第141話 メンソーレ

 その後も押さえ付けたは良いがハムハムをどうしても諦めてくれない執念深さのせいで、結局私が折れる形となった。


 念入りに痛くしないように約束させて、私は利き腕とは逆の左腕を差し出した。


 さぁ、来い!


 ハム……


 確かに痛くないがもにゅもにゅと口を動かして私の腕の噛み心地を堪能している。

 これなら多少ハムハムされても良いような気もする。

 だが、心なしか少しだけ肌が痺れるような……

 左手が……動かない?


 その時になって私はようやく彼女の正体に気が付いた。

 そして、シロナガスクジラがハムハムされることを非情に嫌がっていた理由も……


 彼女の名はハブ、毒蛇のフレンズだった。


 その後、紆余曲折あってオオウミガラスとクーちゃんもハブにハムハムされた。


 済まない。

 左手が麻痺した私ではハブを止めることが出来なかったんだ。


 それにハムハムするのはハブなりの友達になる儀式みたいなものなので、これ以上ハムハムされることはないだろう。


 ないのだろうか?


 ハブが尚も私達の腕を名残惜しそうに見ているのが気になる。


 ハブの毒が気付けになったのか、自然と回復したのか……

 とりあえず、立ち上がれるくらいに回復したクーちゃんはよろよろと三歩程歩いてから、地表を滑るように飛行を開始した。


 麻痺した腕をぶら下げて若干俯き加減な為、その様子はさながら幽霊のようである。


 私達はハブを先頭にして白い浜辺を歩いていき、目的の場所へ向かう。

 ハブを後列にすると隙を突かれてハムハムされるような気がするので、先頭を歩かせているのだ。


 しばらくすると、見慣れたくもない見慣れた物とその傍らで何やら談笑している赤色と青色の二人のフレンズがいるのが見えた。


 ハブに彼女達の事を聞こうとすると、ハブは真っ先にハムハムさせろと叫びながら二人のフレンズの方へ突撃して行く。

 これは初対面と見て良いのだろうか?


 突撃したハブはあっさりと二人のフレンズに取り押さえられた。


 二人のフレンズは私達の姿。

 特に私の姿に気が付くとハブを遠くに放り捨てて、ダッシュでこちらの方に近付き両手を広げて歓迎するかのように口を開いた。


 メンソーレ!!


 ……何語だ?


 私の微妙な表情を見て二人のフレンズは後ろを向いて、こそこそ何か話をしている。


 ほら、方言はやっぱダメだよ。

 ダメだ!方言無しはリウキウ感が無くなる!

 でも、伝わらなかったら意味ないよー。

 ぐぬぬ……


 再びこちらを振り向くと二人のフレンズは先程と全く同じ動作をして口を開いた。


 ようこそ!!


 なるほど、メンソーレはアロハみたいなものか。


 そう呟くと青色の方がアロハが通じてメンソーレが通じなかった事について、それでも日本人かと憤慨して赤色がそれを宥める。


 日本人かと言われると半分だけなのだが……


 その後、赤色と青色のフレンズはさっと私の両脇に滑り込むとがっちりと腕を掴む。


 観光ガイドはリウキウエリアの守護けもの、シーサー・ライトとレフティにお任せだ!

 お客さんにはリウキウがハワイよりも素晴らしいって事を教えて置かないとねー。


 待て!

 私を何処へ連れていく気だ!


 私はシーサーと言う謎のフレンズに引き摺られるようにして、リウキウエリアの奥地へと連れて行かれた。

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