合格発表後も駄女神だよ
「カレー食べすぎた……ちょっと代わりに合格発表行ってきて」
食い過ぎでベンチに寝転ぶ駄女神一同。アホか。
「行けるかボケ。そんなになるまで食うな」
「不覚です。この私が……あの程度のおでんすら消化しきれないとは」
「牛すじがなかなか噛み切れないのが原因ですわ」
「絶対違うわ。お前らなあ……こっから試験とかあったらどうすんだよ」
「代わりに出て」
「できねえよ!?」
渋々回復魔法かけてやる。消化を助ける効果と、体調を整えてやって、気分が良くなるように効果を追加して……まったく、無駄な手間増やしやがる。
「あー楽になってきた。寝そう」
「寝るなや!」
「ちょっと毛布的なもの持っていませんか?」
「寝るなって!」
「大丈夫ですわ。こう……枕的なものをいただきたいだけですの」
「枕的なものと毛布あったら寝るだろ! 起きろ! もう調子戻ったろ」
俺の回復魔法なら即効性だ。こいつら眠いだけだろう。
「違うわよ。辛いのは治ったわ。ありがと」
「じゃあなんだよ?」
「単純に眠くなったのです」
「違わねえだろ!?」
「お腹いっぱいになると眠くなりますわね」
実は俺もちょっと眠い。眠気なんてカットできるけど、なくすとダメ人間になる気がしている。なので睡眠や食事はとるようにしています。
「いいから行って来い。もう発表だろ」
「はーい」
だるそうに移動を開始する駄女神一同。
二階に行くのが面倒だ。近場から覗いてみようか。
「一階で見られる場所いこうぜ」
「ではご案内いたします」
結果から言うと全員合格していた。よかった。マジでよかった。
「いやったー!」
「ふっ、私の才能が開花し始めましたね」
「先生! やりましたわ!」
「おう、おめでとう。全員中間試験合格だ!」
実は試験が始まるまで、ほぼ落ちるんじゃないかと思っていたよ。
俺の指導が間違っているかどうかも気になっていたので、内心ホッとしています。
「思った以上に体が軽かったわ!」
「成長を感じます」
「全力で動いてみて、初めて自分がどの程度なのか実感いたしましたわ」
体力測定というものが、今の自分を見つめるのに最適だったのだろう。
純粋に喜んでいるようなので、ここは激励しておく。
「凄い成長だぞ。いい傾向だ。そこからさらに自分を超えろ。そうすりゃ自然に強くなる。俺はそうだった」
「先生は少々特殊かと……」
「女神のほうが特殊なのでセーフだ。ってか合格者少ないな」
モニターを見ると、その場にいる女神の数に比べ、合格者が少ない。
「結構難関なのか?」
「どうでしょう? 私の時はもっと多かったように思いますが」
「駄女神が増えてんのかもな」
「深刻ですわね」
お前らもその一端だよ。今日はめでたい日なので、言わないでやるけどな。
「こんなん渡されたわよ」
「女神バトルランクマニュアル? めんどくさそうだな。分厚いし」
「簡単に言えば、下級ランカーはどんどん同ランクと戦い、中級に上がれ。上級は百位からだ。それだけ覚えておけば問題ありません」
「戦い続けてりゃあ、勝手にランクが計算されて上がるのか」
女神界の科学力って凄い。魔法も化学もぶっちぎりで発達して、むしろ一周回って自然を大切にしている。その程度のシステムはいくらでもできるのだろう。
『合格者諸君! まずはおめでとう!!』
モニターにでかでかと映る仮面の女。
仮面にマントで体を隠している。不審者ですか。
「なんだあいつ」
「ランク二位の女神仮面です。圧倒的な強さとカリスマ性で、グッズ展開もされています」
なにやら心構えとかの演説していらっしゃるよ。
まあスタープレイヤーは必要なんだろうし、俺から言うことはない。
「先生の知り合いだったりしないの?」
仮面を外しているが、なんというかこう男装の麗人枠というか、お姉様と呼ばれそうなやつだ。
「いや、完全に知らない女神だ。見たこともない」
「異世界には出向かないようですから、先生と遭遇する機会がないのでしょう」
「面倒なタイプだな。一生会わなくていいや。総員退避」
会場からそーっと退避します。面倒事は避けよう。
ただでさえでっかい面倒を三人分抱えているってのに。
そそくさと外まで移動した。
「終わってみればあっけないわね。武器も使わずに終わっちゃったわ」
「会場でぶっ放すと壊れるだろ」
「どこかで試したいですね。スキルが上がっても使えないと、しょんぼりします」
「一理ある。よし、課外授業だ。しばらくどっか行くぞ」
場所なんてどうとでもなる。女王神あたりに相談すれば、大抵の場所には行けるだろう。
「急ですね」
「あくまで予定だ。行きたい場所あるか? 広い場所がいいな」
「じゃあ海! まだ焼きそば食べてない!」
「覚えてたんだな」
焼きそばは海で食う。そんな暗黙の了解が発生し、家で焼きそばが出たことはない。そろそろ食いたくなってきたな。
「せっかく持ってきた武器が使えないままなのよ。こう、思いっきりぶっ放す機会と、遊ぶ機会を両立させるのよ!」
「武器? そういえば三人の武器を見ていないな。先生に預けているのか?」
「ここよ」
全員アイテム欄から武器を装備。
手元が光に包まれ、武器が現れる。便利なのでできるようにさせておいた。
「メニュー画面を使いこなせるようになってきました」
「これは先生の技術……やはり生徒にしていただきたい!」
「断固拒否で」
めんどいので拒否しておこう。もう独り立ちしてんだろクラリスは。
「みんな海でいいのか?」
「いいですわね海。水着は持っていますし、広い場所ですわ」
「賛成です。私も服というものに慣れ過ぎました。薄着になりたいです」
「そこは慣れっぱなしでいてくれ」
こいつも服に慣れさせないと。でも海だから水着着てりゃいいわけで。
それを狙っていたとしたら策士というやつだ。
「では私が前乗りして焼きそばと海の家を作っておきます。先生と三人はそのあとでいらしていただければ」
「お前はゲーセンと教官の仕事があるだろうが。っていうか付いてくる気か!?」
「ゲーセンは別の女神に譲ります。教官はしばらく休みです。あまりにも仕事をしすぎとのことで、長期休暇中でした。何も問題はありません」
「あるわ! いいから普通に休暇を過ごせ。焼きそばはみんなで作るんだよ」
「お供します」
「せんでいいわ!」
やばい。こいつマジでついてくるぞ。なんとか逃げたい。
「あ、いましたねー! 生徒のみなさーん。ちょっと待つデース!」
なんか聞き慣れた声がしてきた……うおいマジか。これ以上ややこしくすんなよ。
「美由希じゃない。なにやってんの?」
「センセー! お久しぶりデース!」
やっぱり美由希だ。カメラ持ってるし、今日は会場の取材かな。
会場と女神仮面とやらの取材であってくれ。
「またやっかいなのが……ここに来た目的を言え」
「今日はバトルランカー試験の合格者を取材デス。ちゃんとしたお仕事デスよ。いっぱい写真取ったデス」
ちらほらいた合格者の写真を見せてもらった。結構撮るのうまいなこいつ。
「どうやら本当に仕事みたいだな」
「イエース! 女神仮面の写真も取ったデス! 欲しいデスか?」
「いらね。興味ない」
女神の写真もらってどうすりゃいいのさ。しかも色物っぽいやつの。
「先生はああいうタイプお嫌いデスか」
「俺のことはいい。合格者の取材なんだろ?」
「おおう……そこはお仕事デス。三人の写真だけ撮らせてくださいデス!」
「いいわよ。わたしたちだけ撮られないのは、なんか嫌じゃない」
「そうですね。しっかり撮ってもらいましょうか」
「お願いいたしますわ」
どうもちゃんとした仕事っぽいので受けておこう。
他人の真面目な仕事は邪魔しない。こいつらの合格晴れ姿は、写真に収めてもいいだろう。記念になる。
「全員集合写真も撮っておくか。記念になるだろ」
「いいわね! お願いできる?」
「オッケーデース!」
三人がそれぞれポーズを取り、その後三人合わせて一枚。
さらに先生である俺を入れて一枚撮った。ちゃんと人数分くれるらしい。
「悪いな、俺の分まで」
「問題などあるわけがないのデス! センセーとワタシの仲ではありまセンか!」
「先生、美由希・アリアとそれほど深い仲なのですか?」
なんかクラリスが知り合いっぽい口振りである。接点なさそうなのに。
「そもそも美由希を知ってんのか?」
「クラリスさんは、たまーに雑誌の取材をお願いしているのデス。普段はクラリスさんファンの子がやるので、ちょっぴりだけ会ったことがありマス」
「ふーん、まあ二人とも俺が救った異世界担当女神だよ。変な揉め事はやめろよ」
意外な交流ってのがあるもんだな。女神界は広いのに。
「ほほう……やはりクラリスさんもセンセーガチ勢デスか」
「そのようだ。別段不思議ではないだろう」
「なんだよガチ勢って!? 怖いわ!?」
もう疲れたので転送魔法を展開。
危機を感じました。めっちゃだるいことになりそうだ。
「じゃ、写真は後日持ってきてくれりゃあいいから。またな、クラリス、美由希!」
「あ、先生!」
「ちょっと待つデース!」
三人連れて緊急離脱。危ない危ない。
家の前に転送完了。ひとまず逃げ切れたな。
「じゃ、海行く準備でもしようぜ」
「あんたも大変ね……」
生徒に同情された。その日、三人がちょっと優しかったです。
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