第188話 油断

 あのキツネのセルリアンにセルリアンを操る力があると見て間違いないだろう。

 だが、その容姿はセルリアンを操る女王にしてはあまりにも貧相だ。


 おそらく、キツネのセルリアンはセルリアンを操る中継機のような役割を果たしているのだろう。

 外の世界にある自立稼働兵器も通信に特化した機体が情報のやり取りをして他の機体を統率していた。


 今回のセルリアンは外の世界と無関係ではないのかもしれない。


 ならば、やるべき事は決まっている。


 オオウミガラスとクーちゃんが前に出て私が御守りを構えた。

 だが、そんな私達の前にセルナが立ち塞がる。


 説得する。

 だから、待って!


 セルナはセルリアン達に向き直って語り掛ける。


 きっと、セルリアンとフレンズは仲良くなれる。

 ワタシはフレンズと仲良くなれた。

 だから、もうフレンズを食べるのは止めて。


 セルナはセルリアンとフレンズは共存できる筈だと説いた。

 だが、セルリアンに取ってはフレンズのみならず、“かがやき”を持つものならば全てが補食対象となる。


 共存は不可能だ。


 だが、私の考えに反してセルリアンはセルナに友好的な態度を見せる。

 大型セルリアンは後ろに下がり、キツネのセルリアンが前に出てセルナの足を舐めた。


 元セルリアンのセルナだから言葉が通じたのだろうか?


 セルナも自身の言葉が受け入れられたと思って緊張を解き、私達も警戒を解いた。


 解いてしまった。


 直後、セルナの横から突然もう一体の恐竜型大型セルリアンが現れた。

 セルナは何が起きたのか把握することなく、セルナは大型セルリアンに飲み込まれた。


 どうして私は警戒を解いてしまったのだろうか。

 どうして一瞬でもセルリアンと分かりあえる可能性を考えてしまったのだろうか。


 自分があまりにも情けない。


 身を焦がさんばかりの怒りの炎。

 それを必死に耐えて私は言葉を紡ぐ。


 ……騙し討ちとは随分と“人”らしい事をするじゃあないか。

 セルナを……返せ!!


 私の言葉を無視するようにキツネのフレンズとセルナを飲み込んだセルリアンは逃亡を始める。


 逃がすか!!


 セルナを飲み込んだセルリアンを追おうとすると、私達の行く手を遮るように倒木が飛んでくる。

 間一髪で倒木は私に当たることはなかったが、私達の見ている目の前でもう一体のセルリアンが木をへし折り強靭な顎で咥えた。


 御守りのバリアはセルリアン以外は素通りさせてしまう。

 セルリアンは早くも御守りの特性を見抜いて対策をしてきたようだ。


 ここで大型セルリアンを倒すとなると、その時間でセルナを飲み込んだセルリアンを見失ってしまう。


 かと言って分断は出来ない。


 御守りは私の目の届く範囲でしか効果を示してくれず、オオウミガラスとクーちゃんは御守り無しでは大型セルリアンと戦うことは出来ない。


 どうすれば良い……


 その時、ジャングル地方に雄叫びが響き渡った。


 まさか……


 赤色をした恐竜型の大型セルリアンの頭にオレンジと黒の縞模様を持った存在が拳を入れた。


 ビースト!?

 どうしてここに!?

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