決戦闇忍学院

 龍一とフランが向かった場所へ行くと、そこには建物すら消えていた。

 大急ぎで場所を特定し、闇忍の総本山へと到着。

 現れる妖怪と闇忍を薙ぎ倒し、霊力探知開始。


「邪魔だ」


 群がる巨大な鬼を蹴り飛ばし、無数の骸骨を殴り抜け、念の為聖なる力で浄化。

 上忍は妖怪じゃないから浄化されないか。適当に殴って気絶させておく。

 龍一の霊力発見。おそらく闇忍学院の最上階だろう。


「そこか」


 気配を頼りに瞬間移動。

 半壊した部屋と、倒れている龍一を発見。

 他にも色々いるな。フランもいるが……ちょっと様子がおかしい。


「待たせたな」


「遅えぞ……勇太……」


 まだ意識があるようだ。こちらに顔だけ向けて笑っている。ナイスガッツ。


「悪い。ちょいと学園でも妖怪が出てな」


 龍一にとどめを刺すためだろう、やたらでかい拳が空間転移で移動している。

 ちょっとまずいな。出現地点に先回り。


「ほっ」


 出てきた拳をぶん殴る。景気良く弾け飛ぶ音がして、奥にいる妖怪が消し飛んだ。


「織部? どこへ消えたの!?」


 悪の女幹部っぽいオーラを漂わせ、フランが誰かを心配している。

 妙な霊力をしているな。ひどく不安定だ。


「おっと、悪い龍一。今回復する」


 横まで移動して回復魔法をかけ終えた。あとは心が落ち着くのを待ってやろう。


「あのフランはなんだ? なにがあった?」


「継承の儀だ! 香蘭って闇忍が、フランと融合しようとしてんだよ!」


 なるほど、確かに二人分の魂があるな。

 そこで自分の体が癒やされていることに気がついたのか、ぺたぺたと触って確認している。


「おぉ? おおぉぉぉ! なんか体が軽いぜ!」


 龍一も元気に立ち上がってくれてよかった。


「回復はしておいたよ」


「意味わかんねえけどサンキュー勇太!」


 あとはフランを助けて帰るだけだ。それだけでいい。


「織部をどうしたの?」


「おりべ?」


「勇太が殴って消した妖怪だ。あいつも十傑だってさ」


「ほー」


 学園に現れた妖怪も人間ベースだったな。


「なるほど理解した。つまり浄化して香蘭っての倒せばいいんだろ」


「無駄な抵抗を……頑張っても帰る場所なんてないわ。今頃特忍学園は妖怪の巣よ」


「もう終わったよ。あんな子供騙しでどうしようってんだ?」


 あんなもん全滅させて浄化するくらいできなくてどうする。

 コツ教えたらゼクスと創真もできたぞ。


「プッ、クククク……特忍というのは、はったりの下手な連中ね」


「まあそういう反応だよな。わかるぜ。オレもお前の立場ならそうなる」


「蛇眼、やれ」


 面倒だ。直接見せたほうが早いだろう。

 蛇眼ってやつが転移中の空間に右手を突っ込み、無理やり全身を引きずり出す。


「なにっ!?」


「こいつもう死んでるのか。そのまま地獄に行け」


 解析完了。頭に触れて浄化開始。魂は人間だった頃に戻り、天へと昇った。


「まあこんな感じだ」


「ありえないわ……それがどれだけ複雑で、深い怨念の塊だと思っているの」


「これでも勇者でね。そういうのは慣れっこなのさ」


 俺の横に龍一が立つ。

 ベルトから光と音がして、一気に莫大な霊力が集まり始めた。

 やっぱ見たことあるやつだ。


「あとはお前だけだ。フランは返してもらうし、オレの借りも百倍返しだ!! 変……身っ!!」


 霊力がその純度を増し、目に見える鎧となって龍一を包んだ。


「やっぱ光一郎か」


「オレのこと、思い出したのか?」


「おう、でっかくなったなあ。もう立派なヒーローだ!」


 完全に思い出した。思えばヘスティアに資料を渡された時、行ったことがある気がしていたんだ。

 あの忍者村の人が使っていた術だなこれ。

 精度が恐ろしく高いのは、本人の修練の賜物だろう。


「勇太のおかげで、ここまで強くなれたぜ。だがなんで若いままなんだ?」


「勇者に不可能はない」


「ははっ、今となっちゃ一番説得力あるぜ」


 別世界は時間の流れが違うので、厳密には違うがまあいい。

 そんなこんなで和やかなムードになりかけたのに、フラン……香蘭が霊力で威圧してきた。


「舐めるなよ。勇者だかヒーローだか知らないがね、十傑の技術を代々受け継ぎし継承の義はもう完成しかかっている」


 そこそこ大きな霊力が、十人の誰かへと変わっていく。


「なんてでっけえ霊気だ。それにあれは……過去の十傑!?」


「ああ、いたな。あんなやつら」


 四天王とか八人衆とかアホほど見てきたが、そこそこ弱い部類だったはず。


「まだまだ! アンタらは地獄にすら落としゃしないよ!!」


「なんかキャラ変わっちまってるぜ」


「俺が来る前はどんなだった?」


「もっと余裕がある大人の女っぽかったぜ」


 焦ると地が出るタイプか。雑談中にも人は増える。


「十傑なんだから十人で納めろよ」


「これは全員過去の十傑よ。継承の儀は、代々十傑の技術を鍵に習得させ、体を替えることでより最強の学院長を作り続けるシステム」


「にしちゃあ弱かったぞ」


 忍者の世界も複数行った経験がある。別に突出して強くなかったぞ。

 あれがトップなんて想定外だよ。


「そう、そこよ! 予言の男! アンタさえいなけりゃよかったんだ!!」


 激怒している香蘭。声がかすれるほど叫んでいるのが痛々しい。

 その顔は妖怪より妖怪っぽかった。


「あんたは強い。けれどそっちのガキを守って戦える? 鍵の小娘をどう助けるつもり? なめんじゃないわよ!!」


 莫大な悪しき霊力が部屋を、そして学院の敷地を埋めていく。


「おぉ、やるな香蘭。ちょっと期待できそうだぞ」


「言ってる場合かよ。なんか作戦でもあんのか?」


 もちろん考えてある。というか考えるまでもない。


「フランから引き剥がすのは楽勝だ。けど前に見た殺人マシーンモードに入っちまうだろうな」


「構わねえよ。そこまでお膳立てしてもらって、ダチの一人くらい助けられねえで何がヒーローだ。必ず助ける」


「そうだな。龍一はもう特忍。ヒーローだもんな」


 この世界の主役は、ちゃんとここにいる。

 世界に希望の火が灯っているのだ。ここはひとつ、その火を大きくしてやろう。


「じゃああの香蘭から出てくる面白そうなやつらは」


「好きに遊んで来いよ」


 それだけ聞けたら十分だよ。

 光速で香蘭のもとへ移動し、霊波をぶつけて霊体になった香蘭を引っ剥がす。

 ついでに十傑の霊体も壁際へ。


「んじゃあとは任せた」


 倒れる前に戦闘マシーンとなったフランが襲ってくる。

 黒い霊力に包まれ、まるで龍一と表裏であるようだ。


「お前の相手は……オレなんだよ!!」


 龍一のアシストが入り、俺と香蘭とは真逆へと移動していく。


「頑張れよ、光一郎」


 それじゃあ俺は俺の敵を倒しますか。もう十傑が三十傑くらいになってるし。


「殺してやるわ……アンタを消して、闇忍を再興する。そのための贄になれ!!」


 十人ちょいが一斉に得意の術で襲ってくる。

 とりあえずくらってみたが、やはりぬるい。

 技だけならゼクスでいいや。全員まとめて殴って散らす。


「もうちょい本気で来いよ」


「この……調子に乗んじゃないわよっ!!」


 今度は遠距離攻撃か。二十人ほどの十傑幻影が、俺を殺すためだけに印を結ぶ。

 残念だが、それはもう見たことがあってな。


「水遁、火遁、風遁、水遁、火遁、時空、時間、運命、因果、土遁と」


 二十人より速く、全員分の印を結び、それぞれの術とぶつけてやる。

 見事俺の術が押し切り、全ての幻影は消えた。


「うそでしょ!?」


「残念。このくらいなら創真達でもできるよ。きっと」


 もうすぐ香蘭だけになる。あと八十人くらいだろう。

 龍一の様子でも見ながら倒そうか。


「フラン! オレだ! 龍一だ! 目を覚ましてくれ!!」


 少々苦戦気味かな。だが霊装術が強固なのだろう。

 身体能力も上がるようで、フランの攻撃を紙一重で捌き切っている。

 そしてなにより。


「いい加減にしやがれ! お前は特忍だろ! そんな力に負けんじゃねえ!!」


 龍一の言葉が響いている。

 俺達の中で一番長く過ごした龍一だからこそ響くのだ。


「お前はいつも自信満々で、余裕があって、強敵だろうが諦めなくて、推理の勘もあって、犯人逮捕や妖怪退治もできて、特忍学生のSランクだろ!」


 彼女が持つ二本のナイフを装甲で防ぎ、銃弾を潜り抜けて力の限り叫ぶ。

 それを無視するかのように、フランの指先に暗い霊力の弾丸が形成される。

 その波動はあまりにも大きく、龍一の霊力を完全に上回っていた。


「こ……のおおぉぉぉぉ!!」


 両手から全力の霊波を出して抵抗するも、一点集中した弾丸には負けるようだ。

 加えて霊装術の維持もしなければならない。

 ついに霊波を打ち消され、一瞬足がふらついた龍一めがけて弾が飛ぶ。


「しまっ!?」


 助けようかと思ったが、そうか。あいつには仲間がいるんだよな。


「フラン! 龍一さん!」


 フランの霊波弾を、横からめちゃくちゃな魔力で弾き飛ばしたエリゼ。

 強力な転移忍術で来たらしいが、これはエリゼの力じゃない。


「なんだあ? まだちんたらやってんのかよ。オレ様が全部やっちまうぞ」


「君の力はその程度ではないはずだがね、ヒーロー君」


 その後ろからゼクスと創真も来た。

 どこにも傷はないようだな。まあ当然か。


「お、やっと来たか」


「お前ら……どうやって……」


「ここは我々の古巣だよ。転移など容易い」


「ゲハハハハ!! テメエこそなんだその格好はよ!」


「うっせえ! かっこいいだろ! こっから大逆転するんだよ!!」


 いつものやりとりだ。だがその最中でも攻撃は来る。

 そしてそんなことは承知の上なのだ。


「ウラア!!」


「生徒の一人くらい、助けてみせなければね」


「フランさん! 正気に戻って!」


 四人のチームワークは完璧だ。

 本来フランも合わせ、五人で修行していたのだから、その過程で蓄積されている。


「ちっ、殺せねえ相手ってのはうざってえもんだなあ」


「くっそ、どうすりゃフランを助けられる!」


「龍一さん。私に考えがあります」


 エリゼがこちらを見てくる。真剣な眼差しで、許可を得るために。

 無言で頷く。やっちまえと。自分を、仲間を信じろという思いを込めて。


「教えてくれエリゼ。どうすればいい?」


「私の加護を、お二人に授けます。思いを伝えて、紡ぐのです。友情の絆を」


「よくわかんねえが、なんか力をくれるってことか?」


「はい。あとはお二人らしいやり方で終わらせてください」


「はっ、気楽に言ってくれるぜ! 乗ったあ!!」


 フランの猛攻が、暴風のように続く。

 銃も格闘も忍術も混ざりあった十傑の動きは、ゼクスと創真に止めてもらう。

 その隙にエリゼが、女神リーゼが覚悟を決めた。


「女神リーゼの名のもとに、龍一とフランに新たなる加護を!!」


 天より降りた光の柱が、龍一とフランに力を与えていく。

 その光景は、戦闘中だと言うのに神秘的で、思わず手がとまる。


「女神か……神は初めてお目にかかるね」


「人間じゃねえとは思っていたが、面白え。退屈しねえなあオイ」


「また……またワタシの知らない力だと!?」


 俺はというと、もう香蘭と幻影数人を残して殲滅していた。

 観戦しながらでも倒せてしまうことにちょいがっかりだ。


「フランの嬢ちゃんにまで加護を与えちまっていいのかよ?」


「いいんです。これは絆の加護。信頼する人が紡ぐ想いが多く、強いほどに力を増す。心は、魂は力なんです!!」


「フラン! オレはぜってえ諦めねえ!!」


 恥も外聞もなく大声を張り上げて、やっていることは肉弾戦。

 ただ目の前の相手との殴り合いだ。

 それはトレーニングで何度も見た光景。


「いつからそんな腑抜けになった! 闇忍の術なんぞにいつまでかかってんだよ!」


 納得がいかないのだろう。フランが、自分が認めた特忍が、悪に染まっていることが。


「最後の最後には正義が勝つ。特忍はそういうもんで、そうじゃなくちゃいけないって、そこだけは意見が合ったよなあ!!」


 確実に、フランの動きが鈍くなる。

 肉体へのダメージだけではない何かがある証拠だ。


「黙ってないで、ちったあ言い返せよ! お前はフランだろっ!!」


 霊装術を解き、霊力と加護を拳に乗せて突っ走る龍一。

 呼応するかのように正面から走り出すフラン。

 次で決まる。


「うおおおおぉぉぉらあ!!」


 お互いの顔に右拳が入り、両者豪快に吹っ飛んでいった。


「おーおー、ド派手なこって」


「男女のやり取りではないね」


 だがそれがあいつららしい。

 その想いの乗った拳は、しっかりと届いている。


「う……うう、龍一?」


 フランの目に完全に光が戻る。邪気の全てを吹き飛ばしたのだ。

 悪しきオーラのすべてが祓われている。


「いってて……目は覚めたか?」


「あ……うん。その……ありがとう」


「気にすんな」


 ハッピーエンドっぽい空気のところ申し訳ないが、香蘭がお怒りだ。

 建物全体が揺れ、なんと香蘭が巨大な妖怪と化した。


「おのれええええぇぇぇぇ!!」


「うげ、なんだあの化物は」


「残っている霊力全部と巻物ありったけで妖怪になったか」


「認めない。こんなことで……ワタシの未来が汚れてたまるか!!」


 全身紫で、もう腕や足の位置がメチャクチャだ。

 顔がやたらでかいし、もう醜悪な何かである。


「んじゃ締めというこうか、龍一」


「どうする気だ?」


「決まってんだろ。勇者とヒーローがいるんだ。合体攻撃だよ」


 二人同時に空へと舞い上がる。

 霊力を足に込め、この汚れた学院ごと吹き飛ばす勢いで急降下。


「スウウゥゥゥパアアァァァ……」


「ダアアアアァァァブル!!」


 やはり最後の最後は必殺技だ。それがお約束ってもんだろ。


「閃・光・脚!!」


 二筋の光となって、悪しき野望を打ち砕く。

 巨大化した香蘭を貫通し、建物を超え、地面に激突して学院全体へと広がる光。


「闇が消える……ワタシの……闇……ああああああぁぁぁぁ!?」


 お決まりの大爆発を背に、びしっとポーズを取ったら退治完了だ。




 そして翌日、この世界に別れを告げる時がやってきた。

 俺とエリゼを送りに来てくれた龍一、フラン、ゼクス、創真と別れを交わす。


「本当にもう行っちまうのか?」


「ああ、この世界にはヒーローがいる。俺の役目はここまでさ」


 これからこの世界は少しずつ変わっていくだろう。

 闇がどれだけ広がろうと、それを照らす光は消えない。

 それが確信できたからこそ、俺はここを離れるんだ。


「ありがとな。みんなに出会ったおかげで、何か掴めたよ」


「礼を言うのはオレたちの方だぜ」


「いつかテメエも超えてやるからな」


「実に有意義な時間だった。感謝するよ勇太」


 修業の日々は俺にとっても楽しかった。

 未知の技術や、めきめき頭角を現す生徒は、俺の中でくすぶっていた気持ちを燃やしてくれたのだ。


「色々ありがとう。世界が違っても、エリゼも勇太も友達よ!!」


「はい! 私、絶対に忘れません!!」


 抱き合って、今にも泣きそうな声で別れを告げているエリゼとフラン。

 友人との別れははじめてのことかもしれない。

 しっかりお別れの言葉を伝えさせてやる。


「女神だろうが勇者だろうがダチはダチだ。気が向いたらまた来いよ!」


「おう! それまで負けんなよヒーロー!!」


「さようなら!!」


 新しい絆を胸に、俺とリーゼは元の世界へと帰るのであった。

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