第32話 本能寺の変でも駄女神だよ

 普通に飯屋で腹を満たし、次の授業を考える。

 ゲーム世界でできるものがいいな。


「はい、じゃあ飯も食ったし、反省会もしたから、やりたいことあるか?」


「なんで聞くのよ?」


「プランはいくつかある。まずやりたいことでも聞こうかなと」


 そこそこの成長ぶりを見せてくれたし、ちょっと特別なことをやってみよう。


「急に言われても困りますね。謀反でもします?」


「どこに!? そして誰にだよ!」


「敵は本能寺にあり!」


「いねえよ! まず光秀がいねえよ!」


「落ち着いてください先生。信長もいませんわ」


「そこじゃねえわ!」


 こいつらにまともな意見を期待したら駄目だな。


「まず桶狭間からですね」


「信長を追体験してどうする」


「どうせ信長の世界とかあるでしょ?」


「マジで腐るほどあるぞ。俺の異世界雑学を教えてやろう」


 もうね、信長さん過労死しちゃうよ。

 好きで異世界数百個救っている俺ですら大変なんだぞ。

 その苦労は推して知るべし。俺と通じ合う部分もあり、凄く意気投合しました。


「なによその聞くからに無駄でしかなさそうな無駄知識は」


「ま、たまにはいいかなと。織田信長派生キャラ、あとは信長がタイムスリップとか、未来人が来るってのも含めて、信長の世界とする」


「ふんふむ。それで?」


「それらを全部合わせると……VRMMOの世界より多い」


「…………本当に無駄な知識ですね。そして話がヘタです」


「なんだよいいだろ無駄知識なんだから」


 毒にも薬にもならないからこそ、無駄知識というのは素晴らしいのだ。

 知っていても自慢にならない。これがハードルを下げ、嫌味っぽさを薄れさせる。


「実際増えすぎた信長派生キャラを戦わせる世界ってのがあるらしいしな」


「そちらの方が面白い知識ですわ」


「マジで?」


「面白そうじゃない。その世界は救ってないの?」


「だって俺信長派生キャラじゃないし」


 そんなわけでまだ行ったことのない世界もある。

 異世界は無数にあるのさ。


「よし、そんじゃあ今回は本能寺の変にするか」


 そんなわけでゲーム変更。舞台を戦国にして、俺達がいる場所も団子屋へ。

 本能寺にて、信長を討とうとする光秀が、今正に寺についた時点まで進めた。


「はい、夜のお寺に来ています。これから護衛任務をやってもらう」


 団子屋を出ると、そこは本能寺ど真ん中。信長の寝室の横へ移動した。


「唐突ねえ」


「作戦の詳細を希望します」


「織田信長のNPCが無事に本能寺から脱出できるように護衛しろ。信長はオートで動く。体力がゼロになるとゲームオーバーな」


「シンプルでいいですわね」


「今回からダメージを食らうと、回復しなけりゃペナルティが出る。実戦じゃあ怪我は死につながる。動きも鈍る。その中で戦い方を覚えろ」


「徐々に授業のレベルが上っていますね」


「そ、ちょっとだけな。そして信長さんはこんな感じ」


 隣の部屋への障子を開ける。微動だにせず立っている一人の男。

 ちょんまげとヒゲの渋いおっちゃんである。

 ラフな着物を着た、威厳のあるフェイス。気に入ったゲームからコピペしました。


「法螺貝が鳴ったらゲーム開始。頑張れよ。加護を与えた勇者がやばいと思って、世界を救うつもりでやれ」


「精一杯やってみますわ!」


「私に任せなさい!」


「任務了解です」


 そして高らかに鳴り響く法螺貝。さあ、護衛の始まりだ。


「あ、俺は手を出さないからな。飛んでくる攻撃も防がないし、敵も倒さない」


「わかってるわよ。うわ、なんかいきなり燃えてる!?」


 火矢を放たれたところからスタート。

 徐々に家屋が燃え始めた。ついでに俺たちのもとへ敵の声が届いている。


『信長様!』


 部屋に入ってくる男の子。小姓というやつだ。


『何事だ』


『明智殿、ご謀反!』


「NPC喋るのね」


「臨場感出るだろ?」


 こういうのは雰囲気が大切だ。実際に守る対象が人間臭いとやる気出る。


『お逃げください! 蘭もお供いたします!』


「そういえば謀反の原因ってなんなの?」


「世界によってまちまち。今回は特に決めてない」


「雑ですわ……」


 移動を開始した信長と蘭丸。ぴったりと横につく駄女神一同。

 そろそろ第一波が来る頃だな。


『信長! 覚悟!』


 曲がり角より、鎧武者が数体出現。

 刀と槍で武装している。外からは矢が飛んで来るようになった。


「倒していいの?」


「見極めろ。敵か味方か、自分達で判断して、信長を守れ」


「これは……想像以上に難易度の高いミッションですね」


「そういうこと。頑張れ」


 やってくれるといいなーと思ったりしているぞ。


『蘭、弓を持て!』


『はっ、ここに!』


 信長は弓と小振りな刀。着の身着のままという風体だからな。

 突然の襲撃だし、信長が全員倒しちゃ意味がない。


「ケリュケイオン!」


 遠距離攻撃で数を減らす。定石だな。

 信長への接近を許さず立ち回る。それで正解だ。

 危険から遠ざけることが大切である。


『信長様! 火矢が!』


 壁の向こう側から火矢が飛んでくる。

 急いで移動するが、その途中にも矢は飛んでくるし、敵も出現。


「わたしに任せなさい! ドリルスパイラル!」


 ブリューナクを回転させ、ドリルのように使い竜巻を飛ばす。

 矢が集められて飛んでいった。結構工夫して戦いやがるじゃないか。


「はーっはっはっは! これがわたしの本気よ!」


 調子に乗って外壁までぶっ飛ばし、そこから敵がわんさかと出ましたよ。


「えええぇぇぇ!? なんでよ! こういうのって壊れないのがお約束でしょ!」


「ああ、壊れるぞ。リアルさを追求してみた」


「余計なことしないでよおおぉぉぉ!!」


「まったく……手間のかかる駄女神ですね」


 ローズの剣舞と、刃から飛び出す魔力によって、雑魚が散らされていく。

 こいつはなかなかに爽快感がある。


「くっ、この炎の中で服が燃えたら……火傷しますね。服が脱げない」


「脱ぐな脱ぐな」


「……信長に見られるというのは、抵抗よりもちょっと、ほんの少しだけ記念になりそうという気持ちが上回りますね」


「知るか!」


 アホにいつまでもかまっていてはいけない。

 俺は先生として、この授業を見守るのだ。


「ほーら、ぼさっとしてっと信長がどんどん先行くぞ」


「なんでよ! ちょっとあんた止まりなさい!」


 ダッシュで近づき、信長に触れようとしたサファイアの手が……なんとすり抜けてしまう。


「うえっ!? ちょとと……おおわ!?」


 バランスを崩して庭の池へと突っ込んでいくサファイア。

 うまいこと足だけ出しやがって。ちょっと面白いじゃないか。


「ぶはあっ!? ああもうなんでこうなるのよ!」


 お、流石野生児。タフだな。怪我もないようだ。


「イベントNPCだから当たり判定作ってないし、オートで動くぞ」


「だから先に言いなさいよ!」


「腕が……重い?」


「なんですのこれ?」


 駄女神二人が体の異常を訴えている。ダメージくらうとそうなるようにした。


「攻撃に当たったろ?」


「かすった程度ですが」


「体の重い部分が傷の役割だ。回復の加護は与えたろ。あれで回復しないとダメだぞ」


「そうは言いましても、攻撃が苛烈になってきていますわよ!」


「その中でいかに回復するかも授業のうちだ」


 回復のタイミングって難しいんだよ。なれないと戸惑うだろう。

 安全なうちに学んで欲しい。これは個性が出るだろうし、絶対の正解はないので、要訓練である。


「この私が攻撃を食らうとは……」


「誰かを守って戦うのは、熟練者でも難しいのさ。頑張れよ」


「余裕よこんなもの! 二人とも、これで動けるでしょ?」


 手のひらから発射される暖かい光。サファイアの魔力は回復にも使える。

 よって瞬時に両者回復。こいつ敵なら厄介だろうな。

 野生の勘にハイパーパワー。そして回復能力が高い。


「助かりました」


「ナイスですわ!」


「慣れてきたら魔法障壁無しでやってみ。相当しんどいぜ」


「やってやろうじゃない!」


 そんなこんなで鎧武者を倒し、回復魔法の使い方を実戦で学んでいった。

 そこから大きな襖を開けて、二つ目の中庭に出る。

 雲一つない夜空に、綺麗な満月がひとつ。そして一面に広がる砂である。


「次から本能寺の砂漠地帯だ」


「どういうことよ!?」


「本能寺の中庭には、砂漠地帯があります」


「ないわよ! あってたまるもんですか!」


「先生、さては軽い遊び心で凝り始めたら、止まらなくなりましたわね?」


「うむ、箱庭ゲー結構好き」


 これが凝り始めたら止まらない。修行できつつ面白い本能寺を作っていたら、それはもう変なものができましたとさ。俺は満足だけどな。


「ほらもう信長さんラクダ乗っちゃったから」


 信長と蘭丸が、ラクダに仲良く二人乗り。

 まっすぐに砂漠の先を見つめていらっしゃる。


「なんというシュールな絵面ですか」


『ゆくぞ蘭。ここを抜ければ、本能寺脱出は目の前ぞ』


『はい! ラクダの操縦はお任せ下さい!』


「ほら信長さんも本能寺だって言ってるぞ」


「言わせてるだけでしょうが!」


「よーしみんなでラクダ乗るぞー」


「聞きなさいよちょっとおおおぉぉぉ!!」


 明智光秀の追っ手がいつ来るかわからない今、駄女神たちに選択肢はなかった。

 こうして護衛しながらラクダでの砂漠横断が始まった。

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