第138話 漂着物

 さて、ボスが何者かは置いて、シロナガスクジラは何しにここへ来たのだろうか?


 話を聞くところによるとイッカクに私の事を聞いて挨拶に来たそうだ。

 本当はイッカクも来たがってたそうだが、ツンドラ地方の傷が癒えると評判の温泉に沈めてきたらしい。


 つまりは強制的湯治。

 イッカクが抜け出さないように丁寧にドルカ達の監視も付けている。


 図書館で見掛けたときは外傷も少なく、割と元気そうに見えたが、あれでも肋骨等を骨折していたようで服を一枚捲れば見るに耐えない痛々しい痣が無数にあったようだ。

 どうやら、イッカクは周囲に心配をかけないように痩せ我慢をしていたらしい。


 結局、シロナガスクジラにバレたようだが……


 その後、世間話としてリウキウエリアで起きたちょっとした事件の話を聞いた。

 リウキウエリアでは謎の漂着物が流れ着いたようで、謎の漂着物を怖がった海のフレンズ達の依頼で調べに向かったらしい。


 漂着物か……


 私もある意味漂着物と言っても過言ではない。

 時期的に私がこのエリアに漂着する前後の出来事であり、偶然とは思えないタイミングだ。


 まさかとは思うが私が乗っていた船に何らかのトラブルが発生して沈没してしまったのだろうか?

 詳細を聞いてみたが、シロナガスクジラの話の限りではそれは船のパーツではないようだ。


 それはシロナガスクジラが到着する直前まで動いており、フレンズ達からはとても恐ろしいセルリアンのようだと言われていた。


 その形状をシロナガスクジラに簡単に絵に描いてもらう。

 絵を確認した私とオオウミガラスはその形状を見て凍り付いた。

 4本ある足の内の3本はもげてしまってはいるが、その形状は間違いなく超大型セルリアンと同じものだった。


 だが、それはセルリアンではない。


 それは第三次世界大戦で投入されて、今も人類を苦しめている自立稼働兵器。

 その残骸がリウキウエリアに流れ着いていた。


 砲台も取れてしまっていたので、フレンズ達に危害が加わることは無かったが、下手をすれば死人が出てもおかしくはない代物だ。


 何故、自立稼働兵器がここに……?


 自立稼働兵器は水深5メートルを越える海を渡れない。

 無論、戦艦型の自立稼働兵器も存在しない。


 なので、周りを海に囲まれたジャパリパークに陸上型の自立稼働兵器が流れ着いたことがおかしいのだ。


 いったい、外の世界では何が起きているのだろうか?

 確かめる術はないが、あまり好ましい状況ではないことは推測できる。


 実際に見てみれば何か分かるかもしれないが……


 そう呟くとその言葉にシロナガスクジラが反応する。


 ヒトが見れば私達が分からなかった何かが分かるかも知れませんしね。


 ヒトが見れば……?

 もしかして、シロナガスクジラはヒトがどういう存在なのかを理解しているのだろうか?


 続けてシロナガスクジラは予想外の提案をしてきた。


 私とリウキウエリアに行ってみませんか?

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