第50話 名無しなんて寂しいじゃないか

 地面は真っ暗。夜空も暗いのに、何故か明るく周囲を見渡せる。

 そんな場所で闇の校舎浄化作業に突入して十分ちょい。


「めんどくっさいわああぁぁ!!」


 消しては追加される校舎に、俺は切れた。

 後ろで座り込んでいる加藤と内田を守りながら、ひたすら似たような学校を消していく。

 そのエンドレスっぷりが超うざい。


「あーはいはい、そうですか。マジでやってやるからなチクショウ」


「大丈夫ですか勇者さん」


 加藤が気遣ってくれる。いかんいかん。一般人に気遣われてどうする。

 俺は勇者だ。安心感を与えねば。


「へーきへーき。こっからすげえ残念な感じで全部処理するから」


 やり方を変えよう。世界全域の地面に俺の魔力を潜める。

 同時にこれ以上この暗黒空間が伸びないように細工完了。


『呪いの校舎にお越しの勇者様。お次は悪夢ヶ丘小学校ー。悪夢ヶ丘小学校でございます』


「バスガイドかお前は」


 校内……っていうか校外のどこからか届く放送につっこんでしまう。


「勇者様! また上から校舎が!」


 まーた離れた位置に真っ黒な木造校舎が降りてくる。

 だが甘い。地面につくと同時に完全浄化完了。

 光の粒子となって成仏していった。


「うおぉ……なにやったんですか?」


「地面に光の魔力をくっつけた。はっはっは、ざまあみやがれ。勇者にホラーなんて通用しないんだよ」


 よく生徒数人が呪いの校舎に入っちゃって、ピンチになったり、死人出たりしながら謎解きして脱出する系の話がある。

 ぶっちゃけ魔王城の方が百倍ホラーだからね。

 音速の五十倍で動いて、即死系魔法連発する骸骨の剣士とかいるから。


『続きましてー、天空の暗黒校舎ー。あ天空のー暗黒校舎でございますー』


「名無しこらああぁぁ!!」


 天空に浮かぶ校舎登場。手から魔力波ぶっ放して消してやる。


「お前ふざけんなよ!」


『冷静さを欠いていますね。一度深呼吸してから死んではいかが?』


「駄女神この野郎……」


 名無しの位置はほぼ特定できている。イヴに教えた空間制御術だこれ。

 別次元を融合させたり、適当にくっつけたりして、自分は多次元に逃げ込む。

 迷路にも一本道にもできるし、いざとなれば別次元に退避できるわけだ。


『駄女神はあなたの生徒でしょう? 今頃そちらの家にリュカが向かっているはずよ』


「リュカってあのクラリスの知り合い女神か。弟子の女神も大量に連れて行ったみたいだな」


 ちゃんと監視しているのだ。結界にそういう機能をつけた。

 どうやら結界に集合しているようだ。細工はしたし、発動して試練を与える。


「そんな女神に負けるなよ? 駄女神一同」


「女神どんだけいるんですか」


「めっちゃいるぞ。世界の数より多い」


 加藤と内田が引き気味だ。

 まあ地球から来たんなら、そういう反応ですよね。


『助けに行きたくはないのかしら?』


「あいつらにはいい試練だよ。実戦経験は豊富にしておきたい」


『この騒動すらも授業にしようということ?』


「ああ、クラリスや美由紀の弱点も解決できそうだしな。わりと感謝してんだぜ」


 あいつらはちょっとだけ伸び悩んでいるというか、努力の方向を間違えている。

 俺に近づく。正確には俺の強さに近づこうとしてしまう。

 女神として立派であり、俺の後追いなんてする必要はないのだ。


「ま、解決できなくても、あいつらは立派な女神だよ」


『納得したところで、あなたは逃さない。ここで死ぬまで校舎を彷徨うのよ』


「俺を校舎で倒そうってのが甘いんだよ」


『…………続きまして都市伝説シリーズ。巨大花子さんー。巨大花子さんー』


 でっかいおかっぱ頭の女の登場。皮膚は紫。目玉はない。

 目のあるべき場所から、どばどば血の涙を流している。


「ひっ、いや! なによあれ!」


「落ち着け内田。とりあえず勇者さんの邪魔にならないようにするぞ」


 なーんにもない場所では隠れることもできない。

 内田を自分の後ろに隠して震える加藤。

 そういう男気溢れる行動は、勇者になれる素質高いよ。


『ダーク花子ビイイィィィム!!』


 口からどす黒いビーム出してきた。


「アホかボケエ!!」


 ビームごと拳圧でぶっ飛ばして浄化。

 俺は勇者だ。殴ろうが浄化できる。聖なる力っていうかツッコミで浄化できる。


「お前はアホか!」


『ご存じないのかしら? 裏校舎の伝説、巨大ダーク花子マンを』


「さっきと名前違うじゃねえか!!」


「マンって男じゃないんですか?」


 内田さんの冷静で的確なツッコミが光る。


『悪魔の科学者に捕まり、改造されてビームが撃てるようになった花子さんは、今日も裏校舎に訪れた子供たちに襲いかかるのよ』


「科学と怪談は相容れないものなんだよ!」


『最近ホラーと現代科学とかと混ぜるの人気でしょう? 霊の映る動画とか。呪いのスポット生放送とか』


「お前結構俗物だな」


 やっぱり女神って暇なのだろう。永遠の命って持て余すよね。


『俗物でも強いはずなのよ。今の花子ビームだって木星くらい消せるのよ」


「木星!? あの第五惑星で、太陽系でも随一の大きさといわれているあの!?」


「無駄に詳しいな加藤」


 ここで加藤の意外な趣味発覚。だからどうした。


「加藤くんは野球部のエースだけど、成績も上位なんです」


「なんだそのまったくいらない情報は」


「甲子園以外に存在価値のない男って言われています」


「蔑称じゃねえかなそれ」


 その二つ名に異議はないのかい。本人照れ顔ですけども。


「高校野球界の勇者と噂なんですよ」


「お前ら中学生じゃないのか?」


「高校生です。あの中学は卒業生に突然降りかかる災い的なそういう……なんだっけ?」


「なにか……条件とかあったような……」


「凄いふわふわしてんな。まあ浄化したし忘れろ」


 いやなことは忘れましょう。どうせ誰も信じちゃくれないさ。


『見ると死ぬ映画上映会が始まります』


 上から降りてくる、映画館でしか見られない巨大スクリーンをぶっ壊す。


『せめて見てから壊していただけませんか?』


「見るかそんなクソ映画」


『クソ映画かどうかは見てから判断し、批判するべきです。見もせずにネットの批判だけを真に受けて叩くのはいけませんよ』


「なぜ俺はネットモラルを語られているのだ」


 こいつの性格がよくわからん。だが完璧に把握したよ。居場所とか。


「そんじゃ茶番は終わりだ。全員助けてさっさと帰るぜ」


『そう、ならせいぜい守りきって見せなさいな。まだまだ校舎はあるのよ』


「茶番は終わりって言っただろ」


 化物と校舎が出る前に、名無しがいる異空間へと俺の魔力を忍ばせた。


「なるほど。装置か本人かで悩んだが……両方ってわけか」


 理屈さえわかっちまえば楽勝だ。装置の中へと魔力でハッキングをかける。

 全ての校舎を検索。まあこれが無数にあることあること。

 無数だろうが勇者に不可能はないけれどな。作戦開始。


『次は最強の暗黒地獄校舎をプレゼントするわ!』


 そしてなにも降りてこない。はい成功。あとは名無しとご対面だ。


『そんな!? どうなっているの!?』


「行くぜ二人とも。掴まりな」


 二人を連れて、名無しのいる世界へと踏み込んだ。


『消えた!? 勇者が逃げるというの!?』


「いやいや、見くびってもらっちゃ困るぜ」


 そこは窓もなく、出入り口すらない部屋だった。

 部屋そのものは広く、沢山のモニターが存在し、様々な世界を映している。

 生活感はあるが……住みたい部屋じゃあないな。


「あなたどうしてここに……」


 驚くほど色白で、長い黒髪と、綺麗な青い瞳が印象的な女神だ。

 こいつが名無しの本体だろう。森で出会った姿からは、生気が感じられなかった。


「もう校舎は出てこない。俺が全部浄化した」


「ふざけないで。似たような世界はいくらでもあるのよ。どうやって装置を止めたの?」


「その装置と、お前の体質はもう調べた」


 明らかに動揺しているな。

 目を見開き、長い髪で隠しながら俺の話に耳を傾けている。


「その装置は全世界の呪いの校舎や都市伝説を探し、暗黒空間に転移させるものだ。なら逆に俺の浄化魔力を別世界に流し込んで、一気に完全浄化できるってわけさ」


「不可能よ……世界がどれだけあると思っているの? 平行世界まで含めたら、異世界に限りなんてない。膨大で……それこそイヴ様でも足りないほどの魔力が必要なはず。それを私に気づかれずに流すなんてできないわ」


 使い古された豪華な椅子に背を預け、呆然と天を仰ぐ名無し。


「できるさ。勇者だからな。そうしなきゃ助けらんねえならやるだけだ」


「なによそれ……そんなの……勇者だからって……」


「勇者に不可能なんてあっちゃいけない。大抵の世界にゃ警察や衛兵がいる。神様もいる。そいつらが解決できないほどの理不尽を、笑ってぶっ飛ばすために、勇者ってのはいるのさ」


「それじゃあ、もう私達も呼ばれることはないんですね」


「オレたち……帰れるんですか?」


「おう、後始末をしたらな」


 立つ力も残っていないであろう名無しに歩み寄る。

 意外にも抵抗せず、ゆっくり目を閉じた。


「抵抗はしないわ。どのみち戻れない。時間は稼げたもの。ひと思いに殺しなさい」


「アホか」


 脳天にチョップ。はい解析完了。体質改善オッケー。


「ぷぎゅ!?」


 頭を抑えてぷるぷるしている名無し。

 はっはっは、ちょっと涙目じゃないか。もうちょっと加減してやりゃよかった。


「どういうつもり?」


「言ったろ、全員助けて帰るって。これで悪霊呼び寄せる体質は消えたはずだ」


 しばし沈黙。そして慌てて自分の体を触ったり、魔力を出したりしている。

 よしよし、完璧だ。ついでに体力も回復させてやった。


「お前が名無しなのは、その全ての呪いやら負の瘴気を集めちまうし、操作できる能力によるものだ。おおかた女神界で危険だとか判断されて、こういう空間にばっかり閉じ込められたんだろ。名前つけてすらもらえずにな」


 女神って連中は全員がクリーンで優しいやつじゃない。

 昔もいたよ。自分の野望のために、平気で女神を犠牲にする連中がな。


「もう大丈夫。別の加護を与えておいたよ」


「女神に……人間が加護を?」


「久しぶりにその反応されたわ。逆に新鮮だな」


 うちの駄女神ときたら、加護をほいほいもらえるもんだと思ってやがる。

 急に心配になってきたな。俺も先生が板についてきたのかね。


「浄化とか、神聖な力っぽいの詰め合わせだ。回復魔法も使えるし、幸運になれるお徳用セットだぞ」


 無言で手のひらの魔力を見つめ続けている。

 ちょっといっぺんに説明しすぎたかも。


「勇者を足止めすれば、力を消して自由にしてくれるって。それまで、絶対に誰にも消せない呪いの力だって……言われたのに……」


「勇者だからな。楽勝だこんなもん。これからは好きに生きろ。お前は自由さ」


「私が……自由……でも、わからない。なにをすればいいか」


「とりあえず名前考えようぜ。いつまでも名無しじゃあれだろ」


「お、いいですね! 流石勇者さん!」


「かわいい名前を付けてあげてくださいね」


 三人から期待の眼差しである。


「ちょっと待て俺一人で考えるのかよ!?」


「オレそういうのさっぱりで」


「私もちょっと……勇者様がお願いします」


 高校生二人はそんな感じだ。四人で相談しよう計画は、脆くも崩れ落ちた。


「私の名前を……お願いします」


 なぜここでしおらしくなるかね。すがるような目でみられたらやるしかない。


「……………………リキュア」


「りきゅあ?」


「お前はもう霊とか関係ない。癒やして、守る女神だ。その力で自分の辛かった過去とか、心の傷とかを癒やすんだ。これから先に起こる楽しいことで。最初っからやり直す。だからリキュア」


「りきゅあ……私はリキュア……」


「いいですね。流石勇者さん!」


「かわいいです!」


 好評らしい。あとは本人が納得してくれれば大成功だが。


「ありがとうございます。勇者様」


 ようやくリキュアが笑ってくれた。よし、名前問題解決。


「んじゃ高校生送るから、魔法陣の上に立て」


「お世話になりました」


「勇者様がいなかったらどうなっていたか」


「なーに、きっと加藤が助けに来てくれたさ。ほれ、もってけ」


 錬成したリストバンドをくれてやる。


「心が落ち着くお守りだ。言っとくが超パワーが手に入ったりしない」


「大丈夫ですよ。オレの夢は、オレの手でつかみ取ります!」


「いいね。かっこいいぜ」


「私が加藤くんをしっかりサポートしますから!」


「お幸せに」


 あいつらなら、どんな困難が待ち受けていてもやっていけるだろう。


「その、ごめんなさい」


「いいよ、そっちも辛かったっぽいしさ」


「沢山の人を癒やしてあげてね」


「ありがとう。必ず、この力を平和のために役立てると誓うわ」


 お別れも済み、ゆっくりと魔法陣の中へと消えていく二人。

 今度は離れないように、しっかりと手を繋いだまま。


「ありがとうございました!!」


「このご恩は忘れません!!」


 手を振り消えていった二人を見届け、俺達も別の場所へと移動を開始。


「さて、俺達も女神界に戻ろうぜリキュア」


「はい、どこまででもお供いたします。この生命は勇者様とともに」


 イヴは生きている。ならば、今度こそ理由を聞きたい。

 俺に足りなかったものは何なのか。なぜ俺を殺そうとしたのか。

 まあ……駄女神の様子を見に行ったあとでな。

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