大空を駆ける

第108話 流離いの旅人

 サバンナで二度目の夜明けを迎える。

 テントを片付けるのも以前と比べるとかなり手際が良くなっている。

 アウトドアの達人になってしまう日も遠くないかもしれない。


 私達は草原地方の牧場へ向けて出発した。


 ……しかし、牧場は一体誰が管理をして入るのだろうか?

 生物を扱う以上完全な機械化は無理だと思うのだが、ジャパリパークにはそれを補う何かがあるのだろうか?

 もしくはフレンズが家畜の世話をしているのかもしれない。


 しばらく歩いていると向こうから何やら見知った顔が歩いてきた。


 その瞳に哀を灯してジャパリパークをさ迷うツンドラ生まれの流離いのフレンズ。


 トナカイ。


 出会ってしまった以上無視も出来ないので取り敢えず声を掛ける。

 風評は取り除けたか?


 トナカイは旅を始めてから自分の風評の凄まじさと、風評の元凶を知ったらしい。

 旅の途中で出会ったコイちゃんからの情報。

 なんと風評の元凶はトナカイだったらしい。


 ……どういう事だ?

 それはつまり……自業自得?


 そう言う訳ではないらしい。

 トナカイはトナカイでも今目の前にいるトナカイではなく、昔のジャパリパークにいたトナカイが元凶らしい。

 昔のトナカイは仮に初代トナカイとする。


 初代トナカイは無類の親父ギャグ好きで口を開けば寒いギャグばかり言っていたらしい。

 付いた渾名は雪山のブリザード。

 初代トナカイの所業で広まった風評が巡り巡って当代のトナカイの風評に繋がってしまったようだ。


 過去の罪業(?)を背負いしトナカイは覚悟を決めた。


 けもトーナメントで名を上げて過去の風評を名声で塗り潰す!!

 トナカイは極寒の地の凍土を溶かさんばかりに燃えていた。


 だが、けもトーナメントに参加しようとサバンナ地方のフレンズを探し回っているが、何故かサバンナ地方のフレンズと出会わなくて困っているようだ。


 ……まぁ、今は出会うことはないだろう。


 色々と熱意が空回りしているトナカイに、現在サバンナ地方のフレンズ達は森林地方を抜けた先の山岳で開かれるスカイレースに参加するために一時的に居なくなっている事を告げる。


 なん……だと……


 どうやらスカイレースの件は初耳だったらしい。

 トナカイは私からスカイレースの件を聞くなり、血相を変えて森林地方に向かって全力で走り始めた。


 今から行って間に合うかは分からないが、トナカイの努力が実る事を願っておこう。

 大会の規模的にスカイレースで名を上げれば、とりあえずは妙な風評も消えるだろう。


 それにしても親父ギャグ好きなトナカイか……

 それはそれで見てみたかった気もする。


 トナカイを見送った私達は再び草原地方へ向けて歩き出した。

 しばらく歩いていると地方の境界である崖と橋が見えてくる。

 さらにその先には朽ち掛けた白い柵が見えた。


 おそらく、あれが牧場なのだろう。


 私達は牧場を目指して地方を繋ぐ橋を越えて草原地方へと足を踏み入れ……




 そして、天高く舞い上がった。

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