第194話 空虚の住人

 セルナがセルリアンの接近に気が付いてから数秒してから、前方から人影が走ってくるのが見えた。

 木々の間を傷付いたフレンズとラッキービーストが駆けて来る。


 その後ろには……!?


 その姿はフレンズのように人型であり、ケモノの特徴を色濃く残した耳や尻尾がある。

 だが、その身体は全身が黒一色であり、顔があるべき場所には巨大な一つ目があった。


 フレンズ型のセルリアン。


 今までとは明らかに毛色の違うセルリアンに警戒して御守りを発動しようとするが、寸前でオオウミガラスに止められてしまう。


 ここはわたし達だけで戦うから、危なくなるまで温存してね。


 この先で更なる驚異が待ち受けて居ないとは限らない。

 私の体力を激しく奪う御守りを使うのは得策とは言えない。


 だが……


 いや、ここはオオウミガラス達を信じよう。


 オオウミガラスが迎撃体勢に入るのを見て、セルナもセルリアンを迎え撃つべく準備を始める。


 高々と手を天に突き出すと虹色の粒子が湧き始める。

 どうやら先日恐竜型セルリアンにトドメを指したあの槍を出すつもりらしい。

 セルナが虚空を掴むように手を握りしめる。


 その手には紫色の……フォークが握られていた。

 料理を食べるためのあのフォークである。


 ……………大丈夫なのか?


 野生解放を使えば並み以上の力を発揮できるオオウミガラスや瞬発力と瞬間加速で攻撃の当たらないクーちゃんに対し、私の身体能力と同程度しかないセルナ。


 それにあの槍は御守りの力がないと十全な状態で出てこないようでもある。


 相手の戦力も分析しよう。


 相手は大きさだけで見るなら中型よりの小型。

 一般的なフレンズが一人で倒せる中型以下のサイズではあるが、黒色であることを加味すれば危険度は1段階上だ。


 逃げてきたフレンズとすれ違うようにオオウミガラス達は前に出る。


 そして───


 パッカンパッカンパッカーン!


 え?

 全員ワンパンで終わってしまった……


 あまりの手応えのなさに倒した本人達ですら困惑している。

 私が御守りを使った疑惑も出たがそこはしっかりと否定しておいた。


 追われてきたフレンズは私の前まで来るとそのまま前のめりに倒れそうになったので慌てて支える。

 どうやら、体力の限界だったようだ。


 私達は彼女から事情を聞くために解放して目覚めるのを待つ。


 その間、彼女と一緒に来たラッキービーストがずっと彼女に寄り添っているのをオオウミガラスは不思議そうに見ていた。


 普段のラッキービーストは良くフレンズ達の前に現れるが、用事が済めば直ぐに居なくなってしまう。

 おそらく、フレンズへの過度な干渉を避ける為だ。


 私達が連れているラッキービーストとは違って、仕事と関係なく一緒にいるように見える。


 見た目は一緒だが役割の違うラッキービーストと言うことなのだろうか?



 しばらくすると逃げてきたフレンズは目を覚ました。

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