第201話 黒き渦に引き込まれて

 いくつかアトラクションを楽しんだ後に若い祖母は私達に何しにここへ来たのか聞いてきた。

 祖母の方から切り出してくれるとは有難い。


 私とオオウミガラスはアトラクションを楽しみつつこの時代のオイナリサマらしきフレンズの姿を探していたのだが、一向に見付かる気配がなくて困っていたのだ。


 若い祖母は若さが溢れているので下手に興味を持たれるとこちらの問題に首を突っ込みかねない。


 さりげなく、大した問題ではないと思わせつつオイナリサマを知らないかと聞いてみるが、祖母はオイナリサマを知らないようだ。


 祖母は知らないときたか。


 現代のジャパリパークに残してしまったクーちゃんやセルナが気掛かりで急ぎたいのだが、ここは地道に情報収集をするしかない。

 オイナリサマを当てに出来ないのならば、次はサンドスターの研究所を目指すか。


 ふと、次の質問を考えている時に視界の端に黒い粒子を捉えた。


 あれは……サンドスター・ロー?


 突如、何もない空間から視界を埋め尽くす程のサンドスター・ローが湧き出て私達を瞬く間に取り囲んでしまった。


 身の危険を感じた私は咄嗟に御守りを掲げてバリアを張る。

 瞬間、サンドスター・ローはバリアに弾かれて、周囲に飛び散った。

 このバリアはサンドスター・ローも弾いてしまうらしい。

 もしかしたら、サンドスター・ローはセルリアン由来の物質なのかもしれない。


 サンドスター・ローを蹴散らした私達の前に広がったのは異様な光景のパークセントラルだった。

 同じ建物、同じ構造、同じ景色。

 見た目だけなら先程のパークセントラルと同じなのだが、遊園地として致命的な何かが欠けてしまったように感じる。


 おそらく、それは“楽しさ”と言う“かがやき”。


 私とオオウミガラスは困惑する若い祖母とピューマを庇いながら周囲を警戒する。

 このような異変が起きたのだから必ず居る筈だ。


 ……来たか。


 視線の先に大量のセルリアン達がこちらに向かって進軍してきているのが見えた。

 流石にこの大群を相手にすることは出来ない。


 若い祖母とピューマはセルリアンを見るのが初めてなのか、その危険性を理解していないようだった。


 何処か、無いのか!?

 避難できる場所は……!


 その時、私は1ヶ所だけ不自然な場所を発見した。

 まるで見えない壁に阻まれたかのようにセルリアンが侵入出来ない場所が……


 パークセントラルの中央。


 開け放たれた城の入口でセルリアンが弾かれたのを確かに見た。


 私達は城に向かって走り出す。


 御守りの力を使ってオオウミガラスとピューマを強化する。


 オオウミガラスが先頭を走り、それに少し遅れてピューマが続く。

 二人でセルリアンを倒しながら城の入口へ向かう。


 途中、若い祖母が転んでセルリアンに攻撃されそうになったが、私が体当たりをすることで何とか危機を脱する事が出来た。


 私達は城の中に入ると内側から扉を閉ざした。


 入れないと分かっていてもセルリアンの姿が見えるのは精神衛生的に良くない。


 とりあえず、これで一息吐けそうだ。

 扉を背に寄りかかった時に若い祖母を呼ぶ声がした。


 どうしてここに?


 困惑したような表情の神秘的な雰囲気を纏う真っ白なキツネのフレンズ。

 守護けものの一柱、オイナリサマがそこにいた。

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