第157話 試食会

 一応、料理は完成した。

 一応は……


 作られた料理の中に明らかに私の意図した物とは違う色合いの料理が混ざっている。

 前回のブラックジャガーの時と違い一人一人に付きっきりと言う訳にはいかなかったので、何か余計なことをした子が居たのだろう。


 幼き日の料理の失敗が脳裏を掠める。


 その時、ふと目に入ったのがテーブルで料理の到着を今か今かと待ちわびている司書の姿。


 ……味見係の使命を全うしてもらうことにしよう。


 私は色合いの違う料理を手に取って司書へ持っていく。

 司書は笑顔で口を開けて料理が放り込まれるのを待つ。

 その童心に帰ったような姿はまるで親鳥にエサをねだる雛鳥のようである。

 そこには料理に対する疑いは微塵もない。


 何事も経験だ。

 入っているのは食べれられる物だけなので死ぬことはないだろう。

 私は司書の口の中に料理を放り込んだ。


 司書は泣いた。

 そして知った。

 この世にはどうしようもなく不味い料理が存在すると言うことを……


 さて……


 私はテーブルに突っ伏した司書からゆっくりと料理教室にやってきたフレンズ達の方へ振り返る。


 このように美味しい物と美味しい物を掛け合わせたからと言って必ずしも美味しい料理が完成するとは限らない。

 場合によっては味のバランスが滅茶苦茶になって酷い事になってしまう。

 なので、料理を作る際は余計な事をせずにレシピ通りに作ることを心がけよう。


 司書の惨状を見て余計な物を混ぜたと思わしきフレンズが震え上がる。

 これならば次回は余計なことをしようとは思わないだろう。


 その後は料理をしたフレンズ達と復活した司書と共に料理の試食会が始まった。

 私からすれば今回の料理はまだまだ荒い箇所が多いのだが、例の料理以外はフレンズ達の間では非常に好評だった。

 特に野菜の切る大きさを揃えれば均一に火が通るので、もっと味が良くなる筈だ。


 以前に私の料理を食べたことがある司書はまだ美味しくすることが出来ると確信しているのか、まだまだでございますねと通ぶっている。


 その後、皆も普段食べられない物が食べられるとあって、それなりに作ってあった料理をあっという間に平らげてしまう。


 やはり、食い意地の張ったフレンズばかりじゃないか。


 食後は火を扱える期待の新戦力イエネコのおかげでもう少し料理の種類を増やせそうと言う事で、フレンズ達にどんな料理を食べたいか聞いてみる。


 ふむ、ジャパリまんみたいな料理を食べてみたいと……

 蒸し器もあるし、少々手間ではあるが餡まんや肉まんも検討してみるか。


 そんな事を決めている傍らで火を扱えると聞いて司書がイエネコに迫り来る。

 司書としては一人で料理が作れる可能性のある火を使える稀少なフレンズを逃がしたくないのか中々熱烈なラブコールを送っているが、イエネコとしては勘弁願いたいらしい。


 これから短い間ではあるが毎日料理教室を開催して、本番の祝勝会までにどれだけ完成度を高められるか楽しみである。

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