第186話 静かな夜
ジャングルに赤い夕陽が射し込み始めた頃、ついにビーストが目覚めた。
気絶する前と変わらず起きて私達の姿を見て威嚇を始める。
セツナちゃん、威嚇には威嚇だよ!
と、オオウミガラスに言われて、野生の獣に私の威嚇が効く筈ないだろうと思いつつもとりあえず威嚇で対抗してみる。
……何故、後退る。
私の威嚇を見たビーストがまるで恐れるように数歩後退した。
まるで私の方がより恐ろしい獣のようではないか。
……いや、彼女にとっては実際そうなのだろう。
人からの扱いが良かったとは言い切れない。
人と人に容姿が似ているフレンズが恐怖の対象であってもおかしくはないのだ。
怖いが故に縄張りから追い出そうとしている……
複雑な気分のまま私は皆より一歩前に出る。
そして、私は地面に片膝を着いて、そっと地面にジャパリまんを置いた。
これをやるから私達を追わないでくれ。
口で言ってみたが通じたかどうかは分からない。
私は立ち上がってビーストの元を去る。
途中で振り返ってみたが、ジャパリまんに夢中なのか私達を追ってくる気配はない。
ビーストと仲良くするにはゆっくりと時間を掛けて、人とフレンズが恐ろしい存在ではないと認識させる必要があるだろう。
これが切っ掛けとなれば良いが、今はその時間がない。
私達は夕暮れのジャングルを進む。
少なくとも今日はあのビーストの縄張りから出る必要がある。
襲われる危険性が低い場所へ行かなければ……
そう言った時にラッキービーストから聞きたくなかった情報を提供される。
ビーストは元はアムールトラもしくはシベリアトラと呼ばれる世界最大級のトラのようだ。
その縄張りの広さは1000平方キロメートルに及ぶ。
ジャパリパークの地方が2つ入る程の広さだ。
だが、原産地の獲物が少ない環境での広さなので、ジャパリパークでは半分以下の可能性がある。
あくまで可能性……
つまり、地方を跨がない限りはあのビーストの縄張りの範囲から逃れるのは難しいと言うことだ。
……無理して進んでも夜明けまでにジャングルを抜けられるかは分からない。
ここはある程度ビーストから離れたと思われるところで野宿をしよう。
今夜はあまり気の抜けない夜になりそうだ。
見張り番はラッキービーストが担当することになった。
本当は私やオオウミガラスと交代でやるつもりだったのだが、任せて任せてとやたらラッキービーストが自己主張するので任せることにした。
実際、見張りをやらせれば眠ることのない機械であるラッキービーストが一番適任なのだろう。
日が完全に落ちて、辺りが暗闇に包まれたところで私達は進むのをやめた。
各々寝やすそうな場所で休息を取る。
テントなんて贅沢は言わないからせめて寝袋が欲しい。
流石にアスファルトの上よりマシとは言え、気持ち的に中々落ち着かないのだ。
その日の夜は寝心地の悪さに何度も寝返りを打つ事になるが、ラッキービーストに警報を鳴らされる事なく無事に過ごすことが出来た。
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