第176話 真相の断片

 BCCS

 Black Cell Core System


 拳大の大きさの装置からは火力発電所が10年間稼働したのと同じ量のエネルギーが得られる革新的な発電装置。

 世界のエネルギー問題を解決すると言われたその装置は民間に出回ることなく、軍事転用されることとなる。


 自立稼働兵器。

 無人での長期運用を可能とする為に、世界を救う筈の物は世界を壊す悪魔の心臓となった。


 そう思われていた。

 そう……思っていた。


 私は震える手で資料を読み進めていく。


 BCCSは巨大セルリアンから採取される溶岩の性質を帯びたセルリウムから構築される。

 セルリウムが大気中に漂う微量のサンドスター、或いは何かの“かがやき”を吸収することによりエネルギーを生成する。


 セルリアンを次世代のエネルギーとする。

 人口増加に伴うエネルギー問題で頭を悩ませていた時代においては危険を犯してでもやる価値のある研究だったのだろう。


 その考えは理解できる。

 だが、次の一文で私の考えは全否定されてしまった。


 5000時間連続で稼働することによりセルリウムが肥大化し、内側から機械の制御を乗っ取る事が可能と見られる。


 私は唖然とした。

 その一文はBCCSに潜む危険性を示唆する物ではなく、敢えてそうなるように仕向けたものであることが書かれていた。


 仕組まれていたのだ。


 BCCSが自立稼働兵器に組み込まれる事を想定していた。

 いや、民間に普及する前に戦争が起こることを見越していた。


 違う……


 ……もしも、例の異変が人為的に引き起こされた物だとしたら?

 全人員がジャパリパークから撤退した以上、この部屋にいた巨大セルリアンは例の異変以前から存在していた筈だ。


 ゴコクのサバンナにあった戦闘機……


 例の異変でセルリアンの驚異に立ち向かうために戦闘機を用いたとするならば?

 それが何かしらの理由で宣戦布告と捉えられてしまったとするならば?

 戦争で必ず勝てると言う自信があったとするならば?


 その自信の裏にBCCSと自立稼働兵器の存在があったとするならば?


 私は資料を読み進めていく。


 大気中のサンドスターを吸収することにより、サンドスターの気候維持能力が失われると共に巨大セルリアンの能力によって世界の砂漠化が進行する。


 ……この地下研究施設の人々は始めから世界を壊すつもりで動いていた。


 だが、何のために?


 手段の方法は残されていても、肝心な目的が残された資料は存在しなかった。


 映画だろうが現実だろうが悪党のすることには必ず理由が伴っている筈だ。


 金、権力、思想。


 世界を壊した先に何を見ている?

 このまま進めば残されているのは再起不能な無の世界だ。


 ……分からない。

 ここの人々が何を考えて研究していたのか。

 分からなくて……恐ろしい……

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