雪合戦でも駄女神だよ
きっかけは合宿場にあった装置。
見たこともない、それでいて結構大きめの装置がグラウンドに設置されている。
「なにこれ、スイッチ押していい?」
「言いながら押すな!!」
降雪機でした。一瞬で辺り一面銀世界です。
「これはもう雪合戦ね!」
「反省しろや!」
そんなわけで雪合戦です。
「えーアホのせいで雪がふりました。なので訓練の一環として雪合戦します」
防寒装備に着替えてグラウンドに集合。
いつもの三人は、急な雪で浮足立っている。
「ルールは簡単。三人で俺に魔力を込めた雪玉を当てろ。回数によって褒美を与えるぞよ」
「なぜ急に口調変えたのですか」
「気分だ。んじゃ、頑張れ」
「先手不意打ちアタック!」
サファイアはやっぱり開始早々に雪玉をぶん投げてきた。
「悪くないが、俺の説明中に堂々と雪玉作ったらバレるぞ」
雪玉豪速球を軽く回避。魔力コーティングのおかげで、崩れないで飛んでくる。
よしよし、実はこういう魔力操作は経験ないはず。
慣れさせよう。魔力とは想像力でいくらでも戦えるものなのだ。
「服を着込む。それは窮屈ですが、魔力が上がるということですよ」
ローズはこういうの得意そうだなーと考えていたら、足元から雪玉が顔を狙って飛んできた。
「おぉっ、そうきますか」
雪は結構な量が積もっている。
雪の中を潜行させたか、足元で魔力の雪玉にしたか。
いずれにせよ応用力は高いな。
「まあ、当たらないと思っていましたよ」
「いやいや、いいアイデアだ。俺じゃなきゃいけると思う。ただ、当たっても油断はしないこと。こういうのは即死級の技じゃない。しかも一発撃ったら警戒される」
「参考にします」
「では、次はわたくしが」
雪玉を抱え、高速で俺の背後に回るカレン。
さて、なにをしてくれるかな。
「雪玉ショットガン!」
雪玉を全部俺へ投げ、すかさず魔力を打ち込んで散弾銃のように使ってきた。
「ふりかけスプラッシュといい、散らすの好きだなお前」
「ふりかけは……ふりかけるものですわ!」
「意味わからん。決め台詞なのか?」
とりあえず防御しておこう。足元の雪を魔力で壁に変える。
「まだまだですわ!」
四方八方から散らしてくる。めんどいな。いっそ周囲を壁で囲んでしまおう。
雪の壁完成。ちょっとずるいか。
趣旨変わりそうだし、試行錯誤させて、解除してやろうかな。
「ムキになっても、楽しく遊んでもダメだ。俺の仕事は教師。この訓練でも生徒を成長させることを第一に考えよう」
「思案に暮れるとは余裕ですね」
「ん?」
上から声がした。ふと見上げると、でっかい雪玉をコントロールしているローズ。
「雪玉波!!」
完全に姿を隠してしまうのは、訓練っぽくない気がして天井をつけていなかった。
それを察したのか、上から巨大な雪崩が、規則正しくビームのように落ちてくる。
「打ち返し……は駄目だな。当てることがルールなんだし。退避ーっと」
別に軽く腕を振れば消せる。しかし、当てろというルールにしておいて、無理やりぶっ壊すのは違うだろう。壁を解除し、外へ一歩踏み出す。
「よっしゃここだー!」
サファイアが投げてきた玉を、軽く体を傾けて回避。
「あーもうなんでよ! 一回くらい当たりなさいよ!」
「サファイアの案は外れましたね」
「いい感じだと思いましたのに」
がっかりしたり、怒ったりと反応はそれぞれ。
楽しんでいるようで何より。
「先生のほうが上手でしたね」
「えー、あいつ絶対横着するから狙い目だと思ったのに……」
「どういうことだ?」
「企画原案はこのわたしなのよ!」
カレンとローズに目をやると、二人とも頷いている。
「ほう……本当にサファイアの案なんだな」
「カレンのショットガンからわたしよ。横着して一歩も動かないだろうから、先手取って全員でかかればいけるって思ったのよ」
「壁を作らせて、上から潰すところまではよかったのですが」
「ちなみにかまくらっぽいものを作ってたら、どうする気だった?」
「三人で目一杯雪を積もらせて隠れるわ。カレンがそれはしないだろうって言ったけど」
「あくまで訓練。なので先生ならば、どこかにヒントを作ってくれる。そう信じておりましたわ。わたくしと冒険していた時からそうでしたもの」
こいつら……完全に手加減前提とはいえ、先読みしやがったのか。
カレンは付き合いが長いから、まあ読んでくるとして。
恐るべしサファイアの野生の勘。そういうやつは結構好き。
意外性ナンバーワンだな。もっと俺を楽しませてくれ。
「いいぞ、もっと考えろ。俺を満足させてくれ」
「なに言ってんの急に?」
「いや、なんか楽しくてな。俺と戦ってくれるやつがいなくなって長いんだ。だから、こういう意表をついてくれるやつ大好き。もっとどんどん来い」
「なんかキモいわよ……」
はしゃいでいたらキモいと言われました。
うん、教師として頑張ろうって、さっき決めたばっかりだしね。
でも楽しくなっちゃったので遊ぼう。
「次はもっと殺傷能力を上げてみるわよ!」
「サファイア、ブリューナクを雪で包んでどうしようというんだ」
「投げるわ!」
そんながっつり親指立ててウインクされても、許可できません。
「あくまで雪を使え。武器ダメ。魔力のコントロール訓練も兼ねてるんだから」
「しょうがないわねえ」
「ふむ、ダメですか」
こっそり妖刀村正の雪を落としているローズ。お前もかい。
「んじゃ俺もちょっと反撃しようかな」
魔力で創造した即興のガトリングガンを出す。
「武器ダメなんでしょ!?」
「安心しろ。掃除機みたいな部分あるだろ? これで雪を吸い上げて、撃ち出すんだ。あくまで雪玉が出る」
「そのおもちゃはどこで売っているのですか……」
「今俺が思いつきで作った。ほーれ撃つぞー。足場の悪い場所で逃げ続けてみるんだ」
キュルキュル音を出して、どがががーっと雪を撃ち出す。
うむ、気持ちがいい。さあ頑張れ。
「うわわわわわ!?」
「それはずるいですわ!」
「なんと面倒な……」
慣れない雪に足を取られ、なかなか逃げ切れない駄女神一同。
「わきゃ!?」
「ぶふう!?」
「あうっ!?」
何発かは当たる。冷たいだろうが、殺傷能力はないから問題なし。
「さ、どう切り抜ける?」
「その銃はひとつ! ならこれよ! 女神超スローボール!」
スローとは名ばかりの、でっかい雪玉が正面から転がってきた。
「転がす手段できたか。まあ投げろとは言ってないし」
転がる途中で雪を吸収してでかくなってやがる。
ガトリングの雪弾は小さく、威力も微妙。
大きな雪が転がってくれば、砕くことはできない。しかも吸収してやがる。
「色々思いつくもんだな」
面倒なのでジャンプで避けるが、上からゆっくりと落ちてくる大きな雪の塊。
「必殺雪だるまアタックよ!」
なるほど、直球と山なりスローボールの挟み撃ちね。
「ん、いい線いってたぞ」
かわせないほどじゃない。普通に空中で方向転換して、横に着地。
でっかい雪だるまさん完成。
「おー見事な雪だるまだこと」
何の気なしに触れてみる。ちゃんと魔力で固めてあるんだな。
「ここまで大きいと可愛くありませんわね」
カレンが笑いながら横に立って、雪だるまを見ている。
「そういえば、雪国を旅した時は、雪遊びなどしませんでしたわね」
「そういや本格的には遊んでなかったな」
「なんだか遠い昔のようで、つい最近のような、不思議な気持ちですわ」
確かに。カレンとの冒険の日々は、今でもちゃんと思い出せる。
なのに、こっちにきてから波乱万丈な生活だからか、随分と昔な気もした。
「本当はもっと先生と遊んで、色々な思い出を作っていきたかったのです。冒険は長かった。ですが、ちょっと物足りないと思っていましたの」
「そうか、そいつはすまなかった。せっかく一緒なんだ。もうちょい思い出作ってみるか」
「はい先生。これからも末永く、よろしくお願いいたしますわ」
「ああ、こちらこそよろしく」
差し出されたカレンの手を握り返す。
なんだかしんみりしちまったな。
「……かかりましたわね」
「なに?」
「せいさー!!」
「おおおおりゃああぁぁ!!」
突然雪だるまの上下から手が生え、雪が魔力にまかせてぶっ飛んでくる。
超至近距離だが、かわせないほどじゃない。カレンに手を握られていなければな。
「うおっぷ!?」
思いっきり顔に雪がかかる。
痛みはないが、冷たい。全身雪まみれだ。
「ふっふっふー! かかったわね!」
「やりました。流石はカレンです」
「これぞ二人だけの思い出大作戦ですわ!」
「お前……きったねえぞ!」
雪だるまの中に入っていたサファイアとローズ。
一杯食わされたというわけか。いやいやずるくないかこれ。
「完全に騙されたぞ」
「それはそうでしょう。わたくしの本音ですもの。わたくしは心の中をさらけ出しただけ。そこは本気でしたわ」
「カレンだからこその荒業です。ぐっじょぶカレン」
「よくやったわ!」
「あーあやられちまった……一生の不覚」
変な知恵が回りやがるな。油断もあったが、マジで当ててくるとはな。
「これも思い出の一つですわ」
「はいはい。次からは普通に言え。そしたらもっと面白い思い出を作ってやるさ」
「楽しみにしていますわね」
カレンはちょっと自分の主張と言うか、甘えるのが苦手な部分があったからなあ。
治ったと思っていたが、それでも寂しいもんは寂しいんだろう。
これは反省。もうちょいしっかり見てやるか。
「で、ちゃんと当てたわけだけど。ご褒美って何?」
「ああ、そういや言ったな。新しい加護スキルと、合宿の終わりをくれてやる。明日には家に帰れるぞ」
水生成と状態異常回復魔法。同じく状態異常耐性をプレゼント。
これらは便利スキルとして需要がある。生活も楽になるしな。
「水は慣れたら軟水・硬水・炭酸水と出せるものが増える。あって損はない」
「冒険には必須ですね」
「勇者は大変ですもの」
「いいけどさー。もっとこう……海の時みたいに高級お肉とかないの?」
食い意地張りやがって。だがその質問は予想済みだぜ。
「あるぞ。最上級すき焼きを作ってもらっている」
「いやっほおおぉぉう! さっさと戻るわよ!」
「楽しみです」
ダッシュで家に入っていく二人。訓練の後だってのに、元気だねえ。
「んじゃ行くか。ここは冷える」
「はい先生。急がないと全部食べられてしまいますわよ」
「そいつは困る。急ごうか」
雪をささっと魔法で消し、急いで家の中へ。
雪合戦なんぞやっていたからか、暖かいすき焼きは、それはもう美味かったよ。
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