第191話 セルナ
例えるならば、それはぬるま湯に近いだろうか。
セルリアンの中は内臓等はなく、ぬるま湯のような暖かい液体に満ちていた。
肌と液体の境目の感覚が乏しく、気を抜けば自身が溶け出してしまいそうな錯覚を覚える。
暗闇の中、私は懸命に腕を伸ばす。
……掴んだ!
私はそれを手繰り寄せて御守りの力を発動する。
御守りの力はセルリアンだけを弾く。
ならば、セルリアンとフレンズを分離させる事だって可能な筈だ。
液体が私の周囲から弾けて、手の中にずしりとした重みを感じる。
……セルナ!
私が声をかけると腕に抱えた物はピクリと反応した。
セ……ツナ?
どうやら無事にセルナをセルリアンから引き離すことが出来た。
記憶の有無などの確認しっかりと行いたいが、今はこの状況を打破しなくては……
流石に内側で膨らめば、セルリアンの腹が爆発するのではないかと思っていたのだが、思いの外セルリアンは膨らむらしい。
オオウミガラス達によると外から見た恐竜型のセルリアンは風船のように腹部が膨らんで、思うように動けずにじたばたしていたようだ。
セルナは私の腕の中で弱々しく呟く。
セルリアンは共に生きられない。
生きるつもりがない。
目を瞑り、耳を塞ぎ、口を閉じた。
“かがやき”を求めるけど、理解しない。
しようとしない。
永遠の停滞。
繰り返しの模倣。
セルリアンは決して……相容れない。
でも、ワタシは……
暗闇の中で瞬く星を思い
過去を超えて未来に向かう風に惹かれ
寄り添い強く輝く光に焦がれた
そんな“かがやき”を尊いと思った
だから……
ワタシは戦わなくちゃいけない。
……違う。
ワタシは戦うと決めた!!
もう迷わない!!
セルナの宣言に合わせて暗闇の中で勝手に御守りが光輝き出す。
ワタシはもうセルリアンじゃない。
ワタシは……セルナ!!
瞬間、私とセルナを囲んでいた暗闇が弾けた。
外の明るさに眩しさを感じながら、私はいつの間にか立ち上がっていたセルナを見る。
セルナの手には矛先が3つに別れた槍が握られていた。
セルナの髪と同じ紫色の槍。
セルナは歯を食い縛り目から涙を溢しながらも、槍を構え直して背後に振り返る。
そこにはセルナに内側から槍で貫かれて、身体の半分が弾け飛んだ恐竜型セルリアンがいた。
セルリアンでも身体の半分が弾け飛べば、そのまま息絶えてもおかしくはないのだが、今回のセルリアンは異常なことに半分の身体でもなお動いていた。
そして、私達の見ている前で恐竜型セルリアンの黒色の断面から何かが顔を出す。
あれは……キツネのセルリアン!?
姿が見えないと警戒をしていたが、まさか恐竜型セルリアンの体内に居たとは……
おそらく、あのセルリアンが未だに恐竜型セルリアンの身体が崩壊していない理由なのだろう。
まるでセルリアンのゾンビだ。
そして、恐竜型セルリアンとセルナは同時に動き出した。
今までのセルナからは考えられない機敏な動きで槍を構えてセルリアンに肉薄し、恐竜型セルリアンの噛み付きを紙一重で跳んで避け、恐竜型セルリアンの脳天に槍を突き刺した。
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