フランの隠された力
創真達が来て数週間。任務をこなしたり、訓練したりで日々は過ぎ。
エリゼも四割くらいは術を固定できるようになってきた。
創真とゼクスも馴染み始め、普通に授業をしている。
「そのせいか特訓できる時間が減ったな」
今は自由時間。せっかくなんでフランと龍一を鍛えることにした。
学園の敷地は広く、滝のある森林とかあったので来てみたよ。
「今日はまずエリゼとフランに戦ってもらう」
当然エリゼも一緒だ。
最近めっちゃ強い美少女として人気が上がり続けているらしい。
「よろしくお願いします」
「よろしくね。手加減すんじゃないわよ」
修行でわかったことがある。
エリゼは属性やジャンルによって極端にランダム性が変わるのだ。
分身の術や変わり身の術はほぼ失敗しない。
なのに簡単な火遁の術が水遁になったりする。
「えい!」
「甘いわ!」
ただ攻撃したい時には問題ない。
むしろ火遁の印で水遁が出るのだから、相手を撹乱できる。
「そこよ!!」
フランのリボルバーが火を吹き続けている。
その尽きない霊力で強化された弾丸は、木々を安々と吹き飛ばす。
「あいつ二丁拳銃か」
「フランはアサルトライフルとリボルバーだな。なんかこだわりがあるらしいぜ」
「ほー……まあ狙いも正確だし、使いやすいもん使えばいいさ」
エリゼも銃弾くらいは見てから避けられる。
木と木の間を飛び回り、忍術で反撃しながら距離を詰めていく。
「エリゼの動きって我流じゃないよな?」
「俺がムエタイとコマンドサンボを教えている。あと重火器の扱いも」
別世界で格闘技大会などに出ていた頃を、必死で思い出して伝授しています。
ずっと前から雑に殴れば終わっちゃうからね。
武術とか一切使わなくなって忘れかけていたよ。
「勇太はなんでもできるな。でも戦い方が独特だし、なんか独自流派とかじゃないのか?」
「…………さあな。覚えちゃいないよ」
「なんだそりゃ?」
ちょっとだけ、昔の事を思い出してしまった。
あの流派は封印したんだ。もう誰かに教えるべきじゃない。
記憶を掘り起こせば、あいつのことまで思い出す。
「ええい!」
「はっ! たあ!」
物思いに耽っている間も、二人の戦闘は続いている。
川に膝下まで入り、足元の悪い中での戦いだ。
あらゆる状況に対応できるようにと提案した。
「ここです!!」
「しまっ!? きゃああぁぁ!!」
フランの足がもつれたのを好機と見て、瞬時に詰め寄る。
黙ってやられるわけにはいかないと、懸命に腕を振るも力は乗らない。
逆に腕を取られて投げ飛ばされる。
滝壺へ。
「まずいな。フランって泳げたか?」
「ああ。けどこの高さじゃやばいぜ!」
「フラン!!」
三人で滝へと飛び込む。落下していくフランが見えた。
滝自体がかなり高い。俺とエリゼはともかく、こいつらは落ちたらただじゃすまないだろう。
「フラン! 私に捕まって!!」
エリゼが懸命に手を伸ばす。そして天を仰ぐフランから気配が消えた。
「何だ?」
「い……や……」
「フラン?」
「アアアァァァァ!!」
フランは差し出された手を掴み、そのままエリゼを滝壺へと投げこんだ。
「フラン! 何やってんだ!!」
「エリゼ! なんでもいい! 霊力を下にぶち込め!」
「はい!!」
出たのは風遁。風の塊が水面に打ち付けられて水柱を作り出す。
無事に脱出し、川の上を走る二人。
これも忍術だ。水上歩行くらい霊力でできる。
「フラン! 止めてフラン!」
一言も発することなくエリゼを狙うフラン。
射撃精度が上がっている。いや、上がっているなんてものじゃない。
完全に先読みしつつ的確に、必要最低限の射撃で殺せるように撃ち込み続けている。
「どうしたのフラン!!」
弾丸を霊力の壁で防ぎ、ナイフによる格闘戦をなんとかしのいでいる。
修行熱心ってレベルじゃないな。
「意味がわからん。普段のフランの動きじゃない。身のこなしだけでも十個近く武術が混ざっている」
「やべえな。あいつ殺しにいってねえか?」
龍一の言うとおりだ。フランは明らかに殺すことを前提として動いている。
なのになぜ殺意がないんだ。むしろ気配自体が消えていっているようだ。
「なんだぁ? 面白えことになってやがんじゃねえかよ」
「あの動き……どこかで見た気がするね」
創真とゼクスがやってきた。
場所だけは教えていたし、霊力を探ってきたのだろう。
「あんなフランを見るのは初めてだ。龍一」
「オレも知らねえ。とりあえず止めてくる!」
龍一が走っていくのを見送り、改めて聞き直す。
「どこかってのは……闇忍でってことか?」
特忍として普通の動きであれば、そんな言い方はしないだろう。
何か心あたりがあると見た。
「おそらくは。だが混ざりすぎていて簡単には理解できないね」
「あのガキは特忍じゃねえのかよ? あれは殺しのための動きだぜ」
「俺もフランについて詳しいわけじゃない」
エリゼと龍一の二人がかりですら、手がつけられないほど強い。
「くっそ……どうしたってんだよ! 止まれ! 何か言えよ!!」
時には忍術を反らし、時には撃ち落として接近し、一手毎に動きの変わる攻撃。
かなりの修練が必要な動きだ。
使っている武術全てに精通し、完全に体得しなければ不可能だろう。
「こんなの訓練じゃねえ! やめろ!!」
まず戦闘不能にすることを選んだのだろう。
以前見たスーパー旋風脚の構えに入る龍一。
それに呼応するかのように、二本の霊力刀を構えるフラン。
「あの構え……そうだ、確か闇忍十傑の……」
「なーるほど。古くせえもん見ちまったぜ」
「やっぱ知ってんだな?」
「ああ、後で話そう。それより、彼女を止めなくていいのかい?」
「そうだな」
あのままぶつかれば、お互いに大怪我か、悪けりゃ死人が出るだろう。
「そこまでだ」
肉薄し、まず霊力刀を両方共握り潰す。
「ごめんな」
ボディーブローで眠らせる。
別に殺すつもりはない。だから物凄くて加減した。音速すら超えていない。
フランはそれに反応し、わずかに後方へ体を曲げた。
「何だと?」
それでも俺の一撃は、意識を刈り取るのに十分だったのだろう。
気絶させることに成功した。
まだ息の荒い二人を連れ、召喚したベッドにフランを寝かせて休む。
「説明してくれ。あのフランの動きは何だ? なんで攻撃してきた?」
適当な岩に腰掛け、フランが目覚めるまで会議が始まる。
「なんで攻撃してきたのかは知らねえよ。オレ様はテメエらが戦ってるとこからしか見てねえ」
「そりゃ悪かった」
「フランは、滝に落ちそうになって」
「私が助けようと手を出したら急に……」
何がトリガーなのかわからない。
こればかりは本人に聞くしか無いのだろう。
「材料が少なすぎるね」
「んじゃもう一つ。闇忍十傑ってのは、お前らが元いた場所の幹部だよな?」
「少しだけ違う。あれは、我々が入る前の、伝説の十傑だ」
「あの十年前のか?」
龍一は知っているらしい。
なんでも幹部といえど、全員が実力者ではないらしく、今の幹部には経済面での貢献で入った者もいるとか。
「戦闘力の順番じゃないんだな」
「昔は戦闘力も、策略も、その全てが超一流のものだけが選ばれていたよ」
「当時の闇忍幹部が、十年くらい前に潰されてな。過去のトップ10が全員捕まったんだよ」
「我々に引けを取らない、ともすれば上回っているとまで言われた伝説の十傑だった」
そのため急遽、新十傑を再編成する必要があった。
だから全員が強いわけじゃなくなったらしい。大吉も新十傑なんだとか。
「お前らはそこに入ってなかったのか?」
「実力じゃ負けてねえよ。闇忍にスカウトされるまでコンビで好き勝手やっててな。入った時にはもう十傑がいたんだ」
「へー……やっぱ強いのか?」
「ああ、少なくとも三人ほど揃っていれば、我々では勝てないよ。それほど強かった」
ちょっと興味が湧いた。それだけ強いのなら、少しくらい戦えるやつもいそう。
「だがたった一人に全員がかりでボロクソに負けて、とっ捕まった時には無能力になってたらしいぜ」
「……特忍の上ってそんなに強いのか?」
「もしや勇太ではと思ったが……十年前で、しかも青年が倒したという話だからね」
「十年前って言われてもなあ」
世界によって時間の流れが違うし、こっちの十年前がわからん。
「とにかく、フランの構えや戦闘は、その十傑の誰かに似てるんだろ?」
「誰かっつうかよ……数人混ざってんだよ」
「軽くゼクスと話したが、最低でも六人混ざっているようだね」
十人全員の戦いをじっくり観察したわけではないので、確証はないらしい。
「どういう……ことだ? あいつが何で闇忍の……」
「わからない。中には絶対に他人に教えたりするキャラじゃない者もいる」
「似た流派だってセンは?」
「無い。あまりに似すぎている。同門だとしても、ほぼコピーに近い動きだった。直接教わらなければ無理だね」
そこで小さくうめき声が聞こえる。
反射的に全員がそちらを見た。
「……あたしなんで寝てるの? ここどこ?」
置かれている状況がわからず混乱しているようだった。
そりゃ屋外でベッドに寝かされてりゃそうか。
「俺が忍術でベッドを作った。倒れるまでのことは覚えているか?」
「あたし……倒れたの? 訓練中に?」
「ゆっくりでいい。どこまで覚えているか言ってみて欲しい」
しばらく考えているようで、邪魔にならないよう全員が沈黙を貫いた。
「エリゼと訓練して、滝に投げられて……」
「すみません……」
「怒ってないわ。あたしが弱いんだもの。特忍が情けないこと言わないわ」
しょんぼりしているエリゼに笑顔を向けるフラン。
さっきまでの戦闘が嘘のようだ。
「それで?」
「それで、滝に落ちていって……エリゼの手を取ろうとして……うあぅ!?」
頭を抱えて苦悶の声をあげる。
回復魔法はかけた。だというのに何故だ。
「フラン!」
「大丈夫よ……平気。迷惑かけたわね。ありがとう」
「ちょっと調べるぞ」
「え、ちょっと」
フランの額に人差し指を当て、本格的に体内の異常を調べる。
霊力の流れまでしっかりとな。
「勇太は何やってんだ?」
「大人しく見ていたまえ。どうせ彼の力は理解の範疇を超えている」
なるほど。何か結界のようなものがある。
これは記憶ごと封じているな。最近見た覚えがあるぞこれ。
「ん、ちょっと回復させようかと思ってね」
ごまかすために、さらに回復魔法とストレス軽減の魔法をかける。
頭痛を取り払い、心が落ち着くように。
「ありがと。なんか気持ちがスッキリしたわ」
「そりゃよかった。とりあえず訓練はここまでだ。全員家に帰ること」
「そうだな。オレはフランを送っていくよ」
「私も行きます」
フランを二人に任せ、一応探知魔法を付けておく。
これで何かあっても助けられるはずだ。
「創真、ゼクス。ちょっと一緒に来てくれないか? 野暮用があってな」
「面白そうだ。ぜひ行かせてもらうよ」
「いいぜ。地獄だろうが行ってやらあ」
さて、それじゃあ野暮用に向けて出発進行だ。
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