第161話 潮風の旅人

 次が最後の曲。

 期間が短かったから3曲しか練習できなかったと言うが、あの短い期間で良くそれだけ仕上げたものだと誉めたいくらいだ。


 最後の曲は彼女達が創作したオリジナル曲。

 字も音符も読めないフレンズ達が自らの手で産み出した曲。


 始めは演奏もなくオオウミガラスの歌だけで始まった。


 代わり映えのしない島に潮風と共にやってきた旅人の歌。

 徐々に演奏が豪華になっていき、旅人の物語が進んでいく。


 ふと、歌の中盤に差し掛かったときに何やら既視感を感じ、その既視感の正体に気が付いて私は思わず笑みを漏らしてしまった。


 この歌は私とオオウミガラスの旅の軌跡だ。

 オオウミガラスは私との旅の思い出をそのまま歌にしたらしい。

 アデリーペンギンが言っていたのはこの事だったのか。


 ……思いの籠った良い歌だ。


 私は歌い終えたオオウミガラスに惜しみ無い拍手を送った。


 ライブが終わってオオウミガラスが私とセグロジャッカルがいるテーブルへやってきた。

 オオウミガラスがライブはどうだったと聞いてきたので、ペパプにも負けないくらい素晴らしいものだったと感想を言う。


 演奏メンバーに目を向ければ、ケープペンギンが口から何か飛び出そうなくらい真っ白に燃え尽きている姿が見えた。


 ペパプってすごい……


 緊張で燃え尽きたケープペンギンの中で勝手にペパプの株が上がり続けていた。

 それに対してアデリーペンギンはコウテイだったら立ったままステージ上で気絶しそうだけどとか言って笑っていた。


 ……少しだけペパプが心配になってきた。


 そんな風に談笑をしていると私達の元へ何やら奇妙な緑色の生物がやってきた。

 確か、スカイレースの時にも見掛けたような気がするが何なのだろうか?

 そして、奇妙な生物が近付いてくると共に私の耳に微かに生物から発するのはおかしい音が出ていることに気が付く。

 モーター音?


 そんな奇妙な生物(?)に対してオオウミガラスは親しげに声を掛けた。


 ボス!


 ……………今、なんと言った?

 私の耳が狂っていなければオオウミガラスはこの奇妙な生物に対してボスと言った。

 どうやら、私の聞き違いでは無いらしく、他のフレンズ達もこの奇妙な生物に対してボスと言っている。


 ボス……これが……


 私の中のボス像が儚く砕け散り、心の中で両手両膝が地面に着く。


 そんな私のショックを他所にボスと呼ばれた奇妙な生物は私の目の前に止まると自己紹介を始めた。


 初メマシテ、ボクノ名前ハ“ラッキービースト”ダヨ。


 まごうことなき機械音声。

 モーター音が聞こえた瞬間から確信していたが、やはりボスことラッキービーストはロボットのようだ。


 落ち込んでいても仕方がないので、私の名前をラッキービーストに言おうとして異変に気が付く。

 私の周りのフレンズ達が静かになっている。


 どうしたのかと声を掛けるとフレンズ達の口からまるで集団パニックを起こしたかのような悲鳴にも聞こえる叫びが放たれた。


 ヒキェアアアェアアアアア!!!

 ボスが喋ったああああああああああ!?!


 どうやら、ボスのお喋りはオオウミガラス達のライブ以上にインパクトがあったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る