『優しいお前だからこそ』~小説・傷より~


俺もお前も家族に嫌われ孤独だった


最初は接点もなかった


だけどある日俺が怪我をすると、


お前が心配そうに傷口をギュッと押さえたんだ


その時、


俺の傷が浅くなり同時に同じところにお前に傷が出来た


アイツに宿った不思議な力


俺らはその力を存分に他人に試した


アイツも役に立てて嬉しそうだ


だけどどんどん陰が増えていく


ある日、


出逢ったアイスクリーム屋の女にお前は懐き


女も可愛がった


女はいつもマスクをしていた


その理由は唇に避けたような傷痕が原因


『消せるものなら消したい、もう一度人生やり直したい』と漏らした女に


優しいお前は代わりにその傷を引き受けた



そこからだ


女が姿を見せなくなったのは…


アイツは傷付き全てに絶望し


あらゆる人達の傷を全てその身に移した


すると救急車の音がし、


今にも死にそうな患者が運ばれて来る



ーもしかして…ー


その予感は的中した


アイツはその患者に触れ、


倒れたのだ…


俺は駆け寄って抱き締め泣きながら叫んだ


『お前の傷も俺の傷だ、だから半分俺にも寄越せ!頼むから!なぁ!!』




ーーーーーー



病室で横になる俺


隣にはアイツもスヤスヤと眠っている



アイツは俺に半分傷を移した


俺の叫びがアイツの心に届いた


俺は屋上に上がって空を見つめる


するとアイツもやって来た


俺が『ありがとな』と言うと


不思議そうに首を傾げた後


『僕もありがとう』と微笑んだ



お前はもう独りじゃないぞ


俺らは二人で1つなんだ


これから先も…




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