ラノベ主人公でも駄女神だよ

 肝試しも終わり、次の日は雨。仕方ないので室内で読書。

 適度な休息は大事。のんびりと広いリビングで寛いでいると、サファイアが妙なことを言い出した。


「わたしもラノベ主人公になれないかしら」


「サファイア……暑さのせいでおかしくなったのですね」


「これは重症ですわね」


「なんでよ!? ラノベ主人公って強いじゃない。これとか!」


 サファイアの手には、女神界で人気らしいラノベ。

 静かだと思っていたら、そんなもん読んでやがったのか。


「凄いわよ! 超かわいい女の子にモテて、異世界ハーレムとかして、超パワーでさっくり世界も救えちゃうの! 楽勝で魔王とかぶっ飛ばすのよ!」


「んなもん現実にいるわけねえだろ」


「なんでよ! 女神が加護を与えれば、そんくらい余裕じゃない?」


「つまりお前は主人公じゃないな」


「…………よくそこに気付いたわね」


 こいつのアホさ加減はどうすればいいのさ。

 これは強さと関係ないから伸ばし方がわからん。

 やはり教師として未熟ということか。


「大丈夫ですわ先生。きっと先生は考え過ぎですわ」


「そうかな?」


「サファイアがアレなのは、もう誰がどうしようと改善できませんから」


「なんか今日わたしの扱いがひどいわ……」


「結局どうしたいんだよ?」


「ラノベ主人公は強くて楽そう! これになればわたし最強じゃない?」


 そうだね。最強にアホだね。まあ強いやつへの憧れってのはあるだろう。

 これをやる気に変えて、成長させるのも教師の仕事かもしれない。

 詳しく聞いてやるとするか。


「加護っていうかもう反則級のチート能力よ。それがあれば万事解決なスーパー能力。そういうのがあればいいのよ」


「別に無くても困らないぞ。あれば役に立つ機会がある。だが絶対じゃない。異能ってのは百円ショップの便利グッズみたいなもんだよ」


 異能は弱点や制約があったりするからな。面倒だ。

 仕組みを理解するのが面倒になるし、鍛えていればいいだけ。


「なければ魔王とか邪神と戦えないでしょう?」


「そんなもん殴れば死ぬだろ」


「異能や伝説のアイテムがなくなれば、魔王城の結界を消したり、敵の無敵バリアーや不死能力に対処できず、ピンチに陥ります」


「殴れば壊せるぞ」


「あんたそればっかりか!? あまりにも脳筋過ぎるでしょ!」


 脳筋は心外だぞ。俺はそこそこ頭使っているはず。

 頭脳戦も数え切れないほどやったし。単純に殴るのが一番早いだけだ。


「いやだって普通に殴ればどうにかなるだろ」


「なるか! なってたまりますか! 頑張ってる勇者に謝りなさい!」


「俺だって勇者だったんだよ。今ちょっと先生やってるだけ」


「昔は異能も使っていたのでしょう?」


「ああ、今だって使おうと思えばできるよ。なんつうかね……いつからだっけな……殴ったほうが早いじゃんって気がついたんだよ」


 反射とか精神体とか、気合い入れて殴れば解決するし。

 死の呪いとか、超能力や時間停止とかは体に力を入れたら消える。


「最終的にはシンプル・イズ・ベストってことだろ」


「それじゃつまんないわよ。わたしのかっこよさが出ないでしょ。主人公っていうのはこう、凄い血筋で……」


「女神女王神様の娘ですわね」


「とてつもない秘めたパワーがあって」


「魔力は化け物級だな」


「絶世の美女で」


「女神はみんな超絶美形ですが」


 こいつ……本当にスペックの無駄遣いだな。

 主人公になってもいい要素てんこ盛りじゃないか。


「じゃあなんでわたしは駄女神扱いなのよ!!」


「アホだからだよ」


「直球はやめて!?」


「ほぼ条件は満たししているのですね。諦めてはどうですか?」


「ほぼ満たしてたら目指すでしょう! あとはあれよ! 撫でたり笑顔で即落ち2コマシリーズよ!」


「クソみてえな雑学知識つけやがって。あのなあ……撫でたり笑ったりで女を落とせるわけ無いだろ」


 そんなことで惚れるやつがいるか。異世界めぐっちゃいるが、そんな経験はない。


「なに? あんた長年勇者やってて一回も経験ないの?」


「ねえよ。悪かったな。人生そんな都合良くはいかねえんだよ」


「カレン、そのあたりどうなのですか?」


「えっ、あ、あはは…………どうなのでしょう。そもそも仲間がいないような気がしますわ」


 何故目をそらすカレンよ。別に仲間がいなくても仕方がないだろう。

 駄女神で手一杯だし。そもそも俺と女神についてくる人間がいないんだよあ。


「仲間がいないってより、合わせると冒険が進まないんだよ」


「先生の冒険者時代ですか。そこはかとなく興味があります」


「駄女神と一緒に四天王とか倒して、各地の美味いもん食って、温泉とか行って、避暑地をふらっと訪れて……」


「ほぼ観光じゃない」


「せっかくの異世界だぞ。満喫しないでどうする」


 異世界ごとの特色とか食い物の調査は、俺の娯楽のひとつである。

 なんだかんだで飽きないのさ。


「仲間にしてーって人とかいないの? 女の子助けたりして、好きになられたりとか」


「万が一惚れられたとして、戦いの日々だぞ。連れていけるかよ」


「先生はレベル上げをせず、直接幹部の城に行ってしまうので、仲間が同行できないのですわ」


「仲間の欠点ってどんなもんよ? 改善すればパーティー組めるでしょ?」


 欠点か……駄女神が一緒っていう最大の欠点は言わないでおこう。


「まず毒の沼地に入ると死ぬやつがいる」


「そりゃそうでしょ」


「あとマグマや海底に長時間いると死ぬやつが出る」


「普通は短時間で死にます」


「宇宙に出ると……」


「もういいわ! あんたパーティー組むの向いてないのよ。女神じゃないとついていけないわ」


 状態異常と環境に適応するのは大切だろう。

 そうやって俺は一個一個丁寧に自分の弱点を克服してきた。

 そういう地味な積み重ねが、今の俺を作ったのさ。


「特殊能力と女の子にモテる。パーティーはきついから現地妻を量産する方向ね」


「いねえよそんなもん」


「わたしが主人公になったらよ。あとなにがいるかしら?」


「知性とか」


「無理ですわね」


「なんでよ!? あるわ! 知性くらい超あるし! ハイパーあり余ってるわ!」


 その発言が既にバカっぽいだろう。真面目にどうするかな。

 地味に計算問題とかはできる。つまり先天性のアホなわけで。

 頭はいいけどアホという、教師にとっちゃ一番タチ悪いタイプだ。


「あとラノベっぽさってなに? 裸? とりあえず女の子が脱ぐわよね」


「こうですか?」


「脱ぐな!」


 当然のようにローズが全裸である。

 そういや何故か女の子が脱ぐシーンは多いな。


「あと装甲がぱーんってなって脱げる。攻撃とかで」


「装甲そのものがいやらしかったりしますわね」


 そういやそんな世界もあったな。パワードスーツ的なやつ。

 倉庫にしまいっぱなしだし、ちょっとくらい手入れしてやろうかな。


「確かにするな。っていうか詳しいなお前ら」


「暇な時に、サファイアから布教されています」


「余計なことを……」


 女神が三人でラノベとかアニメ見てるのか。

 なんかシュールじゃございませんか。


「学友と趣味に没頭する。って言うとそれっぽくない?」


「それっぽいだけだろ」


「この合宿場にもDVDいっぱいありますよ」


「持ってきたのか?」


「いいえ、備え付けですね」


「備えんなや。何に備えてんだよ」


 無駄な充実具合はなんなの。女神はどんだけ暇なのさ。


「雨ふっちゃってるし、なにか見ましょうよ」


「あーまあ……やることないしな。運動したら身体は休ませないといけないし」


 毎日ぶっ続けの運動というものは、実は効率が悪い。

 一年という限定された期間の中で、効率よく成長させるなら、努力と根性は使い所を間違えてはいけない。それを適切に導くのも教師の役目だ。


「女神女王神VSメカ女神3あるわよ」


「そういや3見てないな」


「いっそ5くらいまで見ませんか?」


「外伝の激闘ダーク女神編もありましたわ」


「どんだけシリーズあんのさ」


 仕方ないので、あくまで仕方ないので一緒に映画を見る。

 でっかいプロジェクターが設置されているのはこのためか。

 豪華な家だと思ったが、異様に設備が整ってやがるぜ。


「はい、じゃあ上映会やるから、飲み物と簡単な食べ物でも持ってくるのよ」


「先生、お菓子を持ってきました!」


「ジュースもバッチリデース!」


 リビングに全員集合。とりあえず映画見ながらぼーっとするか。

 たまにはこんな日があってもいいだろう。

 明日からまた訓練だ。次はどんなことをしてやろうか。

 映画にヒントがあったらいいなーと、まったりしながら思うのであった。

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