第184話 野生

 私達は何かが落下してきた衝撃で飛び散る土を背中に浴びながら振り返る。


 また、セルリアンが現れたのかと思ったが、私の予想に反してそこに居たのはフレンズだった。


 外見的な特徴だけを見るのならば、トラの仲間のフレンズだ。

 だが、様子が明らかにおかしい。


 地に手が着きそうなくらい低い体勢。

 両手首に嵌まった手錠のような金属の輪。

 肥大化した手。

 瞳は野生解放特有の光を放ち続けており、口からは言葉ではなくずっと獣の唸り声のような物を発し続けている。


 オオウミガラスが様子のおかしいフレンズに話し掛けた。

 オオウミガラスは私達を代表して勝手に縄張りに入ってしまった事を謝罪しているが、その目は片時も様子のおかしいフレンズから離れていない。


 縄張りを人で言う住居と捉えれば私達は差し詰め不法侵入者と言ったところだろう。


 しかし、縄張りは住居であるのと同時に誰もが通る道でもある。

 縄張りの範囲が一部重なっていたり、同じ縄張りに一緒に住んでるフレンズもいる。


 縄張りを荒らされない限りは侵入者に対して初対面で攻撃的な態度を取るフレンズは居ないと言って良いだろう。


 オオウミガラスの説得も虚しく、近付こう踏み出したとしたオオウミガラスに向かって様子のおかしいフレンズが攻撃してきた。


 予想通りと言うべきか。


 私は御守りの力を使って強化していたので、オオウミガラスは咄嗟に反応しておかしいフレンズの攻撃を避ける。


 まるでフレンズとは思えない手と足を地に付けて駆ける姿はケモノのようだ。

 話どころか言葉すら通じるかどうか怪しい。


 なんか凄く強いんだけど!


 元がそもそもトラと言う猛獣である彼女の攻撃は御守りで強化されたオオウミガラスと互角。

 いや、オオウミガラスが野生解放をしてないことを考えると、オオウミガラスの方が優勢かもしれない。


 オオウミガラスが様子のおかしいフレンズを相手にしている間に、クーちゃんが音を立てずに様子のおかしいフレンズの背後に移動する。


 何となく何をしたいのか察した私はクーちゃんがすることを黙って観察する。


 オオウミガラスが様子のおかしいフレンズの両手首を掴んで拘束したタイミングで、クーちゃんはクラウジングスタートの体勢から一気に加速した。

 フレンズでも姿を見失うほどの急加速を音も立てずに行える彼女はとても隠密に向いている。

 様子のおかしいフレンズに気が付かれる事なく発射されたクーちゃんは瞬きをする間に目標の後頭部に着弾した。


 ゴッ!!


 あまりにも生々しい鈍い音。

 クーちゃんの頭突きが炸裂し、様子のおかしいフレンズは白目を剥いて地に伏した。


 代償にクーちゃんは痛みで頭を抱えながら、地面でのたうち回る事になる。

 ファインプレーではあるのだが、その辺に転がっている石を使うと言う発想は無かったのだろうか……


 ともかく、このフレンズに関して気になることが多い。

 私は気絶した彼女の事を詳しく調べる事にした。

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