第168話 出航

 船のエンジンが唸り上げる。

 ゆっくりと動き出すした船はイヌガミギョウブに見送られて港から徐々に離れていく。


 パークガイドの服装に身を包んだ私は船首で潮風に靡く髪をかき上げながらふと思う。

 少し髪が伸びただろうか。


 さて、現在私は舵を取っていないが、船は問題なく動いている。

 操縦席にはラッキービーストが乗っており、遠隔操作で船を動かしているのだ。

 おかげで私は船首にてゆっくりと周囲の景色を堪能できている。


 海上は非常に穏やか。

 ラッキービーストから到着まで約5時間と告げられる。

 到着後に昼食にしよう。


 今回、最初に向かうのはセントラルエリアの中心部であり、ジャパリパークの玄関口とも言うべきパークセントラルだ。

 ジャパリパークの大部分がサファリであると言う設計上、人工的な物は1ヵ所に集約される傾向にある。

 探索するのに骨が折れるだろうが、今回は様々な地方に行かなくて済むだろう。


 オオウミガラス曰く、セントラルエリアにはフレンズ達から遺跡地方と呼ばれているところもあるようだ。

 おそらく、パークセントラルの事ではないかと思うのだが、オオウミガラスも噂話を耳にしたくらいで実際に行ったことは無いのでパークセントラルの事なのかは分からない。


 旅の計画としては今回は到着次第拠点として利用できる施設を確保したい。

 前回のようにエリアを横断しなければならないと言うこともないので、かなり楽が出来る筈だ。


 問題があるとすればパークセントラルにどのくらいセルリアンがいるか不明な事か。

 最悪、上陸直後に襲われる可能性もある。


 対策も考えておくべきか……


 そんな事を考えながら暇をもて余す3時間。


 セルナから海の一部が黒くなっていると報告を受けてその場所に視線を向ける。


 確かにセルナの言うとおり海の一部の色が濃くなっている。

 そこだけ岩礁があって浅くなっているのかと思ったが、船から見た位置関係が変わらないところを見ると船に並走しているようだ。


 何だろうと話していると操縦席から降りたラッキービーストがこちらにやってきて、私達と一緒に影っぽくなっているところを覗き込む。


 あれはザトウクジラだね。


 影を見たラッキービーストが解説を始める。

 ザトウクジラ体長の3分の1に達する大きな胸ヒレを持つ中型のクジラ。

 ブリーチングと呼ばれる大ジャンプを行う。

 稀に大型種に匹敵するほど大きくなる事があり、今目の前にいる個体も大型化しているのか、随分と大きな体躯をしている。


 確かに大きな影にはヒレらしき部位が見てとれるが、まだ深いところに居るためか詳細な姿は見えない。


 近くでブリーチングをされると危ないから少し離れようかとラッキービーストが舵を切るが、影はまるで私達の船を追うように同じ方向に向かう。


 影が大きくなるに連れて、セルナがまるで吐き気を催したように口を押さえる。

 急にどうしたと言うのだろうか?


 直後、海面を割って影が姿を表す。

 それはクジラなどではなかった。

 それは歴史の教科書に出てきそうな古い型の戦艦で………



 とてつもなく大きなセルリアンだった。

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