アイドル志望でも駄女神だよ

「アイドルってやつがやってみたいわ!」


 自宅リビングにて、座学の授業案を募集したところ、サファイアがそんな寝言をのたまってきやがりましたよ。


「それ以外でなんかあるかー?」


「なんでよ!? いいじゃない! 女神と似てるんでしょ?」


「似てるか? どこで仕入れてきた?」


「雑誌。アイドルはみんなからきゃーきゃー言われてチヤホヤされるって書いてあったもん」


「崇め奉られるという意味では同じかもしれません。一考の余地ありかと」


「あはは……実はわたくしもよく知りませんの。いい機会ですわ。先生、アイドルについてお勉強いたしませんか?」


 カレンはもう口調が昔に戻った。

 素が出ているのはいい傾向だろうから、俺からは何も言うまい。


「サファイアはなんで知らないんだよ。ゲームとかマンガ好きだろ?」


「わたしバトル漫画とか対戦ゲームが好きだし。女の子見てもつまんないじゃない」


 こいつ俺と好みが似てるな。なんとなく派手でかっこいい作品好きか。


「しょうがないか。んじゃ、今日はアイドルについてだ」


「やったー!」


 何を喜んでいるか知らんが、俺だってそれほど詳しくはないぞ。


「えーアイドルとは、歌って踊ってファン……まあ信者を獲得する商売だ」


「神が恩恵をもたらし、信仰心を得るようなものですか?」


「まあ似てるっちゃあ似てんな。ちょろい客さえ捕まえれば、もっと簡単に金になるし、堂々と商売していける点では、カルト宗教より正常だ」


「神は存在しない世界もありますからね」


「そうだな。実際に会える。同じ人間である。そういった点では、想像上の女神を上回ってすらいるだろう」


 よく考えれば考えるほど、アイドルとは恐ろしい商売だぜ。

 俺はアイドルにはまった時期がないんで、魅力がいまいちわからんけどな。


「歌ったり踊ったりでCDとかDVD売るんでしょ?」


「そうだな。ある程度売れる見込みが無いと、出してもらえないだろうけれど」


「地道にデパートの屋上で営業すると聞きます」


「俺より詳しくないか?」


「偶然見たアイドルを参考にしています」


 こいつら知識偏ってんなあ。女神界にもアイドルは存在するらしい。

 女神界はなんでもある。人間と男がいないだけ。

 つまり俺はイレギュラーなんだな。


「じゃあお前らの得意な歌でも聞いていこうか」


「ロックで!」


「ゆっくりめなら大抵はこなせます」


「バラードが好きですわ」


 とことんチーム組むのに向いてねえなこいつら。

 どうやってもまとまらない気がするぞ。


「では今度の音楽の授業でやりましょう」


「音楽の授業とか必要か?」


「娯楽は必要よ。でなきゃバトルばっかになっちゃうでしょうが」


「そりゃそうか。あとアイドルといえば……ダンス経験は?」


「ポールダンスでしたら」


「日本舞踊ならできますわ」


「五回に一回くらいブレイクダンスできるわよ!」


 見事にバラバラである。どう突っ込めばいいかわからないので、そのまま話を進めてしまおう。


「まあネタにはなるな。アイドルってことは魅力。言い換えれば強みがなきゃダメだ。それも本職より若干劣るくらいの高いレベル」


「お菓子作りとか?」


「そっち方面ならそれほど上手じゃなくても、場合によっちゃいける。最近はニッチなものを趣味にして、ネタにしつつ人気獲得を狙ったりする」


「結構努力とか必要なのね」


「ぶっちゃけレッスン地獄だぞ」


「早くもやる気がなくなってきたわよ」


 そうか、こっち系の話に持っていけばいいのか。

 こいつをコントロールしやすくなるかも。


「大変だぞ。単独じゃあきっついし、チーム組んでも埋もれる可能性がある」


「一人では駄女神でも、三人ならがんばれる。ということですわね」


「いい発想だな」


「そうね、無敵度が上がるわ!」


「やぶさかではありませんね」


 連帯感というか、仲間意識できてきてんな。

 いい傾向だ。協力プレーは覚えてもらおう。


「アイドルはユニットを組むことも多いそうですね」


「ああ、ユニットの利点は、人数による数撃ちゃ当たる作戦ができることだ」


「複数の中から好みの子を見つけ、その子のために応援する、ということですか」


「ネトゲの寄生プレイみたいね」


「言い方悪いがまあ……なにでブレイクするかわからんしなあ。トーク上手いとか、演技力凄いとかさ、才能ってあるだろうし、全員が美形じゃないからな」


「女神に容姿の心配なんて無いわよ」


 そう、女神ってやつは、揃いも揃って美形である。

 こいつらも、人間基準で言えば最高峰の美少女なんだが、まあ駄女神だ。


「それにもとから才能がなきゃ、女神なんてやってらんないわ」


「才能は腐りっぱなしだろうが」


「失礼な。最近は開花し始めましたよ」


「先生のおかげですわ」


 まあ成長はしているみたいだし、もうちょい長い目で見ますかね。


「なんかレッスン地獄で、色々やらされるってイメージしか無いんだけど」


「残念だがそんなもんだ。あとは愛想を振りまくんだよ。握手会とか、そういうやつ」


「めんどくさそう」


「女神界とは別世界の場合、私たちは男性向けアイドルということになるのでしょうか?」


「まあそうだな。男受け狙っていくもんだろう」


 女に受ける女アイドルってのがわからん。基本的に女と縁のある生活じゃない。

 おそらく女との出会いの数十倍、魔王や邪神と出会っている。

 そして屠っている。そんな生活していると女に、っていうか並んでくれる人間がいなくなるんだよなあ。


「女神だらけの水泳大会とかやるの?」


「お前本当に俗物だな。まず女神が集まんねえだろそんな企画」


「俗に言う女神行為ですね」


「急な下ネタ!?」


「んん? どういうこと?」


 サファイアが首かしげてやがる。いや知らなくて当然だな。


「忘れろ。じゃなきゃ、あとでカレンあたりが説明してくれるから」


「なぜわたくしに!?」


「俺が言ったらセクハラになるだろうが!」


 セクハラ教師とか最悪だろう。俺は健全に教師やるんだよ。

 そういや性欲とか異性への興味がなくなったのっていつだっけな。


「不特定多数の男性に肌を晒すのは抵抗がありますね」


「全裸で戦闘するやつが何を言う」


「女神界は女神しかいませんから」


「加護を与える時どうしてた?」


「その人だけが裸になると強くなります。男性の裸は見たくないので、女性勇者に交渉していました。完全に断られて、冒険に出てくれる勇者がいませんでした」


「そりゃ断られるわ」


 つまり男に見せる機会はなく、女神に見せることで欲望を満たす?

 それも微妙に違うっぽい。魔力が変質する事と関係があるのかも。

 カレンの件もあるし、一回徹底的に検査してみるかな。


「私の露出はこう……性欲ではなく、なにかが窮屈で、表に出ようとしているというか……男性に見られるのは嫌だという感覚はあります。触れられるのも嫌ですね」


「初対面でほぼ全裸だったよな?」


「女神に見せることが大切なような……なぜでしょう……女神の前に現れることに意味がある? 先生にはなぜか抵抗がありませんね。男女というより、人間を超越した存在だからかもしれません。この気持ちについて説明を要求します」


「俺にわかるわけねえだろ」


 先生は疑問を丸投げされても、答えられない分野があります。


「むしろここまで興奮が前面に出る理由がわかりません。今まで多少は義務感でやっていましたが」


「斬新過ぎる義務だなおい」


「女神全体の風紀が乱れますわ」


 乱れるだろうな。ただでさえ駄女神問題が深刻化してんのに、風紀まで乱れたら無法地帯になりそう。女神界も救わなきゃいけなくなる。うざい。


「興奮とかよくわかんない。性的にどうこうもわかんない。ゲームでテンション上がるのとは違うの?」


「別物だと推測します。どうなのですか先生?」


「カレンに聞け」


「またわたくしに!?」


 すまんカレン。だが俺もわからんのだ。同性から説明して欲しい。


「俺もそういう感覚なくなってんだよ」


「では困ったときはカレンに聞くということで」


「そんなのいやですわ!」


「結局何? ファンとそういうことしなきゃいけないってこと?」


「いいや、媚は売れ。身体は売るな。恋愛禁止で、客がどんなやつでも愛想よくしろってところだろう」


 このへんはどんな世界でも、ある程度一緒だと思う。


「アイドルの道は険しいものですわね」


「激務ですね。そして制約も多い」


「そういう連中相手の商売だからな。売れりゃでかいし、そういう手合いのおかげで飯食えるんだ。厳しくても耐え忍ぶ業界だな」


「じゃあやだ」


「だろうな。大丈夫だ。教師として、そんな商売は禁止する」


 結論、駄女神にアイドル活動は無理です。

 あとサファイアの感覚が、意外なほど子供であることが発覚。

 そっち方面の教育という。でっかい課題ができたのであった。

 どうしよう……最悪カレンに任せよう。すまんカレン。

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