フランの秘密と過去の事件

 ミコト様の元へとやってきた俺と創真にゼクス。

 なんとも豪華で広い謁見の間にて、ミコト様とご対面。


「率直に言います。フランの記憶に結界がかかっていました。あれについて聞かせてください」


「……そうですか。フランが」


 記憶結界は、ミコト様の霊力に似ていた。

 手順も俺の心を見透かそうとしたあの時にかぶる部分がある。


「訓練中、突然豹変して襲ってきました。何かあるはずです」


「苛烈な修練で錯乱したのでしょう」


 すっとぼけモードですよこれは。

 だからといって帰るつもりはないさ。勇者として見過ごせない。


「闇の十傑と同じ武術を使っていてもかい?」


「そう……あなた方は元闇忍でしたね」


「特忍が闇忍のガキ使って何やらかそうってんだ? 学院長でも脅そうってかあ?」


 闇忍コンビが詰め寄る。それを察して上忍さんが構えちゃった。


「やめい。戦いに来たわけじゃないだろ。俺は仲間が危険なら助けたいだけです」


「これは特忍の間でもS級機密。フランの暴走は忘れて、今までどおりに過ごしてはいただけませんか?」


「できません。言いふらしたりはしませんので、せめて事情だけでも……」


 そこで上から何か糸っぽいものが首に巻き付く。

 面白い素材だったんで巻かれてみた。


「おぉ?」


 上忍さんが先走ったみたいです。釣られて戦闘態勢に入る上忍の皆様。


「こんな形は不本意ですが、お帰りください。フランはあまりにも過酷な運命の中にあります」


「なら助けないわけにはいきません」


 勇者なもんでね。見過ごして生きていくのは主義に反する。


「動くな。このワイヤーは特殊繊維。少しでも不審な動きを見せれば、首と胴が泣き別れとなるぞ」


「こんな感じか?」


 すぽんっと俺の首と胴体を分ける。

 両手でしっかり掴んで、首だけを高々と掲げてみた。


「なっ…………まだ私は!?」


 首と胴を離す手段なんていくらでもある。

 痛くも痒くもないし、この程度で死ぬほど弱くもない。


「幻術……いや、霊力を感じなかった。いやあ不思議だね勇太は」


「俺は話に来ただけだってのに……少しおしおきだ」


 首を振りかぶりまして。


「ハイパアアァァ頭突きいいぃ!!」


 胴体に首を投げさせる。

 魔力を伴い上忍達をぶっ飛ばして怯えさせる俺の頭。


「うごえ!?」


「うわあぁぁ!?」


「くっ首がぶほあぁ!?」


 ついでにふわふわ浮いて、悪い笑いでもしてみるか。


「いーっひっひっひ!」


「ば、化物だあああぁぁぁ!?」


「誰が化物だこの野郎」


「いやどう見てもバケモンだろテメエ」


 ちょっと怖がらせただけだろ。なのにパニックになる室内。

 攻撃してくる上忍を、ささっと気絶させておく。


「無抵抗の人間に脅しをかけるんじゃない。首が取れたくらいで取り乱して、そんなんで平和を守れるのか? むしろ立ち向かう勇気を持て。お前らは喧嘩のために特忍になったのか?」


 とりあえずミコト様以外におしおき完了。

 しばらくじっとしていてもらう。


「上忍を無傷で……やはりあなたは異常です」


「そこは我々も同意するよ」


「さて、話してください。それで危険な目にあおうとも、それを突破できるくらいには強いつもりです」


 しばらく沈黙が続き、観念したのか語り始めるミコト様。


「予言です」


「予言?」


「当時の闇の十傑は最強。特忍の総力をもってしても決着はつかない。ともすれば負けるかも知れない。それほど強大な組織でした」


 ゆっくりと言葉を選んでいるような雰囲気で喋る。

 他人に話すことを想定していなかったんだろう。


「その十傑と、闇忍学院長はある秘術を試したのです」


「それが予言とどう関係あるのです?」


「その忍術こそ、未来を予言するもの。彼らは自分たちがこれからも最強でいられるのか。今の地位が盤石で不動のものか、不安にでも駆られたのでしょう」


「へっ、情けねえ話だぜ。自分の強さを疑うなんてなあ」


「そして予言は告げたのです。近い将来、何者かによって自分たちは壊滅する。学院長を残して、十傑全員が、たった一人に潰されると」


 えらい具体的な予言だこと。

 それを可能にするくらい、当時の連中は凄腕ってことか。

 そしてそれを倒したやつがいる。


「強いやつもいたもんだな」


「勇太の興味を引く相手かな?」


「だといいなあ。ぜひ一緒に戦いたい」


「あん? そいつと戦いてえんじゃねえのか?」


「ん? ああ……なんだろ? なんかそういうんじゃないんだよ。別にそいつ悪人じゃないだろうし」


 今は忍者やってるけど、俺は勇者だ。だから善人と戦う気はない。

 龍一やフランは、この世界で生きていく存在だ。

 だからできるだけ強化してやりたいので組手をする。


「んんっ、いいですか? その予言が全ての始まりなのです」


 咳払いをされてしまった。説明の途中ですみません。

 軽く謝って続けてもらう。


「自分たちの技術を失伝させぬよう、素質のある忍を探し、十人全員の戦闘術を極めた究極の闇忍を作る。その計画で誕生したのがフランです」


「驚いたね。我々も知らなかったよ」


「ああ、オレ様も聞いたことすらねえぜ」


「無理もありません。これは学院長と十傑だけで進められたもの」


「それをなぜあなたが知っている?」


「捕まるまでの十傑の行動を追い、偶然たどりついたのです。フランは結界を張られた闇忍の療養所にいました。保護しようとした上忍も手を焼くほど、完成されていたようです」


 かなり独特というか、全てを混ぜて、さらに独自の武術にすら達しそうだったな。

 あれは不意打ちで少女が使えば油断もしそう。


「それでフランの記憶に結界を張って、特忍として育てる過程で克服させようと?」


「はい。おそらく今回の暴走は、追い詰められ、修行場であった場所を思い出したのでしょう。死の淵で生存本能が結界を上回ったか。あるいは封印に綻びがあったか」


「で、フランをどうしたい?」


「できれば特忍として成長して欲しいと願っています。それはあの子の望みでもあるのですから」


 難しいな。記憶を消すことなら簡単だ。

 けれど、克服して生きるのなら、最後にはフランが頑張らなくてはいけない。


「暴走した時の記憶がないようでしたが?」


「闇忍の極意を得たフランは、徹底して無感情のまま殺戮を行う機械と化します。生物への情や仲間への思い入れに関係なく殺せるようにでしょう。ただし、闇忍に技術を学んだことと、自分が保護されたあとの記憶自体はフランも覚えています」


「記憶っていうよりは、殺人マシーンになる切っ掛けの部分だけを封印したということかな?」


「そうなります。そしてフランは何かの鍵であるとされています」


 鍵が何を意味するかは不明らしい。

 闇忍の鍵だ。ろくでもないことなのは確かだな。


「わかりました。とりあえずフランがまた暴走したら止めます。それ以上なにかしようとは思いません」


 こればかりは本人の問題だ。サポートはできても、出しゃばるものじゃない。


「このことを龍一とエリゼに話しても?」


「いいでしょう。友人は心の拠り所となるやもしれません」


「俺達が聞きたいことはそれだけです。いきなり来てすみませんでした」


 帰ろうとすると、創真が待ったをかける。


「私からも質問を許して欲しい。当時の十傑は私とゼクスから見ても強者揃いだった。それを十人同時に相手して倒せた特忍とは誰なんだ? 特忍学園長か?」


 そういやそうだな。それだけ強いんだ。もっと伝説が残っていても不思議じゃない。なのに特徴すら聞いたことがないぞ。


「わかりません」


「はあ? どういうことだよ?」


「その一切が不明なのです。十傑の話では特忍ではない。忍術すら知らないようだったと」


 自分達の任務中にふらっと現れたので、排除しようとして返り討ちにあった。

 そう話したらしい。


「証言が嘘である可能性が高いとみています。全ての忍術が通じず、ただ純粋な身体能力のみで一方的に叩きのめされた。逃げることすらできなかったと」


「ありえん」


「男性で、歳は二十歳くらいだったとだけ。それ以外は何も情報がないのです。足跡を追うことすらできていません」


「その若さで十傑ボコったってかあ? そりゃ胡散臭えな」


 ちょっと期待できそう。でも正義の忍者……じゃないんだっけ。正義の一般人かな。じゃあ戦えないな。むしろ勝負ふっかけたら俺が悪者だ。


「当時の闇忍の任務とは?」


「わかりません。どこかを襲撃するつもりだったようですが……」


「ちょっと残念だけど、まあいいか。フランの話も聞けたし。今度こそ失礼します」


 一礼して部屋を出る。上忍さんが目を覚ます前に退出しないとな。

 廊下を歩きながら、ちょっとした雑談タイム。


「まだまだ強いやつはいるんだな」


「嬉しそうにしやがって。フランの嬢ちゃんはいいのかよ?」


「できれば本人に克服して欲しい。俺が無理やり解決することじゃない」


「そうだね。少々生徒にも愛着が湧いた。面白そうなら協力するよ」


「ん、悪いな。そんじゃ俺は寮に帰るよ」


 今後のことを少し話して解散。さて、この世界で俺は何をどれだけ解決すべきか。

 それがそろそろ見えてきたな。明日からいろいろやってみよう。

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