第185話 ビースト
私は気絶している彼女の手錠を外そうとするが、随分と頑丈に作られているようでびくともしない。
手の大きさが普通のフレンズくらいのサイズになれば自然と取れそうなのだが……
私は手錠を外すのを諦めて、自発的に喋らなくなったラッキービーストに向かい合う。
彼女は病気なのか?
私が始めに思い浮かべたのは研究施設で聞いたガオガオ病だ。
最終的には理性が無くなると言っていたので、末期症状なのかと思っていたがラッキービーストからは病気じゃないと言われる。
ならば、質問を変えよう。
彼女はフレンズなのか?
……違ウヨ。
機械らしくない少しだけ躊躇うような間を空けてラッキービーストは彼女の正体を明かした。
ジャパリパークに降り注ぐサンドスターによってフレンズとセルリアンが生まれるのは既に書いたことがある筈だ。
フレンズは獣やその遺骸とサンドスターが反応することによって誕生する。
だが、極々稀にサンドスターと接触して反応したにも関わらずにフレンズになれない存在が生まれた。
獣の人格のままフレンズの身体になってしまった存在。
フレンズと同じアニマルガールなのだが、別の呼称を与えられた。
ビースト。
ラッキービーストはそこまで説明して黙ってしまった。
なるほど……
フレンズではなく、フレンズの姿をした獣と言う訳か。
もしも、ジャパリパークが通常運営しているのならば、観光客に危害を加える恐れのあるフレンズと同じ容姿のビーストを野放しにはしないだろう。
フレンズに怪我をさせられたなんて話になってしまえば、ジャパリパークの存続に関わる問題に発展した可能性がある。
叩けば叩くほど問題が出てくるジャパリパーク。
さぞ、運営も頭を悩ましただろう。
結果的にグランドオープンする前に潰れてしまったが……
彼女の状態を見る限り以前は何処かに拘束されていたのだろう。
扱いが良かったとは言い切れない。
もしかしたら、人やフレンズみたいな存在を敵と認識しているのかもしれない。
身体を詳しく見ていくと大きな怪我はないが、かすり傷や痣が多くあることに気が付く。
人への敵意だけでなく、傷付いて気が立っていたのも私達を襲った理由の一つなのかもしれない。
思い返してみれば、ジャングルに入る前に聞いた声もこの子の声だったと思う。
この身体の傷はセルリアンと戦って出来た可能性が高いか……
起きたらまた攻撃されるかもしれないが、このまま放置してセルリアンに食べられるのは気分が悪い。
起きるまで待つことにしよう。
私達は彼女から少し距離を置いたところで休憩することにした。
少し離れたところでビーストを見守っていると、セルナが私に質問をしてきた。
どうしてフレンズじゃないのに助けるのか。
セルリアンと何が違うのか。
強いて言うなら、セルリアンと違って彼女は生きようとしているからだ。
私の答えにセルナは頭を悩ます。
セルリアンには自分の意思と言うものがない。
だからこそ、私は長年対峙していたにも関わらず、自立稼動兵器を機械としか思わなかった。
ただただ奪う為だけの行動。
そこには生への執着など微塵もない。
奪い尽くした後には何も残らない。
不条理な災害。
あるいは無慈悲な機械。
きっとセルリアンとは分かり合うことは出来ないのだろう。
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