【けものフレンズ】12.閑話~蛇足~

谺響

はじめました。

 コノハ博士とミミちゃん助手からのお願いで、かばんちゃんはフレンズのみんなにお料理を教えることになりました。博士たちのただのワガママのような気もしますが、ともかくこうして始まったかばんちゃんのお料理教室、今日はついにあの二人の出番です。


「アライさんにおまかせなのだ!」


 いつも通り自信満々で張り切るアライさんと、これまたいつも通りそんなアライさんを心配そうに見つめるフェネック。


「これはもう、オチが読めたのです」


「出来上がった料理を洗って台無しにするパターンなのです」


「なにーっ!?アライさんだって、洗っていいものとダメなものの区別くらいつくのだ!」


「でも、わた菓子は洗ったのです」


「うっ!」


「しかも2回もダメにしたのです」


「ううっ……博士たちがヒドイのだフェネックぅ~……」


 泣きつくアライさんを宥めて、フェネックが言います。


「まぁまぁ、アライさん。ここは一つ、美味しい料理を作って汚名返上すればいいよー」


「しかし、洗うしか能のないアライに作れるものなんて、たかが知れているのです」


「せいぜいサラダくらいが関の山なのです」


「そんなのではわれわれは満足しないのですよ。われわれは猛禽類なので」


「そうなのです。生のお野菜ばっかりでは、何の面白味もないのです。われわれは肉食なので」


 せっかくフェネックが宥めているのに、博士と助手は素で煽っていきます。


「ぐぬぅーっ!かばんさん!あの二人をギャフン!と言わせるような、すっごい料理を教えてほしいのだ!」


 アライさんの熱い期待のこもったまなざしを受けて、本を次々とめくり、何かいい料理はないかと探すかばんちゃん。


「う~ん……これなんて良さそうだけど、食材が……」


 とあるページでかばんちゃんの手が止まります。しかし、必要な食材の多くがその辺りで簡単に手に入るようには思えません。


「コレダッタラ貯蔵庫ニアル食材デデキソウダネ」


「えっ!?本当ですか、ラッキーさん?」


 手首からの思わぬ一言にかばんちゃんも思わず聞き返します。


「じゃぁ、それで決定だね!私にも何か手伝えること、あるかな?」


「それじゃぁサーバルちゃんはキタキツネさんの所で――」


「うん、わかった!たっくさん取ってくるね!」


「ボクはラッキーさんと貯蔵庫から食材を取ってきますね。その間にフェネックさんはお鍋にたっぷりのお湯を沸かしておいて下さい」


「あいよー」


「アライさんには器の準備をお願いします。この本にあるような感じのものをお願いしますね」


「まっかせるのだ!ぴっかぴかのを見つけてくるのだ!」


 こうして始まった今日のお料理教室。さてさて、一体何が出来上がるのやら?


 かばんちゃんが貯蔵庫から持ち帰った食材を机の上に並べると、博士と助手はそれを訝し気に眺めます。


「見たこともない食材ばかりなのです」


「これ、本当に食べられるものなのですか?」


「このままでは食べられませんよ。ちゃんと調理しないと」


「かばんさん、これを見てほしいのだ。ぴっかぴかなのだ!」


 アライさんは見つけてきたガラスの器を嬉しそうに振り回しています。


「落とさないように気をつけて下さいね」


「分かってるのだ!」


 がっしゃーん!


「……アラーイさーん、またやってしまったねぇ?」


「ごめんなさいなのだ……」


「かばんちゃん、取って来たよ!」


 サーバルちゃんが持って来たのは桶に山盛り一杯の雪です。


「ずいぶんと融けちゃったけど、これで足りるかなー?」


「十分ですよ。ありがとうございます。それじゃあ早速始めましょう。フェネックさんはまず、このお野菜をお湯でさっと茹でて下さい。この取手のついたザルを使うといいですよ」


「うーん、こうでいいのかなー?」


「はい。アライさんはこっちのお野菜を洗って、洗えたらサーバルちゃんに切ってもらいましょう……って、どうしたの、サーバルちゃん?急に飛び退いちゃって。あ、ひょっとしてキュウリ苦手だった?」


「う……なんかよく分かんないけど、つい……」


「キュウリと、それからこっちの食材も細長く切っておいて下さい。えっと、そうですね、さっき茹でたお野菜と同じような形でお願いします」


「う……うみゃみゃみゃみゃっ!」


 あっという間に細切りになった食材の山が4つ、出来上がります。それを前にかばんちゃんが息をのみます。


「さぁ、ここからが本番ですよ。フェネックさん、これの中身をさっきと同じ要領で茹でて下さい。今度は、少し長めに」


「はいよー。うわ、なんかうねうねしてるー?」


「茹で上がったらそれをこっちのバケツに移して下さい」


「え?水が入っているけど、いいの?」


「これでいいんです。それではアライさん、これをしっかりと洗って下さい」


「ええーっ?!フェネックがいいカンジに作ったものを?」


「はい。ここが肝心なんです」


「わ、わかったのだ。かばんさんを信じるのだ」


 意を決して洗い始めるアライさん。かばんちゃんはそのバケツにどんどん雪を投入していきます。


「わ!わ!冷たいのだ!」


「冷たい水でよく洗ったら、しっかりと水気を切って器に盛りつけて。その上に切っておいた食材をきれいに並べて、タレをかけたら……完成です!」


「「「「「おお~っ!」」」」」


「冷やし中華です」


 ~実食タイム~


「あの怪しげな食材の山からこのような料理ができるとは……」


「見た目はカラフルなミミズの山盛りといったところでしょうか……」


 しげしげと料理を見つめていた博士たちですが、やがてフォークを手に取り、料理を口に運びます。


「「はむっ」」


「……どうでしょう?」


 恐る恐るかばんちゃんがたずねます。


「ぷりぷりの歯ごたえ!これはたまらないのです!」


「このつるんとした喉ごしがまたいいですね」


 ずるずる、ちゅるん!と、二人が食べる勢いはどんどん加速してゆきます。


「これはお手柄なのです」


「これほどのものを作り上げるとは、正直予想外だったのです」


「やったのだ!これからはアライさんの冷やし中華の時代なのだ!」


「よかったねぇ、アライさん」


 手を取り合って喜ぶ二人。それを見たかばんちゃんが申し訳なさそうに言います。


「ただ、この料理にも一つだけ致命的な問題があって。メインの食材の中華麺が、もうないんです」


「な!」「え?」「は?」「ん?」


「それはつまり、これっきり、ということなのですか?」


「それはつまり、おかわりはない、ということなのですか?」


「はい……」


 気まずい空気が漂う中、フェネックが呟きます。


「あー、アライさんの時代、速攻で終わっちゃったねぇ」


「う~っ!全然始まってもないのだ~っ!!」

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