第150話 遊覧船
私はカギを回した。
エンジンが唸りを上げて、無事に始動したことを告げる。
本日は司書達が用意してくれた燃料を船に入れて司書達と共に試運転を行う。
オオウミガラスはアデリーペンギン達と共にバンドの練習をしている為不在である。
クーちゃんに係留ロープを放してもらい、操縦席のレバーを操作して発進する。
レバーの一つは前に倒すと前進、後ろに倒すと後進。
隣にあるレバーは船の速度を調整する物のようだ。
今のところ動かしていて特に不備は見当たらない。
ゆっくりと港の湾内を遊覧していると、司書が私が居なくなると寂しくなるとしんみりとした様子で呟いた。
きっと、ここにいる司書達はどんなに引き留めたとしても、何時の日か私がジャパリパークから居なくなってしまう事に気が付いている。
船が動くようになり、その日が刻一刻と迫りつつあるのを感じたのだろう。
だが、実際にジャパリパークを出る日は司書が考えてるよりはもう少しだけ先になるだろう。
まず、私は日本ではなくセントラルエリアへ向かうつもりなのだ。
最近になってジャパリパークを調べなくてはならない理由も増えてきた。
きっと、セントラルエリアでは私がやるべき事と知らなくてはならない事がある。
そんな気がするのだ。
セントラルエリアの話題を出したところで司書がそう言えばとセントラルエリアについて話し出す。
司書自身は見たことがなく渡り鳥のフレンズから聞いた話のようだが、セントラルエリアにはかつて人が住んでいたと思わしき施設がたくさん存在し、セントラルエリアの中央にはジャパリパークで一番大きな遊園地があるそうだ。
もし、ジャパリパークから去った後に全てが解決して世界が平和になったのなら、またここに戻ってこよう。
かつてジャパリパークで働いていたと言う祖母も一緒に連れて……
問題なく船の試運転を終えた私達は船から降りる。
司書がもう1船あれば他のエリアとの往来が楽になるのにと呟いているが、無いものは無いので仕方がない。
それに船を用意するよりもサバンナ地方にある大橋を修理して渡れるようにした方が現実的だ。
幸いにも橋を支える骨組みは残っている。
道となる部分を補修すれば使えるようになるだろう。
特に対岸にある針葉樹は背も高く真っ直ぐに生えているので木材として利用するにはうってつけの素材の筈だ。
ヨーロッパビーバーの助けがあれば思いの外早く完成するかもしれない。
最後にセグロジャッカルがアカギツネに船が動くことがバレなきゃ完璧だねと言う。
……アカギツネの事は完全に失念していた。
バスを断崖の下に落としたり、怪音波を大音量で流したりしたアカギツネの事だ。
船を操作したら桟橋にぶつけて沈めかねない。
船が動くようになった件についてはこの場にいるメンバーだけの秘密となった。
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