紛いものの女王

第124話 強襲

 抱き合ってオオウミガラスと喜びを分かち合っていたその時、ふと何か違和感を感じた。


 まるで胸の奥が引っ張られるような不思議で不快な感覚。


 まるで視線が吸い込まれるかのように私はフレンズ達が喜んでいる中、何故か一人だけ喜びもせずに暗い木の影から出てこようとしない者がいるのを見付けてしまった。


 何故?


 そう思った瞬間にそいつは突然駆け出す。


 月明かりに照らされてその姿を見た瞬間に私は確信した。

 姿形は人に……いや、フレンズそっくりではあるが、その紫色の肌の質感はセルリアンのもの。

 右側頭部に禍々しい角、体型はスレンダーな少女、そして何よりそのセルリアンには他のセルリアンには無い表情があった。

 怒りと憎しみで歪んだ笑みを浮かべながら、明らかに私達を狙ってこっちに来ている。


 危ない!!


 私は咄嗟にオオウミガラスは突き飛ばした。


 突き飛ばした直後に私と謎のセルリアンの視線が交差する。

 その瞬間に私は悟った。


 こいつ、オオウミガラスを狙っていたんじゃない。

 始めから私を狙ってたのか!?


 サンドスターを持たない私を何故狙ったのかは分からない。

 次の瞬間には謎のセルリアンの手が私の首に指を食い込ませながら、ギリギリと首を絞める。


 気道と動脈をを潰されて徐々に視界が黒く染まっていくなかで、まるでフラッシュバックを起こしたかのように私の脳内にあの日の記憶が甦った。


 私は……いや、私達はかつての日本に向けて船を走らせていた。

 自立稼働兵器達を暴走させた何かが日本にあると知って……

 偶然にも大破させた自立稼働兵器を調査中に妙な信号を受信していることに気が付いて、いくつかの現場で解析してみた結果日本列島から送られてきていた事が判明した。


 それはとんでもない手柄だ。

 そして、それは私自身の破滅を導いた。


 あの夜、日本に近付いてきて緊張で眠れずに船の甲板で夜風に当たっていた時の事だ。

 ふと、声を掛けられて振り向くのと同時に私は首を絞められた。


 そいつは私と同じ解析班に属しており、私よりも優秀で私が尊敬していた年上の後輩であり……


 私がその手で救いの手を差し伸ばした人物だった。


 動機は至って単純、嫉妬心だ。

 自分よりも能力が劣るお前がこんな成果を上げるわけがない。

 お前は手柄を横取りしたんだ。

 私が英雄になる筈だった。


 人類が滅びるかどうかの間際だと言うのにそんな事に拘るのか。

 どうしようもない程の怒りと憎しみと悲しみを抱いた私は意識を失った。


 私は今まで何の為に頑張ってきたのだろうか?

 人は私の思う以上に愚かで救いようがないのかもしれない。


 ならば、いっそ全てを忘れてしまえば……



 ………………………………


 だが、それでも………


 私は諦めたりはしない。

 もう、立ち止まったりはしない。

 全ての人がそうでないことを思い出したから

 人は変われると信じているから。

 守りたい人が、獣がいる。


 皆で笑って過ごせる明日を!!



 意識を失う直前、最後に私が見たものは……


 どうしてと呟き涙を流す私自身の顔だった。

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