第190話 声の届く場所へ

 さて、予定通りクーちゃんが吹っ飛んだ。

 本気を出すと姿が見えなくなるくらい速くなるので、何処かに潜伏しているキツネのセルリアンでもクーちゃんを見付けるのは難しい筈だ。

 後はクーちゃんが戻って来るまでの時間を稼げば良い。


 オオウミガラスはさっさとパッカーンした方が良いんじゃないかと言ってるが、飾りのような小さな手で弱点を庇ってるセルリアンを見てそれは難しいだろうと私は判断する。

 今はセルナを連れ去ることを優先しているようだが、本当に追い詰められれば今度はセルナを人質として使ってくるかもしれない。


 ……一週間前の私ならばそんな可能性を考えることはなかっただろう。

 だが、セントラルエリアに来て私は一部のセルリアンに対する認識を改めた。


 このセルリアン達には“悪意”がある。

 ただの機械には存在し得ない明確な“悪意”だ。


 倒すのは最終手段。

 セルリアンを追い詰めずにセルナを救出する。


 クーちゃんが居なくなってから恐竜型のセルリアンは木を咥えて私達を攻撃してくる。

 周囲に木が密集している為に何かの拍子で勢い余って木を折ってしまう事が多々あるが、代わりの木も沢山あるので直ぐに新しい木に取り替えてしまう。


 攻撃を防ぎながら隙を伺う。

 もし、攻めるのならば新しい木に交換する際に発生する隙が狙い目か。


 しかし、恐竜型のセルリアンが三本目の木に持ち変えようとした際に異変が起きた。


 恐竜型のセルリアンが細かく痙攣をし始める。


 また、何かの罠か?

 私とオオウミガラスは警戒しながら痙攣をする


 だが、事態は私の予想外の方向へと転がり始めた。


 皮膜を突き破るような音を立てて恐竜型のセルリアンの頭部から角が生える。


 あの角は……!?


 オオウミガラスが目を見開く。

 その角の形状はフレンズになる前のセルナ、不完全なセルリアンの女王に生えてた角と全く同じ形状だった。

 そして、恐竜型のセルリアンの口からセルナの声で言葉が漏れ始める。


 一人……仲間……孤独……寂しい


 文章として成り立つか怪しい単語の羅列。

 恐竜型のセルリアンは先程までの御守り対策を前提とした動きとは打って変わって、まるで駄々を捏ねる幼子のように滅茶苦茶に暴れ始めた。


 セルナの影響でセルリアンがコントロールから外れたのか?

 戦いやすくはなった。

 だが、中に居るセルナは?


 セルリアンに食べられたフレンズは獣に戻ってしまうと言う。

 ならば、セルナはどうなる?

 最悪の可能性が脳裏を過った。


 オオウミガラスは前に出て必死にセルナに呼び掛ける。


 あなたは一人なんかじゃない!


 しかし、恐竜型のセルリアンはオオウミガラスの声が聞こえていないのか、前に出たオオウミガラスに噛み付こうと顎を大きく開いた。


 ……それではダメだ。


 恐竜型のセルリアン顎はオオウミガラスに届く前に止まる。


 言葉を届けたいなら……


 クーちゃんが持ってきた大きなつっかえ棒によって顎を閉じられなくなった恐竜に向かって走り出す。


 聞こえる場所まで行けば良い!!


 御守りの力を切った私は恐竜型のセルリアンの口の中へ飛び込んだ。

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