第118話 思いを込めて

 作戦を皆に伝えて、各々が準備のために動き出した頃……

 私は図書館の片隅で膝を抱えているオオウミガラスを発見した。


 どうかしたのか?


 そう問い掛けると彼女は私がハンター達を助けようと戻ろうとした時に恐怖で足がすくんで私を追い掛けられなかった事を気にしているようだ。

 そして、皆が超巨大セルリアンに立ち向かおうと言うのに自分だけその勇気が出ない。


 ……


 オオウミガラスは今回の異変で最初に超巨大セルリアンと遭遇した。

 そのショックは計り知れないだろう。


 そして、オオウミガラスは私に対して超巨大セルリアンが怖くないのかと問い掛ける。


 ……もちろん、怖い。

 怖いと感じてしまうのは当然の事だ。


 今回は私の命だけではなくてフレンズ達の命も掛かっている。

 恐ろしい事がたくさんだ。

 こんな重圧の中でリーダーを務められる人には本当に尊敬してしまう。


 恐怖を感じない人はいない。

 恐怖はどう乗り越えるかである。


 私の場合は少々命の危険に慣れてしまったのも大きいのかもしれない。


 ……少し外の世界の話をしようか。


 私はそう言ってオオウミガラスの横に座った。


 私は彼女に外の世界について、現状を彼女が分かる単語に置き換えて話し始める。


 外の世界では人による大規模な縄張り争いがあった。

 その際に人は自らの手で機械で出来たセルリアンのような物を作り出し、縄張り争いの最中にそのセルリアンが無差別に人や生き物を襲い始めた。


 縄張り争いをすれば、人が滅びる。

 そんな事は分かりきっていた筈なのに……


 現状、故郷などを失ってしまったのは人の自業自得によるところが大きい。

 アカギツネは手放しで人は素晴らしいと褒め称えるが、実態はそんな大した存在ではないのだ。

 滅んでしまった方が良いのかもしれない。


 だが………


 だが、それでも私は人を守る道を選んだ。

 人は変われる。

 私は変わろうとしている人達をたくさん見てきた。

 私は人の可能性を諦めきれない。


 もしも、ここでフレンズを見捨てて逃げてしまえば、これまでの私を否定してしまう事になる。


 だから、私は立ち向かう。


 私の願いは……皆が笑って暮らせる明日を作る事だ!


 ……なんだ。

 願い事はあったじゃないか。

 いや、思い出したと言うのが正しいか。


 砂漠では忘れていた願いを思い出し、胸の中に再び熱い何かが灯ったのを感じた。


 私は立ち上がってオオウミガラスにお礼を言う。

 本人は何故お礼を言われたのか分かっていなさそうな顔をしているが、それで良い。


 ……オオウミガラス、少しだけ目を瞑って欲しい。


 私は目を瞑るオオウミガラスにしゃがんで首に手を回す。


 再び目を開けたオオウミガラスの自分の首に掛けられた虹色の鉱石が付いたネックレスに気が付いた。


 元々、司書にジャパリまんとの物々交換の為に作ったものではあるが、今回はオオウミガラスに御守りとして渡した。


 私は手の平に虹色の鉱石を乗せたオオウミガラスの手を両手で優しく包む。


 もしも、勇気が出ないのならその石を握ると良い。

 その御守りが勇気をくれる筈だ。

 私の有り余る勇気が込めてある。


 ……言ってて少し恥ずかしい。


 勇気が出たのか決意の表情でオオウミガラスが立ち上がる。


 さて、私達も頑張るとしようか。


 皆で笑って過ごせる明日の為に!

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