものがある。さらに妖怪とかいたりします。


「詳しいわね……戦国武将なのに」


「何本か監修したからのう」


「監修!?」


「ちなみに俺もやらされた」


「本当に何してますの……」


 何してたんだろうね……ちょっと楽しかったよ。

 マスターアップおめでとうの横断幕を家臣が作っていたね。


「それ売れたの?」


「何本かファンディスク出たぜ」


「もう勇者でもなんでもありませんね」


「はいはい話がそれたぞ。今は戦国時代のお話です」


 強引に軌道修正しよう。信長の時間は貴重なのだ。


「まあ武将が男女どちらでも、目指すところは天下統一じゃ」


「最終目標ですね」


「ここで問題なのが、歴史をどう使うかじゃ」


「どうって?」


「わしはよく裏切られる。たとえば信行じゃ」


「二回裏切ったんだっけ?」


「うむ。兄弟ですら裏切るのが戦国の世じゃ」


 わざわざ一回許し、仮病でおびき出して処罰、というのが一連の流れだ。


「ここで裏切るということを知っていても、証拠がない。そして結局裏切るのじゃ、しっかり準備して迎え撃つことが得策じゃな」


「二回許したら仲間になったりしませんの?」


「そうそれじゃ。そのありがちな発想じゃよ」


「ありがちって……」


 歴史を知っていると、その場さえ解決すれば別ルートに行くと思いがち。

 しかし、実はもうちょい複雑だったりする。

 セーブとロードを駆使できないとしんどいのだ。


「ゲームでもあるじゃろ? 二回許したらずっと家臣とか」


「あるわね……って違うの?」


「あやつな、七回裏切りおった」


「多いわね!?」


 めっちゃ多いよ。松永久秀より裏切ったもんあいつ。

 マジでどんなメンタルしてんだ。


「もうあれじゃな、儂のこと諸葛亮か何かだと思っちょるわ」


「ああー、南蛮戦の」


「孟獲を捕まえては逃したんですっけ」


「そうそれじゃ。まあ今は戦国の話じゃからいいとして、もう裏切ってばっかりで全然天下布武とかできんわけじゃよ」


 まさかのラスボスっぽいムーブですよ。

 あいつ兵とかどうやって集めてたんだろう。今頃気になってきたぞ。


「あいつ光秀が裏切った直後に裏切ったりするからな」


「ダブル裏切りじゃな」


「もうよくわかりませんわ」


「しかも光秀が裏切ること知らなかったからな信行」


「もう趣味の欄に裏切りって書けるほどじゃよ」


 歴史の知識を使い、光秀に対抗できる軍を潜ませていたら、逆方向から信行の軍が来たことがある。


「光秀の軍に儂の援軍だと思われて斬られておった」


「えぇ……」


「逆に光秀は裏切る理由がちょこちょこ変わる。何なら裏切らないこともあるぜ」


 ここはIFルートの妙とでも言うべきか、なかなか見応えあって好き。

 基本的に平和と望んでいることは確かだし、理由によっちゃ過失もないしな。


「しかしきっかけが変わるのでな、こちらは半端な歴史だけでは通用せん。戦国の世をよく知る必要が出てくるわけじゃ」


「現地での情報収集は大切ということですね」


「うむ。是非も無し」


「あ、信長っぽい」


「本人じゃって」


 喋ってのどが渇いたので休憩タイム。

 冷蔵庫からアイスティーと金平糖出てきた。


「相変わらずの甘党か」


「戦国の世は、とかく頭を悩ませる。糖分は必要じゃ」


「歯は磨けよ。俺が虫歯にならないようにしてやったからって、口臭とか抑えられないぞ」


「わかっておるわ。母親かおぬしは」


 もう完全に雑談タイム。

 景色もいいし、穏やかな時間が流れていく。


「さっきの話で裏切りってあったけど、松永久秀とかも裏切るわよね?」


「確か天守閣で大爆発するとか」


「あったな……俺が信長連れて天守閣に行ったんだよ」


「純粋にどんな会話があったのか興味があります」


「どうっていうか……許しはしたんだよ」


 ちょっと別のインパクトが強すぎて、会話内容がうろ覚えです。

 横で金平糖ボリボリしてる信長も、ちょっと困り顔だ。


「うむ。何度裏切られようとも、今回のルートでは信じようと思っての。ただ……」


「ただ?」


「久秀の横に信行がいた」


「また信行!?」


「どうしてそこにいますの……」


「いたっていうか、爆薬に点火して襖開けてすいーっと帰っていった」


「どういうことよ!?」


「わからん。本当にわからん」


 あいつだけ完全に浮いていた。宿命の対峙! っていう雰囲気ぶち壊しだったよ。


「なんか馬鹿らしくなってな。久秀が仲間になった」


「案外それが狙いとか?」


「それは絶対にない」


「ないのう。儂が天下統一して、これから新しい世じゃ! という時に裏切りおったし」


「最悪じゃない……」


「流石に斬ったわ」


「全員がもうええわ!! っていう気持ちだったな」


 今回ほぼ信行の話で終わりそうで危なかったぜ。

 そこからちゃんと戦国豆知識とか、武将との接し方、戦国に合う政策合わない政策なんかの話をした。


「はいじゃあここまで。ありがとうございました」


「ありがとうございましたー!」


「うむ。また来ると良い」


 別れを告げて、四人で転移魔法陣に乗る。

 俺も久しぶりに会えて楽しかった。また来よう。


「勇者をよろしく頼む。放っておくと寂しがるくせに、何でも自分で解決しようとするからのう」


「やかましいわ。そっちこそ甘いもん食いすぎて早死にするなよ」


「また来ます」


「ご恩は忘れませんわ!」


「天下統一してね!」


「うむ、是非もなし!」


 こうして有意義な授業は終わった。

 信長はタフだし、また誰かと天下統一を目指すだろう。

 俺も頑張って先生やらないとな。

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