第202話 時を渡る縁

 どちら様?


 祖母の言葉にオイナリサマは憤慨する。

 まだ、一週間も経っていないのに忘れたのですかと……

 だが、流石にオイナリサマも何か違和感を感じたのか祖母の事をじっと見詰めてから、納得したように呟いた。


 オイナリサマは若い祖母を過去の存在と表現し、私を未来の存在と表現した。


 流石は守護けものと言ったところか。

 説明するまでもなく、私達がどう言った存在か理解したようだ。


 それにしても祖母が過去のと言うことは、ここは少なくとも先程いたジャパリパークより少しだけ未来のジャパリパークなのだろう。

 詳しい時期は分からないが、黒いセルリアンより色とりどりのセルリアンが居たことから例の異変の最中と言う線は消える。

 例の異変より前の異変……女王事件か。


 とりあえず、私は頼まれてここへ来たと御守りを見せる。

 オイナリサマは御守りに刻まれた紋章を見て、私がイヌガミギョウブに頼まれてここへ来たことを察した。


 しかし、オイナリサマは会うべき私はこの時代の私ではないと言う。

 イヌガミギョウブには目の前にいるオイナリサマではなく、現代のオイナリサマを助けて欲しいと頼まれた。


 ここでオイナリサマを助けても現代のオイナリサマを助けたことにはならない。

 オイナリサマは御守りの力を使って私達をそれぞれの時代に送り返すと言ってきた。

 どうやら、この御守りには時を越える力があるらしい。


 オイナリサマは何か出来ることはないかと言った私達にこの時代に置いて私達に出来ることはないと突き放すように告げた。


 元の時代で為すべきことを為せと……


 私達はオイナリサマによって白い空間へと飛ばされる。


 その白い空間の中で私は悟った。

 過去に戻れるのならば凄惨な未来を回避出来る可能性がある。

 全てをやり直す力。

 絶望した人ならばすがりたくもなるだろう。

 だが、過去を変えられるのならば現代はあのような状態にはなっていない。



 過去は……変えられない……



 私は白い空間の中で若い祖母へ振り返る。


 ……思えば、祖母は失ってばかりの人生だった。

 ジャパリパークや仲の良いフレンズ、親や兄妹、夫、そして娘である私の母……


 祖母の大切な人は皆いなくなってしまった。


 隊に参加すると言った私に気丈にも笑顔で送り出した祖母だが、前日の晩に独り部屋の中で泣いているのを聞いてしまった。


 私を独りにしないで……


 祖母の思いを知りながらも、私は自身の我が儘を通した。

 狭い島に閉じ籠って、ただ悲劇が終わるのを待つだけなんて出来ない。


 今の私に祖母にしてあげられることは……


 私は祖母の気持ちを確かめるように質問をした。


 貴女はジャパリパークが大好きか?


 もちろん!

 ジャパリパークは大好きだよ。


 ……取り戻そう。

 セルリアンに奪われてしまったジャパリパークを……


 そして、必ず生きてジャパリパークへ戻る。


 もう、失わせたくない。

 祖母にも……

 誰にも……

 悲しい思いなんてさせない。

 私の望みは皆が笑って過ごせる明日なのだから。

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