花見でも駄女神だよ

 毎度おなじみ教室でございます。

 魔法の授業とかやっていたら、サファイアがなんか言い出しました。


「お花見するわよ!」


「なぜに?」


「まだやってないから!」


 なぜ誇らしげに胸を張る。こいつの頭の中どうなってんだろ。


「やんなきゃいけないもんでもねえだろ」


「さあ行くわよ!」


「聞けや!」


 そんなわけで今回はお花見をします。

 桜の花が咲き乱れておるぞよ。綺麗な場所は、俺たちしかいない。

 かなり広いのに独占している。


「普通に桜咲いてるな」


「桜が好みでなければ、あちらに紅葉エリアがあります」


「区画で違うんかい」


「女神界で言うだけ無駄ですわ」


「そらそうだ」


 大きな桜の下で、ビニールシート敷いてお花見開始。

 弁当は全員で作った。俺だけにやらせようとしたから強制参加で。


「で……なにすればいいの?」


「ノープランか!?」


「私もよく知りませんが、お酒の勢いで脱ぐわけですね」


「脱ぐな脱ぐな。人の目とかあるだろ」


「ここは四人だけ。そして私は露出癖。さて脱がない理由がどこに?」


「最悪だこいつ!?」


 無駄に屁理屈こねおって。あーもうどうすんのさ。

 花見に具体的なプランってあるのかね。


「飯食ってカラオケしたり花を見たりするんだろ」


「あとなんかない?」


「あとは相撲ですわね」


「おかしいおかしい」


 本格的にやることが思いつかん。強いて言えばゆったりしたい。


「全裸の私と抱き合う先生」


「もちろんふんどし一丁ね!」


「乗るな止めろや!」


 こいつらといると叶わぬ願いだな。

 全員で座ってジュースで乾杯。


「はいかんぱーい!!」


 酒嫌い。俺は状態異常がつかない。つまり一切酔わない。

 飲み物にアルコールというクソまずい液体をぶち込まれるだけ。

 味が壊れるので嫌い。


「普通にお茶やジュースでいいや」


「酔ってしまったら一緒に脱ぎましょう」


 一瞬だけローズの目が光った。仲間に引きずり込む気か。そうはいかんぞ。


「断固として拒否で」


「では歌いますわ」


 カレンの歌は結構うまい。透き通る声でしっとりと優雅に歌い上げる。

 普段からお嬢様口調なので、これがまた綺麗に見えるわけだ。


「へーやるわね」


「意外な特技ですね」


「いいね。今日くらいゆったりしようぜ。料理は本気出したからさ」


 言いつつ重箱を開ける。おにぎりから卵焼き。ちょっとおせちっぽいもの。

 牛・豚・鳥などの各種肉。魚も焼いたり煮付けてカニも入れる。


「全員で作っといてなんだけど、本当に先生の料理おいしいわね」


「美味極まりないですね」


「そうだろうそうだろう。料理はできると楽しいんだぞ」


「その世界によって違う料理がありますもの。先生にとっては重要なのですわ」


 そういうこと。異世界でのお楽しみである。

 最早俺の敵が存在するかどうか怪しいので、戦闘面で期待はできない。

 だが料理は世界ごとに違う。食材も違う。これが楽しくて仕方がなくなる。


「ん、よく出来てる。卵焼きがしょっぱいのがいいな」


「先生の好みに合わせて作りましたわ」


「わたし甘くても好きよ?」


「白米のおかずと認識してるからな。甘いと飯に合わん。まあ甘いの好きなやつを否定はしない」


「私はどちらでもいけます」


 甘いのもしょっぱいのも両方ある。全員で作った目的はそこにもあるのさ。

 四人でだらだらしながら飯を食う。いいじゃないか。平和に終われ。


「では私も歌いましょう」


「じゃあローズが歌っている間に……なにするんだっけ? 乳首相撲?」


「平和に終わっとけや!!」


「なぜ乳首を付けてしまいましたの……」


「もとから二個ついてるわ!」


「そういうことじゃねえよ!!」


 そしてアイドルソングを歌うローズ。なんだこの空間は。


「お前ら歌上手いなー」


「女神ですもの。このくらいはできますわ」


「そうね、わたしも得意よ!」


 全員歌が得意らしい。俺もできる。オペラとかやらされたこともあるよ。


「料理は美味しいのよ。でも手持ち無沙汰ってやつなのよねえ」


「まあお前らも料理が上達しているようでなによりだよ」


「こう……桜にまつわるお話しなど、聞きたいですわね」


「またキラーパスぶっこんできやがったな」


 桜の話ねえ……なにかあったかな。料理をちびちび食いながら考える。

 木を背にのんびりと話題のストックを探っていく。


「あれでしょ、桜の枝をより多く折って報告した人が大統領になれるんでしょ」


「違うわ! どんな伝わり方してんだよ!?」


「根本の死体を掘り起こすのではありませんこと?」


「それも違う!」


 なぜそんな話だけ知っている。

 そしてよくそんな知識があって花見しようと思ったな。


「別に綺麗だなーと思っときゃいいんだよ。雑念は捨てろ」


「ついでに服も脱ぎ捨てました」


「着ろや!!」


 こいつ油断すると脱ぎやがって。

 ちゃんと服は着せる。生徒と花見している教師として、絵面がやばいからだ。


「んじゃ次わたしが歌うわね」


「おー行ってこい行ってこい」


 今回休日満喫してるだけだな。最近授業って何やったっけ。


「授業プラン考えないとな」


「百物語とかどうですか?」


「一発目から授業じゃねえもん出てきたー」


「お菓子作りが女の子っぽいですわ」


「家庭科の授業か。いっそ美術の授業で絵とか書いてみるかな」


 絵心もある。教えられるかは微妙。まあやるだけやってみようかな。


「ダダッダー! ヘイヘーイ! 世界の平和をー!」


 完全に特撮の曲だ。サファイアも大概おかしいぞ。そしてうまい。


「たおーせー! 必殺ー!」


「女神とはいったいなんなのか」


「急に哲学ですね」


「立派な女神にするって結構難しいんだな。今まではその世界を救っていく過程で成長してくれたからさ」


 授業を考えて、成長具合からさらにスケジュール作って。

 イベントも自分で起こさなきゃならない。結構ハードだと知った。


「わたくしもそうでしたわね」


「カレンはまともな教え子の範疇だったよ」


「駄女神の過去には興味があります。美由希・アリアやクラリスはどうだったのですか?」


「あいつらは気張りすぎ。やる気はあるけれど、実力がついていかない。もしくは担当世界が過酷すぎた。俺が救えてよかったよ」


 あいつらとの思い出もちゃんと全部思い出した。

 強くなることに真摯だったので、かなり楽だったよ。


「駄女神の駄目エピソードをもっと聞かせてください」


「他の女神のことが、とっても気になりますわ! 先生と一体どんな冒険をして、どの程度の進展があったのか!」


「進展って……ちゃんとした女神になったよ」


「そうではありませんわ」


「カレン、言っても無駄です。とりあえず聞いてみましょう」


 料理を挟んで二人と向かい合う。そこそこ真面目に聞く姿勢だな。


「まあいいか。飯がまずくならない程度に話してやるよ」


「ではカレンの駄女神っぷりから聞きましょう」


「いきなりですの!?」


「敵に大量のふりかけを撃ち出してだな……」


「なんの躊躇もなく語りますわね!?」


 うむ、楽しい。こいつらは嫌いじゃない。駄目でも好きな方だ。

 こうして花見を楽しめているのが証拠だろう。


「なになに? わたしが歌ってる間になんかあったの?」


「カレンの失敗談百物語が始まりますよ」


「なにそれ面白そう!」


「そんなにありませんわ!」


 歌い終わったサファイアが食いついてきた。よしよし、しっかり話してやろう。


「八十五くらいじゃね?」


「多過ぎですわ! 今日の先生はいじわるです!」


「なーに、そんな日もあるさ」


「あっては困るのですわ!」


 こうして穏やかに和やかに花見の時間は過ぎていく。

 ここまで仲良くなるとは、流石の俺も予想していなかったが、これもまたよし。

 本当に話しちゃいけない部分はぼかし、カレンの話で花見を続けたのだった。

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