第39話 野球でも駄女神だよ

「今日は野球やるわよ!」


 いつもの教室。普段と変わらぬ授業中。

 まーたサファイアがアホなことを言い出しましたよ。


「一応聞いてやる。なんで?」


「野球やるアニメは良作らしいわ」


「人生はアニメじゃないんだよ」


「アニメみたいな人生送ってる筆頭でしょ」


 勇者ってもろにアニメや漫画の存在だよね。自覚はある。

 そもそも、なんでもう野球のユニフォーム着てるんだよこいつ。


「スポーツですか。やれやれ、またブルマを履くことになりそうですね」


「そこかよ。俺よくルールわからんぞ」


「野球で全てを決める世界はなかったのですか?」


「行ったけどさ、敵がラフプレーかます悪の球団だったんだよ」


 急激に思い出が蘇る。あの世界は短期間だけで、ぱぱっと終わったなあ。

 あれくらいで救われる世界が多ければいいのに。


「それで?」


「ピッチャーやって全員の腕へし折ってやった。だからルール知る前に勝ち」


「デッドボールでもしたの? 勇者が?」


「違う。正攻法でだよ。超手加減して、全球ど真ん中ストレートを投げる。で、打たせるんだよ」


 ラフプレーなどザコのやること。

 敵を圧倒する身体能力の前には、小細工など無意味だ。


「ちょっとよくわかりませんわ」


「俺は百六十キロどころか十億キロでも出せる。でも大体三百キロくらいで投げればいい。そうすりゃ振られたバットから伝わる衝撃で、相手の腕が粉々になる」


「うーわ」


「ポイントはそいつが手を出してしまうギリギリの速度で投げること。つい振って、ボールに当たればおしまいさ」


 なんだかんだ楽しかったです。間違ったルール覚えそうであれだったけど。


「それヒットになったらどうするのよ?」


「俺ならバントだろうが走ってキャッチできる。地面にボールがつくことはない。全打席アウトだよ」


「イカサマ……とも違いますね。力技でしょうか」


 当然ながら、正々堂々とプレイする人間には普通に勝負する。

 相手が死なない速度でな。あくまで悪の軍団潰すとき専用だ。


「修行の一環として、スポーツはいいと思いますよ」


「トゲ付き鉄球でやるとか?」


「死人出るわ。お前それ自分がやること考慮してないだろ」


「先生なら魔球でも投げられそうですわね」


「できるぞ。燃える魔球とかな」


 一辺倒じゃ飽きるから、炎の魔球とか、増える魔球とか覚えたよ。


「じゃあ燃えるトゲ鉄球で」


「鉄球から離れろ。アクションゲームじゃないんだよ」


「先生はピッチャー禁止です。バッターにまわってください」


「そもそも四人でできるのか?」


「ホームランダービーよ!」


 そしてノリで校庭に出た。野球はするんだな。まあ付き合ってやろう。


「まずはわたしからいくわよ!」


「おー、がんばれ」


 先発サファイア。あいつちゃんとルールわかってんのかな。


「必殺魔球!」


「そのブリューナクはなんだ?」


 完全にブリューナク持って振りかぶっている。


「ボールのつもりブリューナクよ!」


「それじゃただの槍だろうが。普通のボール使え」


「それじゃあダメージ出せないでしょ」


「出すなや!」


 渋々槍をしまってくれた。あいつ元気有り余ってんなあ。


「奥義! 増え続ける魔球!!」


 投げられた硬球がずーっと増え続けている。

 三十個くらいになってんぞ。


「ひとつでも打ち返せなかったら負けよ! さあどうする!」


「ええい鬱陶しい!」


 ヤケクソで全弾打ち返す。最後は五十球くらいになっていた。


「オラオラオラオラ!」


 超高速スイングが敗れるはずがなく、これでホームランだと安心した矢先。


「戻れ魔球よ!」


「戻んの!?」


 更に増え続けて戻ってくる魔球さんご一行様。

 校庭の空が埋め尽くされる勢いなんですけど。


「これ終わらねえだろ!」


「終わるわよ。先生が力尽きればね!」


「そういう終わり方するゲームじゃねえだろ!」


 しょうがねえ本気出すか。増える魔力のもとを探知。

 一球だけ俺から避けるように、行ったり来たりを繰り返す球がある。


「そこか!」


 かきーんといい音が響く。全力でかっ飛ばし、同時に分身していた魔力も霧散。


「うっそ見切られた!?」


「はっはっは! 俺をなめんなよ!」


 がっくり膝をつくサファイア。ふっふっふ、伊達に勇者じゃないのさ。


「うぅ……まさかの敗北……かたき取ってローズ!」


「本気でいきます。我に秘策ありです」


「よしこい」


 中継ぎローズ。こいつも曲者だな。

 普通に振りかぶり、そこそこ速い球を投げてきた。

 三百キロくらいかね。まあ余裕だな。


「甘いですよ」


 球がブレたと思ったら、突然消えた。


「秘技、消える魔球です。ルールには違反していませんよ。この謎が解けますか?」


 面白い。消える前の魔力を急いで解析。

 どうやら透明になるんじゃなく、転移系だ。

 だがルールに違反していないらしい。


「なーるほど。初見殺しだな」


 そもそもこれじゃストライクも取れないだろう。

 だが甘い。解析完了。別次元へとバットを差し入れ、そのまま勘で振る。


「そんなっ!?」


 いい音がして、ボールが世界に帰還する。そして吸い込まれるように場外へ。


「残念。初見じゃないのさ、これがな」


「うぅ……絶対に通用すると思いました」


「今のなにがどうなったわけ?」


「別次元を移動させていたんだよ」


 トリックは簡単。ボールコースに別次元を重ねたんだ。

 ボールを途中から別次元に入れて、ミットの直前でこちらへ戻す。

 次元が違うだけで、コースは真っ直ぐだ。道の途中にトンネルがあるようなもの。


「だからセーフと考えたんだろ。まあアウトくさいけど……打てたしいいや」


「ローズもローズだけど……先生も大概おかしいわよ」


「正直引きますわね」


「かなり特訓して……ようやくほんの少しだけ使えるようになった魔法なのに……」


 ううむ教育とは難しいな。でもいい線いってたよ。

 進歩は目まぐるしいね。この調子で成長してくれ。


「大トリはわたくしですわ。参りますわよ!」


「おう、来な」


 抑えはカレン。正直どう来るのか想像つかん。

 肩の力もあるし、変化球もできる気がする。

 無効化能力は今回に限り無駄だ。さてどう来る。


「いきますわ……よっ!!」


 ごく普通だ。だがそれで俺を打ち取れるとは思っていまい。

 とりあえずバットに当て、手応えあり。


「秘技、ふりかけ大魔球ですわ!」


 突然バットがふりかけに変わった。根本まで全部だ。


「うげ、そうきたか」


 無理やり魔力でふりかけ全部を覆い、超高速で横に一回転。

 途中でふりかけからバットを再構成。この程度の想像は簡単だ。

 構造が単純なものなら一瞬でいける。


「うらあぁ!」


 はいこいつもホームラン。ちょっとだけ焦ったぜ。


「全てをふりかけに変える、ふりかけ穢土転生が……」


「恐ろしいもん覚えやがったなおい」


 特定条件で物質をふりかけに変える、といったところか。

 アホ極まりないのに超強いな。どんな状況だよ。


「最早狂気を感じますね」


「こっちのほうが引くだろ」


「なぜですの!?」


「こうして世界がふりかけに飲まれていくのね」


 怖いよ。要監督だな。俺が見ていない場所では禁じておく。


「思わぬ成長が見られて面白かったよ。たまにはスポーツもいいな」


「そうよ、たまには息抜きしないと壊れちゃうわよ」


「最近ろくな授業してないけどな」


「それは明日から頑張ればいいのですよ」


「そうですわ。また明日から授業いたしましょう」


 別にこういった変化球な授業も無意味ではない。

 新魔法や応用力を鍛えることと、息抜きができる。

 わりかし有効な手段だ。たまーになら認めよう。


「よーし、じゃあ校庭片付けて戻るぞ。戻ったら飯だ」


「はーい!」


 魔法のレパートリーも増えてきている。

 次くらいで本格的に魔法実習して、新しい加護だな。

 授業プランを練りながら、みんなで何が食いたいか相談に入るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます