第128話 見付けた答え

 完全ではない。

 その言葉を信じるのならば例え相手がセルリアンの女王だとしても勝ち目はあるかもしれない。


 だが、時間を掛ければ間違いなく誰の手にも負えない存在となる。

 オオウミガラスの予感を裏付けるように女王の胸の中心から水面に垂らした墨汁みたいに黒い部分が徐々に広がっていく。


 コイちゃんから聞いた話ではセルリアンの女王は黒色のセルリアンだったと言う。

 おそらく、今も少しずつ完全なる女王へと近付いてきているのだろう。


 オオウミガラスは野生解放をして女王へと駆け出す。

 繰り出された手刀は虹色の粒子で軌跡を描きながら女王へと迫る。


 しかし……


 オオウミガラスの繰り出した手刀は女王の左手に手首を捕まれて止められてしまった。


 何故、ヒトヲ助ケヨウトスル?


 女王は右手の槍を手放し、拳を握りしめてオオウミガラスの腹に叩き込む。


 ヒトノ手ニヨリ、ドレダケノ“かがやき”ガ失ワレタカ理解シテイルノカ?


 確かに人は多くの動物の絶滅に関与してきた。

 おそらく、もうジャパリパーク内にしか生息していない動物も多数いる。


 女王はセルリアンの力を利用すれば決して“かがやき”が失われることのない生態系を作ることも可能だと言う。


 その失われることのない生態系のモデルが草原地方のセルリアンの森なのだろう。


 女王は悶絶するオオウミガラスを砂浜に投げ飛ばす。


 女王は痛みを堪えて立ち上がろうとするオオウミガラスを見下しながら更に言葉を続ける。


 完全ニナレバ過去ニ失ワレタ“かがやき”スラモ再現ガ可能。

 仲間ノ居タアノ頃ヘ戻リタクハナイカ?

 マタ、会エル。

 一人デハナクナル。


 オオウミガラスは顔を少し上げて女王が御守りに伸ばした手を払い除ける。


 何故、拒ム。


 オオウミガラスには分かっていた。

 女王が語って見せたセルリアンの性質、保存と再現。


 もしも、オオウミガラスと言う動物を再現するのであれば、その前段階として一度オオウミガラスを補食する必要があると……


 オオウミガラスの答えに対して、女王は肯定するかのように応えた。


 死ヌコトハナイ。

 獣ニ戻ルダケダ。


 そんな軽々しく言わないで!!


 オオウミガラスは痛みを堪えて立ち上がり、女王の目を真っ直ぐに見据える。


 昔のわたしだったら、あなたの誘いを受けたかもしれない。

 食べられてもケモノに戻るだけ。

 そんな風に考えていたよ。


 でも、あのでっかい黒いセルリアンに食べられそうになった時に気付いたの。


 食べられることは、あの人と共に過ごした日々を……美味しいものを食べたこと、綺麗な景色を見たこと、一緒に遊んだこと、共に夜を過ごしたこと……その全てが消えてなくなっちゃう事なんだって。

 それは今ここにいるわたしが死んじゃうって事と何も変わらないんだよ。


 だから、わたしはケモノになんて戻らない!!

 絶対に死にたくない!!


 女王は問い掛ける。

 そこまで理解していながら、何故ヒトの為に戦おうとする?

 貴女にそこまでの義理も理由もない筈だ、と。



 ……わたしはヒトを助ける為に戦おうとしてる訳じゃないよ。


 オオウミガラスは御守りを握り締めて女王に向かって叫ぶ。


 あの人は……



 “セツナ”ちゃんは……!



 わたしの大切な友達だからッ!!

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