第137話 海からの乱入者

 ヒュッ……


 竿を降って糸の先に付けられたルアーが風を切って水面へ落ちる。

 前回は失敗したが、今度こそ釣り上げてみせる。


 そう意気込む私の後ろでオオウミガラスがクーちゃんに前回は失敗したと余計な事を吹き込んでいるが気にしない。

 オオウミガラスは今回も私が失敗するだろうと確信しているようだが、その認識はすぐに崩れ去るだろう。


 ちなみにクーちゃんは昨日から寮に泊まっており、今朝も3人で一緒に食事をした。

 私の旅の話を聞いて付いて行きたがっていたので、置いて行かれないように縄張りをこちらへ移すつもりなのかもしれない。


 さて、目の前の釣りに集中することにしよう。


 前回は魚が掛かることには掛かったのだが、糸が切れてしまった為に釣り上げることは出来なかった。

 では、何故糸が切れてしまったのか?

 原因は2つ考えられる。


 掛かった獲物が大きかった事と、私が強く糸を巻き過ぎた事だ。

 大きい魚はそれだけで泳ぐ力が強い。

 それに加えて、私が負けじと糸を強く巻き過ぎた為に糸の張力が限界を超えて切れてしまったのだ。


 人は学ぶ生き物である。


 対策としては極力魚が沖へ向かってる時は糸を巻かずに、それ以外の方向へ向かった瞬間に一気に糸を巻き上げる。

 そうすれば、糸に過剰な張力が掛かることなく、魚を引き寄せる事が可能な筈だ。


 勝てる。

 今度の勝負は必ず勝てる!


 既に私の頭の中では魚を釣り上げて勝利する絵を思い浮かべていた。


 だが、戦ってもいない内に勝利を確信したのが悪かったのか、直後に私は酷い目に遭う。


 突然、釣りをしている私の直ぐ側で大きな音を立てて巨大な水柱が立ち上がり、その水柱の頂点からフレンズが飛び出して華麗に桟橋へ着地した。


 では、ここで問題だ。


 立ち上がった水柱はこの後どうなるか?


 海からやって来たフレンズが着地したのとほぼ同時くらいに水柱が崩れてしょっぱい水流となって私に襲い掛かる。

 無論、釣りに集中していた私はそれに対応できるわけもなく、発生した水流に道具と一緒に流されて桟橋の反対側へ転落した。


 こうして、私の二度目の釣りは海からの乱入者によって失敗してしまったのである。


 思ってたのとなんか違うけど、やっぱり失敗したね。


 陸に上がったときにオオウミガラスにそう言われて、次こそは凄いと言わせてやると心の中で固く決意した。

 もうただの意地である。


 さて、私と魚の真剣勝負に水を差す所か波をぶつけてきた無礼者の名はシロナガスクジラ。

 度々、オオウミガラスやイッカクの口から語られてたお母さんと呼ばれているフレンズのようだ。

 お母さんと呼ばれるだけあって、容姿や言葉の節々に凄まじい包容力を感じる。


 彼女が水柱を立てて派手に登場したのは、私が桟橋にいるのを見て、少しだけ格好付けようとしてあんな風になったようだ。


 次からは普通に登場してもらいたい。


 彼女の立場的には海に暮らすフレンズ達を纏めるグレートマザーのようだ。

 そう聞いて頭の中に過ったのはフレンズ達が時折口にしているボスと呼ばれる存在。

 彼女に貴女はボスなのかと聞くと違うと返答が来た。


 グレートマザーよりも立場が上のボス……

 いったい何者なのだろうか?

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