第195話 現実を喰らう夢
彼女の名はヤマバク。
全身がほば黒色の衣服で全体的におっとりとした印象を受けるフレンズだ。
バクの仲間の中では最小。
標高の高い森林に暮らしており、寒さから身を守るため長い体毛を持っているらしい。
その特徴は腰まで伸びてる長髪として表れている。
と、ラッキービースト談。
バクの仲間と言われても、そもそもバクがどんな動物なのか知らないので元の姿を想像できない。
動物としての情報は置いて、何が起きているのか彼女に聞いてみようと思う。
ヤマバクは遺跡地方とフレンズ達が呼んでいる場所で暮らしていたらしい。
遺跡地方とは言ってもその正体はパークセントラルとその周辺にある居住区等を含めた地域を指すのだろう。
遺跡地方に暮らすのは余程の物好きくらいと言われているらしいが、暮らしてみると案外快適に過ごせるらしい。
だが、20日前くらいに突如として異変に襲われた。
………ヤマバクは夢を見たのだと言う。
こことは別のジャパリパーク。
過去から続いた“もしも”の世界。
セルリアンに怯えることもなく、かつてあったジャパリパークの施設が綺麗なまま稼働しており、毎日がただただ楽しい。
誰かの思いが再現された偽りの救いがもたらされたジャパリパーク。
そんな夢の中で過ごしていたヤマバクはある時に違和感に気が付いた。
本当のジャパリパークでないと気が付いたヤマバクは、オイナリサマの助けを借りて夢のジャパリパークからの帰還を果たす。
そして、目を覚ますとヤマバクは遺跡地方の外れで仰向けに倒れていた。
私達はヤマバクの話を聞きながらパークセントラルに向けて歩みを進める。
20日前と言うとゴコクのフレンズ達が2つの異変に立ち向かった時期と一致する。
ヤマバクは脱出の間際にセルリアンを見たとも言っていたので、その夢の中のジャパリパークはセルリアンが作り出した物なのだろう。
“かがやき”と言う実態のない物を取り込めるセルリアンならば、そう言う事も出来るのかもしれない。
あるいは夢だからこそより現実に近付ける事が出来たのか……
先頭を歩いていたヤマバクは遺跡地方の手前まで来て私達の方へ振り返る。
お願いします!!
私と一緒にオイナリサマを助けに行ってください!!
おそらく、既に何人ものフレンズに断られてきたのだろう。
言葉の端々に必死さが見える。
ヤマバクの頼みを断ったフレンズ達も決して悪意があって断ったわけではない。
守護けものが何なのか分からないフレンズ達にとって、たった一人のフレンズを助けるために危険を犯すことは出来なかったのだろう。
だが、私は違う。
セントラルエリアに来た目的の中にはオイナリサマを助けると言うイヌガミギョウブに頼まれた事がある。
そして、遺跡地方を見た私はオイナリサマの救出こそが最優先課題だと気が付いた。
私はヤマバクを安心させるために力強く頷いた。
……その為に来た。
ヤマバクの背後。
遺跡地方のほぼ全域を覆う黒色のセルリウムの結晶。
その中央に聳え立つ巨大な結晶の塔。
変わり果てたパークセントラルの姿がそこにあった。
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