アライさんの気持ち

しんいち

アライさんの気持ち

そろそろ夜も更けてきたわね。

元々は夜行性なオオカミであるが、最近は「ヒト」に付き合うことがおおく、昼間の行動が多く眠い。


じゃぱりぱーくも変わるものね、ミライの時と比べても、最近は忙しいし賑やかでいいかもね?


そんなことを考えながら、就寝の支度をしていると、唐突に、


どん、どん、どん!!


と、部屋のドアがノックされた。


あらあら、私のマンガを読みたい娘か、それとも相談事かしら?


どちらにしても、今夜は相手にしないで寝ましょう。オオカミは眠い時には寝るのです。


「ううううわー、アライなのです、話を聞いてほしいのです!」


アライか、寝ましょう。

相手にしても仕方がない、聡明なオオカミは寝床の支度を始める。


「ううううううううう!あけてほしいのです!たいへんなのです!!!!」


こうなると、さすがに居留守もタヌキ寝入りも出来ない。仕方が無く扉を開けると、紙とペンを握りしめたアライが立っていた。


「話を聞いてほしいのです。アライは、かばんちゃんに悪いことをしてしまったのです。かばんちゃんに、おてがみを、書いてほしいのです!!!!!!」


「お手紙?」


「そうなのです!ヒトは、きもちをてがみに書くのです!」


あらそう


「はかせとじょしゅに頼んだら

”われわれはいそがしいので”

”いそがしいので”

と、相手にしてくれなかったのです!」


話を聞くと、今までの旅で、かばんちゃんに迷惑をかけたし、うたがったりと、ひどいことをしたので、ヒトが使う「てがみ」という手段で謝りたいが、字が書けないので協力してほしいという話だった。


じゃあどうぞと部屋に招くおおかみ。

こちらに座ってと、椅子を出して、お互いが座りしばらくすると。


「た、たたた」


たたた?、この子も緊張しちゃうのねぇ。


「違うのだ!もう一度言うのだ!!!」


「ここからが大事ななのだ、よく聞いてかくのだ!」


いいわよ、どうぞと促すオオカミ。すると、意を決して、はっきりと語り出すアライ。



「たいへんなたびをお疲れさまなのだ!」


はいはい。

紙もペンも、アライさんが持って来ている。

じゃぱりぱーくでは、どちらも入手が難しいのに、この子はどこから探してきたのかしら?


「ついていくのも大変だったのだ。フェネックはいつも帰ろうと言ってたのだ!」


ふぅんと、ペンを滑らせるオオカミ。


「きのうのてきはきょうのとも!なのだ!これはミライさんから聞いたから、いまから仲良くするのだ!!」


お手紙で強制、そしてあなたはミライさんに遭ったことがあるの?そんなことを思いつつ、口には出さずに筆を進める。


「かんたんに、仲良くなれるなんて思わないのだ!でも、かばんちゃんはすごいのだ!!」


手紙にするには無茶苦茶ね。でも、アライの真剣な目を見ると、いつもの嘘や茶化しもできないかな。


「とくに!温泉は最高だっだのだ!!!!」


書きとめて、うーんと伸びをするオオカミ。温泉かぁ、しばらく入ってないわねぇ。と、うっかりだらけた姿を、アライがじーっと見つめている。あらあら真面目にしないとね。オオカミは姿勢を正す。


「あしたには、かばんちゃんが、ごごくちほーに旅にでちゃうけど……」


そうね、あれから一ヶ月。かばんは「ヒト」だし、この地方では仲間も見つからない。明らかに異質な存在なのに、同じ「けもの」として仲間になってくれたのよね。


「りゆうもわからないのに、じゃぱりぱーくを、よくしてくれてありがとうなのだ!!!」


ひときわ大きな声を出すアライ。そんなに大声出さなくてもいいのにと、筆を走らせると、絞り出すような声が聞こえてくる。


「がんばって、がんばって、うみをわたって、ヒトのなかまをさがしてほしいのだ、さがして、ほしい、のだ……」


アライの目には涙があふれ、次の言葉が繋がらない。


オオカミと距離を取りつつ話をしていたらアライに、オオカミは席を立ち近づくと、優しく抱きしめながら


「とおくに行くわけでは無いのよ。だから、大丈夫。大丈夫よ」


優しく語りかけて、涙を拭いて上げましょうか?と語りかけるオオカミ。

ううっ、とオオカミに胸を埋め、思わず甘えるアライ、しかしその直後。


「う、うるさいのだーーーー!アライはずっと、かばんを見ていたのだ!だからこれからもみつづけるのだ!!!!」


あらあら可愛らしい娘ね。

でもこの手紙、本当は誰宛なのかしら?うーん?


片腕で抱きしめつつ、器用に筆を滑らせながら、次のマンガのネタにいい表情がほしいわねぇ、と考えるオオカミであった。

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