第119話 狼煙
時は来た。
地平線の彼方に太陽が沈み、本能にしたがって日の光を追っていた超巨大セルリアンの足がピタリと止まる。
超巨大セルリアンを監視していた鳥のフレンズ達が一斉に懐中電灯を超巨大セルリアンに向けた。
作戦開始だ。
懐中電灯の光に気が付いた超巨大セルリアンはその光を取り込もうとするべく鳥のフレンズ達を追う。
巨体になった影響で俊敏性は失われたが、歩幅が大きくなった為にその移動速度は以前よりも速い。
超巨大セルリアンを誘導する役目の彼女達も精一杯の速度だ。
そして、私は一人でジャングルの中にあるヘリの前で合図を待つ。
そのヘリには丸太が巻き付けられており、ヘリの側面に開けられた穴から燃料が漏れだして、周囲には燃料特有の独特な臭気が立ち込めている。
私の役割はここでヘリに火を付け、超巨大セルリアンを引き付けること。
あの中で唯一火の取り扱いが出来る私がこの役目を負った。
合図を待ちながら私はジャングル地方で発見された不可解な点について考える。
私が用意しようと思っていた蔦状の植物を使ったロープと丸太が何故か既にあった事だ。
何者かが後で使おうと考えていたかのように綺麗に揃えられて置いてあったのだから、おそらく何者かが用意したのだろう。
それに外見からして採取されてからそう時間は経っていない。
誰が何の為に……?
……このエリアに私以外の人がいるとでも言うのだろうか?
それともアカギツネの仕業か?
何はともあれ私達の助けになったのだから、一先ずは目の前の異変に集中しよう。
私は月光の薄明かりの中、じっと漆黒の夜空の一点を凝視する。
おそらく、鳥のフレンズ達が超巨大セルリアンを誘導し始めてからそれほど時間は経っていないだろう。
私の予測よりも早く、漆黒の夜空に赤色のサイリウムが灯る。
目標地点に超巨大セルリアンを誘導出来た合図だ。
私はポケットからマッチを取り出して薬剤が塗ってある箱の側面をマッチ棒で擦り火を灯す。
戦いの狼煙を上げよう。
火の付いたマッチ棒をヘリへ投げ付ける。
燃料に引火して瞬く間にヘリは炎に包まれて、白い煙を上げる。
もしも、無線カメラやレーダーがあればこの場からでも前線にアドバイスを送れたかも知れないが、生憎今の私には便利な電子機器とやらが何もない。
今の私にあるのはこの身1つだけ。
私は超巨大セルリアンのいる方へ駆け出した。
私はフレンズと比べて能力は著しく劣っている。
足は速くない、筋力はない、速く泳げない、空を飛ぶこともできない。
知能に関しても司書に負けているだろう。
私にあるのはなけなしの知識と経験のみ。
順調に行けば良いのだが、超巨大セルリアンは規格外の相手だ。
思いも由らない奥の手を隠し持っていたとしてもおかしくはない。
不測の事態は慣れている。
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