第40話 魔法を使わせても駄女神だよ

 いつもの校庭。いつものジャージで女神はブルマ。授業開始。


「はい今日は魔法の訓練だ」


「普通ね」


 いいじゃない普通。普通代表の俺としちゃ、普通が恋しくなるのさ。


「普通のこともやっていかないとな。お前らの魔法は偏り過ぎ」


「確かに、無効化とふりかけだけですわ」


「別にパワーでがーっとやればいいじゃない」


「だめだっつうの。勇者は弱いんだよ。属性魔法も使えないと駄目」


 火と水と風は便利だ。海とか山でも生存率が跳ね上がる。

 だからこそ覚えさせておくべきだ。


「勇者が弱い?」


「俺を基準にすんな。なりたての勇者ってのは、お前らより弱いんだよ」


「しょうがないわねえ。で、今日は何の魔法?」


「火水風土だ。大抵の世界はこれが基本属性だからな」


 光とか闇とか上位の属性や、召喚、回復、禁呪なんかは今回除外。

 禁呪使わせたら大暴走しそうだし。


「ローズはできるな?」


「当然ですね。これでいいですか?」


 指先に火を出し、その火を凍らせ、風で吹き飛ばす。

 よどみなく自然に行われた。これには関心。


「相変わらず器用ねえ」


「お前マジで凄いよな。それ相当修練がいるぞ」


「究極大女神ですので」


「はいはい。とりあえず全員に加護を与えておく。例によってレベル1だ」


 ローズの魔法も抜けている部分があるので、微調整して渡す。

 これで全員四属性を習得する準備ができた。


「えー四属性以外の使用を禁じます。早く慣れるにはいいだろ」


「はーい」


「まずは火の魔法からだ。サファイア、やってみろ。あっちの的に向かって打て」


 弓道で使うような的をでっかくしてみた。今回は魔法ができたらよし。


「やってやろうじゃない! 女神火炎砲!」


 集中もクソもない拡散された炎が吹き出した。


「やりすぎだ! 的以外も燃えるだろうが!」


 炎はとめどなく溢れている。試し撃ちさせてよかった。

 こんなん室内でやったらやばい。


「だって止まんないのよ!」


「熱いですわ! 熱量だけでも下げてくださいまし!」


「止め方わかんない! っていうかどんだけ出るのよこれ!」


「ああもう……はいストップ」


 肩に触れ、無効化と魔力減衰能力で強制シャットダウン。


「あ……止まった」


「なにやら役目を奪われた気がしますわ」


「無効化役は、これから先生が……」


「やめてくださいまし! 露骨に活躍が減りそうな発言は控えるべきですわ!」


 気にしてたんだな。カレンは普通でいいのよ。心のオアシスなんだから。


「はー、慣れてないと調節難しいわね」


「お前は魔力量がアホだからな」


「アホって何よ!? あって困らないでしょう!」


「今困っただろうが。まあ大量にあるのは悪いことじゃない。だが問題が出てきたな。口のゆるいホースと、ぶっ壊れた蛇口みたいなもんだ。これを普段使っている魔法レベルに、綺麗で最新式の蛇口に変える作業が必要だ」


「具体的にどうやるのよ?」


「とにかく慣れろ。いつもみたいにパワーを垂れ流すんじゃなく、細心の注意を払って出せ」


 言っていてサファイアにできる気がしないんですけど。


「火は危ないので水を提案します」


「採用。それでいこう」


「女神水流!」


 水をどばーっと出してきた。まあ水だし。校庭だし。いいけどさ。


「そのまま水流を弱めてみろ。絞るイメージでいい」


「うぐぐぐぐ……絞る……しぼ……る」


 必死にやろうとしているのは伝わった。

 例えるならホースの口を指で摘んだようで、勢いは増している。


「拡散させて、ビームに変えてみろ」


「こうして……こう!!」


「それはできるんかい」


 勢い任せに撃つことと、攻撃手段としての切り替えはできるっぽい。

 つまりノリと勢いでどうにかしているわけだ。


「野生の勘と精密作業が合わないのですね」


「流石野生児」


「誰が野生児よ!? うー……これしんどいわよ」


「ゆっくり慣らすしか無いな。ちょっと出して止めるのを繰り返して、感覚を掴んでみろ。次はカレン」


「はい。やってみますわ」


 カレンは魔力コントロールの修行もしていたので、ある程度はできるはず。


「ウォータービーム!」


 手のひらから、まっすぐ正確に水流が撃ち出される。

 よしよし、これはいける。優秀だな。


「そのまま拡散させて、次は勢いを殺して」


「はい!」


 突然前触れ無く水が止まった。


「あら?」


 そして突然吹き出す。


「きゃっ!? もうなんですの!?」


「大丈夫か?」


「問題ありませんわ」


 もう一度トライ。やはり突然止まったり出たりする。

 これはもしかして。


「無効化能力と交互に出てるんじゃない?」


「っぽいな。こりゃ別の問題が山積みだな」


「いっそ水をふりかけとして出すことで……」


「ふりかけ禁止」


「そんな!? わたくしの貴重なアイデンティティを!」


「もっと別の分野に見つけなさい。しかしこりゃ困ったな。まず無効化を制御できないと不便だぞ」


 まあ問題点は洗い出せばいい。

 駄女神相手にスムーズにいくとは思っちゃいないさ。

 これもまた、教師の仕事だ。


「ふりかけは出るんだろ? ならふりかけを出す時と魔法で何が違うか研究するんだ」


「なるほど、やってみますわ!」


 カレンは素直だ。優等生なので、しっかり指導すれば真面目にやる。

 もうちょっと見てやろう。


「先生、私はなにを?」


「ん、そうだな。ちょっと補佐してみようか。ヴァンパさんと戦った時にやったろ」


「他人の魔力コントロールですか……あれはほぼぶっつけ本番でしたし」


「何気に便利だからさ。俺と一緒にサファイアの調節してみるぞ」


 長所を伸ばしつつ、ローズの秘密に迫ってみよう。

 ちょいちょい服とか着せているが、未だに謎が多い。


「ふむ、興味がありますね」


「実験台にされている気がするわ」


「安心しろ。女神は簡単に死なないさ」


「安心できる要素ないじゃない!?」


 二人してサファイアの肩に手を添える。

 そして集中。やはり底なしの魔力を感じる。面白いやつだ。


「何にやにやしてんのよ気持ち悪い」


「まだまだ強くなれるみたいだからな。ちょっと嬉しかった」


 生徒に触れてにやつく教師。うむ、まずいな。気をつけよう。


「おそらく先生と戦えるようにはならないかと……」


「本気じゃなくてもいいんだけど」


「それでも世界を壊しかねませんわ」


 しょうがないので集中あるのみ。今はサファイアを強化しよう。


「水流弱の……えー……女神……出ろ!」


「名前が思いつかなかったんだな」


 盛大に吹き出す水。体内の魔力の流れを調査し、軽く調節だけしてみる。


「こんな風に止めるんじゃなくて流せ。受け流す時にそっと強弱を変えてやるんだ」


「難しいですね。感覚に頼り切りというのは」


 ローズは理論派だからな。感覚がつかめるまでは苦戦するかも。

 そこは授業なんだから何度でもトライですよ。


「おっ、なんかいい感じにできてるわ! わたしの才能がまた開花したのよ!」


「完全に俺のおかげだろうが」


 調節を中止して手を離してやる。見事に操作失敗して溢れ出る水。


「うひゃわああぁぁ!?」


「さ、あとはローズに任せるぜ」


「いいでしょう。ここで私の才能も開花させてみせます」


 これでカレンに専念できるな。こっちはもっと難しい。本腰入れるぜ。


「さて、やり方はいくつかある」


「無効化を完全に閉じるか、切り替えられるほど制御するかですわね」


「そうだな。使わない時はしまう。まあ封じてみな」


「はい。水よ……えい!」


 ちゃんと水が出る。暴発もしない。威力の調節はできているな。


「よし、そっから無効化を使え」


「使うのですか?」


「一回感覚をつかむ。あと検証。パターン思いつく限りやって、体に馴染ませろ」


「わかりましたわ!」


 水を止める。水魔法を無効化する。無効化を封じる。切り替える。

 これは全部違う作業だ。それを色々試して、自分の内なる魔力を知る。

 これがまあ難儀なもんでな。簡単にできりゃ世話ないんだが。


「切り替えまではうまくいきますが、どうも持続させるには修練が足りませんわね」


「原因がわかってりゃいいさ。今日できる必要はない。そのまま頑張れ」


「はい!」


「じゃ、最後はローズだ」


「私ですか?」


「ちょっとお前は特殊すぎる。調べさせてもらう」


 やり方は同じ。肩に手を添えて、魔力の流れや出処を探る。


「これはまた……不思議な感覚ですね」


「じっとしてろ。危害は加えない」


 サファイアには負けるが、やはり魔力量も膨大だ。

 中心で質を変えているな。ちょと俺の魔力を入れてみる。

 前に巫女服になっていた日の魔力を覚えているので、似せて流す。


「ん……魔力が変わってるわね」


「不思議ですわ」


 ただ天才ならそれでいい。だがこれは、あまりにも完璧というか……なにかを想定してそれに合わせた才能。直感だがそんな気がしてならない。


「先生? どうかしました?」


「いや、なんでもない」


 勇者の勘、錆びついていなけりゃいいんだが。


「どうでしたか?」


「いや、問題なし」


 外部から干渉を受けているわけではない。

 つまりローズ天性のものだろう。

 伸ばしていいのか、なぜだか躊躇した。俺らしくない。


「よし、各自練習したら飯にするぞ」


 何が起きようとも、俺は勇者だ。ハッピーエンド以外は認めない。

 そのためにも、自分の身くらい守れるようになってもらおう。


「はーい!」


 どこか本格的に魔法使いのいる世界で調べてみようかな。

 そんなことを考えるくらいには、こいつらに愛着が湧いているわけだ。

 いざという時には、こっそり守ってやりますか。

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