第139話 海上運搬

 現在、私は海の上にいる。


 ボートのような小さな船に乗り、シロナガスクジラにロープで引っ張ってもらっているのだ。

 フレンズとの交渉次第では船の燃料はなくてもエリアの移動は出来たと言うことらしい。


 横を向くとオオウミガラスが船と並走して泳いでいる。

 主に足を動かして進んでいるシロナガスクジラとは違い、オオウミガラスは手を動かして進んでいる。

 その手だけのバタフライ擬きのフォームで何故そこまで速度が出るのか理解できない。


 後ろを振り返るとクーちゃんが死にそうな顔をして俯いている。

 どうやら船酔いをしてしまったようだ。

 自力で飛べば酔わなかったものを……

 だが、酔ってしまった今の状態は飛行能力を失っているらしく、飛ぶことのできなくなったクーちゃんはただひたすら吐き気を堪えるしかない。


 フレンズにも酔い止めは効くのだろうか?

 手元に無いので確かめようがないが……


 シロナガスクジラの話によると、ついこの間まではセルリアンが大量発生していたらしく、エリア間を行くにも帰るにも相当苦労したらしい。

 私達の居たエリアの周辺は特に密集していたようだ。

 おそらくはセルリアンの女王が生まれようとしていたからだろう。


 結果的にシロナガスクジラ達の奮闘で海のセルリアンはほぼ壊滅状態となり、こうして快適に海を進めるようになった。


 セルリアンがフレンズだけでなく人も襲うと知った今になって考えれば、あの時船の燃料がなくて助かったとも言えるかもしれない。


 海上を進んでいくと大きな山のあるエリアが見えてきた。

 山の頂には巨大なサンドスターの結晶が生えており、日の光を受けて七色に輝いている。


 あのエリアはキョウシュウエリアと呼ばれているらしく、2羽のフクロウが群の長として治めているエリアのようだ。


 ちなみに私達がいるエリアはゴコクエリアと呼ばれている。

 ゴコクエリアの実質的な長は司書になるらしい。

 何と無く偉い立場にいるとは思っていたが、私が思ってる以上に偉い立場だった。


 シロナガスクジラは司書やアカギツネと昔馴染みのようで、司書の事をハシブトさんと呼んでいる。

 アカギツネはアカギツネさん、何も変わらない。


 フレンズになったばかりの時に3人はコイちゃんから色々教わったらしく、実はシロナガスクジラも文字が読めるらしい。

 その事はオオウミガラスも初耳だったようで、文字が読めると聞いて大変驚いていた。


 話を聞く限り、少なくとも始めはコイちゃんがフレンズ達の教育を頑張っていた。

 しかし、現状を見ると文字はフレンズ達の間に広がることは無かったがようだが、何故なのだろうか?


 なるほど。


 文字はフレンズ達が生きる上で全く役に立たない事と勉強が大半のフレンズに取って恐ろしくつまらない事が原因のようだ。


 後に学び直したようだが、当時のアカギツネは勉強が退屈なあまりに投げ出してしまったらしい。

 その時、アカギツネからこんな物覚えたって何の役にも立たないと言われて、何の反論も出来なかったコイちゃんは以後フレンズ達の教育を諦めてしまったらしい。


 何事も興味を持たせないと身に付けさせることは難しいと言うことなのだろう。

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