第115話 撤退戦

 逃げられない。


 そう判断したのか最後尾を走っていたフレンズが黒いセルリアンへ振り返る。


 その手に甲羅のような盾を持ったフレンズ、ガラパゴスゾウガメが走ってくる黒いセルリアンに対して盾を構えた。

 足の遅い彼女は逃げるよりもここで黒いセルリアンを食い止める事を選んだようだ。


 そして、衝突!!


 黒いセルリアンの突撃を受け止めた盾が火花を散らすようにサンドスターを飛び散らせながらも、ガラパゴスゾウガメは見事に黒いセルリアンの突撃を止めた。


 だが、彼女もそう長くは持ちそうにない。


 ガラパゴスゾウガメの足元が黒いセルリアンの圧力に負けて砕けながら沈んでいく。


 ハンター達も必死に追い掛けてくるが、先程のダメージのせいか足が遅い上に、まるでハンター達を狙うかのように空から黒い石柱が落ちてきて行く手を阻む。


 万事休すか。


 そう思った矢先に空から石柱以外のものが凄まじい速度で黒いセルリアン目掛けて落ちてくる。

 その正体はハクトウワシ。

 翼からからサンドスターを放出しながら彗星の如く黒いセルリアンの頭部に痛烈な蹴りを繰り出した。


 まるで石材を叩いたような乾いた炸裂音が響き渡り、黒いセルリアンの頭部が弾け飛んで中から弱点となる石が露出した。


 石が見当たらないと思ったら体内にあったのか。


 黒いセルリアンの意識外から放たれたハクトウワシの蹴りは相当利いたようで、黒いセルリアンはよろよろと弱々しく動いている。

 そんな黒いセルリアンに対してハクトウワシが調子に乗って罵り始める。

 スカイレースの最後を無茶苦茶にされたことに激怒しているようだ。


 ブラックジャガーがハクトウワシに対して直ぐに追撃しろと叫ぶ。

 一度大技を当てたくらいで油断してはならない。

 完全に対象が沈黙したことを確認しなければ安全を確保出来たとは言えないのは私もどう意見だ。


 特に通常のセルリアンとは異なる黒いセルリアンに対して時間を与えてしまったのは致命的なミスだった。


 周囲に降り注いでいた黒い石柱が割れる。


 中からは黒いセルリアンの代わりに黒い不気味な粒子が吹き出して黒いセルリアンを包み込む。


 ハクトウワシの見ている前で黒いセルリアンが傷を修復しながらどんどん巨大化していく。


 中型から大型へ。

 大型からさらに巨大な大きさへ。


 その巨体から発せられる圧倒的なプレッシャーの前でハクトウワシは思わず硬直してしまう。


 そして、やっと現場に戻ってきた私はカバンからとあるものを取り出して黒いセルリアンの目玉に投げ付ける。

 大量の小麦粉。

 目眩ましに使えると思って持ってきたものだ。


 さすがに黒いセルリアンに近代兵器のような熱感知機能はついてないだろう。


 私はハクトウワシの背中を叩き正気に戻してこの場から逃げる。


 ブラックジャガーが素早くコヨーテを回収して、小麦粉を振り払おうとしている黒いセルリアンの脇を通り抜けてアメリカバイソンと共に私の隣に並ぶ。


 今は逃げるしかない。


 私達は黒いセルリアンから逃走することに成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る