第30話 雪合戦でも駄女神だよ

 きっかけは合宿場にあった装置。

 見たこともない、それでいて結構大きめの装置がグラウンドに設置されている。


「なにこれ、スイッチ押していい?」


「言いながら押すな!!」


 降雪機でした。一瞬で辺り一面銀世界です。


「これはもう雪合戦ね!」


「反省しろや!」


 そんなわけで雪合戦です。


「えーアホのせいで雪がふりました。なので訓練の一環として雪合戦します」


 防寒装備に着替えてグラウンドに集合。

 いつもの三人は、急な雪で浮足立っている。


「ルールは簡単。三人で俺に魔力を込めた雪玉を当てろ。回数によって褒美を与えるぞよ」


「なぜ急に口調変えたのですか」


「気分だ。んじゃ、頑張れ」


「先手不意打ちアタック!」


 サファイアはやっぱり開始早々に雪玉をぶん投げてきた。


「悪くないが、俺の説明中に堂々と雪玉作ったらバレるぞ」


 雪玉豪速球を軽く回避。魔力コーティングのおかげで、崩れないで飛んでくる。

 よしよし、実はこういう魔力操作は経験ないはず。

 慣れさせよう。魔力とは想像力でいくらでも戦えるものなのだ。


「服を着込む。それは窮屈ですが、魔力が上がるということですよ」


 ローズはこういうの得意そうだなーと考えていたら、足元から雪玉が顔を狙って飛んできた。


「おぉっ、そうきますか」


 雪は結構な量が積もっている。

 雪の中を潜行させたか、足元で魔力の雪玉にしたか。

 いずれにせよ応用力は高いな。


「まあ、当たらないと思っていましたよ」


「いやいや、いいアイデアだ。俺じゃなきゃいけると思う。ただ、当たっても油断はしないこと。こういうのは即死級の技じゃない。しかも一発撃ったら警戒される」


「参考にします」


「では、次はわたくしが」


 雪玉を抱え、高速で俺の背後に回るカレン。

 さて、なにをしてくれるかな。


「雪玉ショットガン!」


 雪玉を全部俺へ投げ、すかさず魔力を打ち込んで散弾銃のように使ってきた。


「ふりかけスプラッシュといい、散らすの好きだなお前」


「ふりかけは……ふりかけるものですわ!」


「意味わからん。決め台詞なのか?」


 とりあえず防御しておこう。足元の雪を魔力で壁に変える。


「まだまだですわ!」


 四方八方から散らしてくる。めんどいな。いっそ周囲を壁で囲んでしまおう。

 雪の壁完成。ちょっとずるいか。

 趣旨変わりそうだし、試行錯誤させて、解除してやろうかな。


「ムキになっても、楽しく遊んでもダメだ。俺の仕事は教師。この訓練でも生徒を成長させることを第一に考えよう」


「思案に暮れるとは余裕ですね」


「ん?」


 上から声がした。ふと見上げると、でっかい雪玉をコントロールしているローズ。


「雪玉波!!」


 完全に姿を隠してしまうのは、訓練っぽくない気がして天井をつけていなかった。

 それを察したのか、上から巨大な雪崩が、規則正しくビームのように落ちてくる。


「打ち返し……は駄目だな。当てることがルールなんだし。退避ーっと」


 別に軽く腕を振れば消せる。しかし、当てろというルールにしておいて、無理やりぶっ壊すのは違うだろう。壁を解除し、外へ一歩踏み出す。


「よっしゃここだー!」


 サファイアが投げてきた玉を、軽く体を傾けて回避。


「あーもうなんでよ! 一回くらい当たりなさいよ!」


「サファイアの案は外れましたね」


「いい感じだと思いましたのに」


 がっかりしたり、怒ったりと反応はそれぞれ。

 楽しんでいるようで何より。


「先生のほうが上手でしたね」


「えー、あいつ絶対横着するから狙い目だと思ったのに……」


「どういうことだ?」


「企画原案はこのわたしなのよ!」


 カレンとローズに目をやると、二人とも頷いている。


「ほう……本当にサファイアの案なんだな」


「カレンのショットガンからわたしよ。横着して一歩も動かないだろうから、先手取って全員でかかればいけるって思ったのよ」


「壁を作らせて、上から潰すところまではよかったのですが」


「ちなみにかまくらっぽいものを作ってたら、どうする気だった?」


「三人で目一杯雪を積もらせて隠れるわ。カレンがそれはしないだろうって言ったけど」


「あくまで訓練。なので先生ならば、どこかにヒントを作ってくれる。そう信じておりましたわ。わたくしと冒険していた時からそうでしたもの」


 こいつら……完全に手加減前提とはいえ、先読みしやがったのか。

 カレンは付き合いが長いから、まあ読んでくるとして。

 恐るべしサファイアの野生の勘。そういうやつは結構好き。

 意外性ナンバーワンだな。もっと俺を楽しませてくれ。


「いいぞ、もっと考えろ。俺を満足させてくれ」


「なに言ってんの急に?」


「いや、なんか楽しくてな。俺と戦ってくれるやつがいなくなって長いんだ。だから、こういう意表をついてくれるやつ大好き。もっとどんどん来い」


「なんかキモいわよ……」


 はしゃいでいたらキモいと言われました。

 うん、教師として頑張ろうって、さっき決めたばっかりだしね。

 でも楽しくなっちゃったので遊ぼう。


「次はもっと殺傷能力を上げてみるわよ!」


「サファイア、ブリューナクを雪で包んでどうしようというんだ」


「投げるわ!」


 そんながっつり親指立ててウインクされても、許可できません。


「あくまで雪を使え。武器ダメ。魔力のコントロール訓練も兼ねてるんだから」


「しょうがないわねえ」


「ふむ、ダメですか」


 こっそり妖刀村正の雪を落としているローズ。お前もかい。


「んじゃ俺もちょっと反撃しようかな」


 魔力で創造した即興のガトリングガンを出す。


「武器ダメなんでしょ!?」


「安心しろ。掃除機みたいな部分あるだろ? これで雪を吸い上げて、撃ち出すんだ。あくまで雪玉が出る」


「そのおもちゃはどこで売っているのですか……」


「今俺が思いつきで作った。ほーれ撃つぞー。足場の悪い場所で逃げ続けてみるんだ」


 キュルキュル音を出して、どがががーっと雪を撃ち出す。

 うむ、気持ちがいい。さあ頑張れ。


「うわわわわわ!?」


「それはずるいですわ!」


「なんと面倒な……」


 慣れない雪に足を取られ、なかなか逃げ切れない駄女神一同。


「わきゃ!?」


「ぶふう!?」


「あうっ!?」


 何発かは当たる。冷たいだろうが、殺傷能力はないから問題なし。


「さ、どう切り抜ける?」


「その銃はひとつ! ならこれよ! 女神超スローボール!」


 スローとは名ばかりの、でっかい雪玉が正面から転がってきた。


「転がす手段できたか。まあ投げろとは言ってないし」


 転がる途中で雪を吸収してでかくなってやがる。

 ガトリングの雪弾は小さく、威力も微妙。

 大きな雪が転がってくれば、砕くことはできない。しかも吸収してやがる。


「色々思いつくもんだな」


 面倒なのでジャンプで避けるが、上からゆっくりと落ちてくる大きな雪の塊。


「必殺雪だるまアタックよ!」


 なるほど、直球と山なりスローボールの挟み撃ちね。


「ん、いい線いってたぞ」


 かわせないほどじゃない。普通に空中で方向転換して、横に着地。

 でっかい雪だるまさん完成。


「おー見事な雪だるまだこと」


 何の気なしに触れてみる。ちゃんと魔力で固めてあるんだな。


「ここまで大きいと可愛くありませんわね」


 カレンが笑いながら横に立って、雪だるまを見ている。


「そういえば、雪国を旅した時は、雪遊びなどしませんでしたわね」


「そういや本格的には遊んでなかったな」


「なんだか遠い昔のようで、つい最近のような、不思議な気持ちですわ」


 確かに。カレンとの冒険の日々は、今でもちゃんと思い出せる。

 なのに、こっちにきてから波乱万丈な生活だからか、随分と昔な気もした。


「本当はもっと先生と遊んで、色々な思い出を作っていきたかったのです。冒険は長かった。ですが、ちょっと物足りないと思っていましたの」


「そうか、そいつはすまなかった。せっかく一緒なんだ。もうちょい思い出作ってみるか」


「はい先生。これからも末永く、よろしくお願いいたしますわ」


「ああ、こちらこそよろしく」


 差し出されたカレンの手を握り返す。

 なんだかしんみりしちまったな。


「……かかりましたわね」


「なに?」


「せいさー!!」


「おおおおりゃああぁぁ!!」


 突然雪だるまの上下から手が生え、雪が魔力にまかせてぶっ飛んでくる。

 超至近距離だが、かわせないほどじゃない。カレンに手を握られていなければな。


「うおっぷ!?」


 思いっきり顔に雪がかかる。

 痛みはないが、冷たい。全身雪まみれだ。


「ふっふっふー! かかったわね!」


「やりました。流石はカレンです」


「これぞ二人だけの思い出大作戦ですわ!」


「お前……きったねえぞ!」


 雪だるまの中に入っていたサファイアとローズ。

 一杯食わされたというわけか。いやいやずるくないかこれ。


「完全に騙されたぞ」


「それはそうでしょう。わたくしの本音ですもの。わたくしは心の中をさらけ出しただけ。そこは本気でしたわ」


「カレンだからこその荒業です。ぐっじょぶカレン」


「よくやったわ!」


「あーあやられちまった……一生の不覚」


 変な知恵が回りやがるな。油断もあったが、マジで当ててくるとはな。


「これも思い出の一つですわ」


「はいはい。次からは普通に言え。そしたらもっと面白い思い出を作ってやるさ」


「楽しみにしていますわね」


 カレンはちょっと自分の主張と言うか、甘えるのが苦手な部分があったからなあ。

 治ったと思っていたが、それでも寂しいもんは寂しいんだろう。

 これは反省。もうちょいしっかり見てやるか。


「で、ちゃんと当てたわけだけど。ご褒美って何?」


「ああ、そういや言ったな。新しい加護スキルと、合宿の終わりをくれてやる。明日には家に帰れるぞ」


 水生成と状態異常回復魔法。同じく状態異常耐性をプレゼント。

 これらは便利スキルとして需要がある。生活も楽になるしな。


「水は慣れたら軟水・硬水・炭酸水と出せるものが増える。あって損はない」


「冒険には必須ですね」


「勇者は大変ですもの」


「いいけどさー。もっとこう……海の時みたいに高級お肉とかないの?」


 食い意地張りやがって。だがその質問は予想済みだぜ。


「あるぞ。最上級すき焼きを作ってもらっている」


「いやっほおおぉぉう! さっさと戻るわよ!」


「楽しみです」


 ダッシュで家に入っていく二人。訓練の後だってのに、元気だねえ。


「んじゃ行くか。ここは冷える」


「はい先生。急がないと全部食べられてしまいますわよ」


「そいつは困る。急ごうか」


 雪をささっと魔法で消し、急いで家の中へ。

 雪合戦なんぞやっていたからか、暖かいすき焼きは、それはもう美味かったよ。

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