ボスといっしょ!

双葉りそう

第1話 

「たべちゃうのだー!」

「食べないでくださいー」

『アライグマ、食べちゃだめだよ』

 黒いセルリアン騒動から一カ月、遊園地で新ジャパリバスのお披露目も終わった後、おのおのフレンズたちは久し振りに会った友人や珍しい顔と会話に花を咲かせていた。

 いくつかのグループの一つに、珍しい光景があった。ジャパリパークにおいて数はいれども注目されることの少ないラッキービースト、通称ボスが多くのフレンズに囲まれていた。

 正確にはかばんちゃんの腕についているボスの首輪にフレンズたちが声をかけていた。

「すごいのだ! ボスがアライさんの名前を呼んだのだ!」

「よかったねーアライさん」

 通常、ラッキービーストは園内のフレンズに極力干渉は避けるためにほぼ無視の形をフレンズ達にとっているわけで。かばんちゃんを通してとはいえコミュニケーションがとれることにフレンズたちは興味をもったのだ。

『………………』

「ねぇボス、ボクともしゃべってよー。レアアイテムの場所とか教えてよー」

「あなたそれまたゲームの話でしょ、もぅ……」

 とはいえ、誰とでも会話できるというわけではなかった。

 ボスにいろいろ話しかけるも無視されるキタキツネを見ながらサーバルとツチノコ曰く、

「やっぱりかばんちゃんを食べちゃうぞー! って言わないとボスしゃべってくれないねー」

「そもそもラッキービーストがフレンズと会話するには、ニンゲンであるアイツが危機に陥るのを防ぐという大義名分がないと駄目だからな」

「たいぎめいぶんって?」

「博士たちに聞いてこい!」

 ツチノコに言われサーバルはカレーをもくもくと食べている博士と助手に「はかせー! たいぎめいぶんってなにー!」「教えてほしいならカレーを作るのを手伝うのです、われわれは忙しいのです」「料理をもっと美味しくするために勤しむのです、われわれは美食家なので」とあしらわれている。

「つまり、食べるぞーって言えばボスは反応してくれるのよね? じゃあそれでいいじゃない」

 そうギンギツネが言うもののキタキツネの眉は困った感じのまま。

「でもボク、かばんちゃん食べれないよ・・・」

「いや食べる必要はないんだよ! フリだけでいいんだよ!」

 ツチノコがそう言うもののキタキツネは「ねーねーボスー」とかばんちゃんの腕ごとボスを揺さぶるだけで返答はやはりない。見かねてギンギツネがツチノコにたずねる。

「もうこの子ったら……ねぇ他にいい方法はない?」

「他の方法か、別に食べるだけが危機じゃねぇ。ニンゲンであるコイツに何かしてラッキービーストに『止めなくては!』と思わせりゃいいんだ」

「止めないといけないこと………ギンギツネ、なんかある?」

「私は普段からゲーム止めてお風呂はいりなさいって言ってるわね、あなたに」

「いまボクに言ってもぉ………あっ」

 お説教モードに入りかけているギンギツネだったが、キタキツネは何かを思いついたらしい。

 いままでボス(がついているかばんちゃんの腕)を揺するのを止めず、いままで見ていたボスではなくかばんちゃん本人に話しかける。

「ねぇねぇこんどウチに泊ってよーいいでよしょー?」

「えっ、急にどうしたの?」

 困惑するかばんちゃんだがキタキツネは揺するのを止めない。

「それでそれでいっしょに夜までゲームしよ。楽しーよ?」

「駄目よ、あなたそれ―――」

『キタキツネ、夜更かしさせちゃだめだよ』

「「「あ」」」

 夜までゲーム、という言葉に目くじらを立てかけたギンギツネも話を聞いていた周りも目を丸くする。キタキツネ本人だけは嬉しそうだった。

「やった、ギンギツネがいっつもおこるからこれならいけるって思ったんだ」

「ほー、そんな夜更かしするくらいの危機でもいいのか、いやこの前の一件で緩くなってるのか」

 訳知り顔でうなづくツチノコの解説を聞―――かずに、周りで見ていたフレンズたちがいっせいにボスに話しかける。キタキツネと同じように「食べちゃうぞ」とは言えずボスと話せなかったフレンズたちが自分も自分も、と試していく。

「じゃあかばんさん! おれっちと夜がふけるまで家の話をするっす!」

『ビーバー、夜更かしさせちゃだめだよ』

「なら私は今まで解決した難事件を全て語るわ! 大丈夫、朝日が出るまでには終わるわ!」

『アミメキリン、夜更かしさせちゃだめだよ』

「わーいかばんちゃんもボスもわたしと遊ぼ遊ぼ!」

『………』

「夜まで遊ぼ!」

『コツメカワウソ、夜遊びはだめだよ』

「食べちゃ……う程でもないか」

『スナネコ、食べちゃだめだよ』

「勝負しようか、かばん!!」

『ヘラジカ、勝負しちゃだめだよ』

「食べ―――」

『ライオン、食べちゃだめだよ』

「すごい早いですね! って、ああライオンさんが微妙に落ち込んで!」

 わいわいがやがやフレンズ三人集まればどったんばったん大騒ぎである。

 そんな中、少し離れてそんな騒ぎを見ていたフレンズがかばんちゃんに話しかけてきた。

「楽しそうね」

「あ―――トキさん!」

 ペリカン目トキ科トキ属―――トキである。

 さきほどまでPPP(ペパプ)の面々およびショウジョウトキとステージで夢のコラボ(?)を果たしたところであった。

「はい、楽しいです。あ、トキさんの歌ちゃんとこっちまで聞こえてましたよ」

「そう聞いてくれてたのね、嬉しいわ。そしてここも楽しそうね、歌いたくなるわ。

 一曲、聞いてもらえる?」

「わぁ、ここでも歌ってくれるんですか!」

 素直に喜ぶかばんちゃん、表情が顔にあまり出ずとも嬉しそうなトキ。そして身構える面々。

 その時、誰も予想もしなかったことが起きる。

『―――トキ、歌っちゃだめだよ』

「「「………………………」」」

 原則フレンズには話しかけないラッキービースト。そんなボスが反応するのは止めないといけないと思う時。そうニンゲンであるかばんちゃんに危機がおとずれた時で―――

「あ、いや、ラッキーさん……!?」

「がっ………」

「って、トキさん大丈夫ですか!?」

 その時、白目をむいたトキの脳裏に電流というか過去の記憶が走る……! 

 『カラスに似た濁ったとってもうるさい声なんだって』………『それを題材にした昔話もあった』………!

 突然の宣告と沈痛な現実を突きつけられてしまったトキは―――

「わたしはぁぁぁぁときぃぃぃぃぃぃひげきのぉぉぉぉぉぉうたいぃぃぃぃてぇぇぇぇ!」

「と、トキさーん!! トキさああああああん!!」

 歌声が尾を引くほどの速さでトキは涙ながらに飛び去ってしまったのであった。

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