第91話 密林の罠

 ブォン


 耳元で風が通り過ぎた音がした。

 トラの強靭な爪による一撃は私の首筋に当たる直前、まさに薄皮一枚程の距離で止まった。

 近付いたら怪我をすると言うのは文字通りの意味だったのか。

 もしも、このままトラの攻撃が私に当たっていたらと考えるとゾッとする。


 何とか寸前で踏み止まったトラは素早く私から距離を取って、威嚇するようにこちらを睨み付ける。

 食物連鎖の頂点に立つに相応しい迫力だ。


 それに対してオオウミガラスが私が虐められているとでも思ったのか、コラー!と迫力のない威嚇をする。


 そして、コンゴウインコは踊ってる。


 とりあえず、皆落ち着こうか。



 何とか落ち着いたところで、私はトラにヘリの行方を尋ねる。

 アフリカニシキヘビの言うとおり、どうやら彼女はヘリ場所を知っているようだ。


 しかし、彼女を怒らせてしまったのは失敗だった。

 素直に教えてくれるだろうか?


 教えてくれるのか……


 心象はかなり悪かったと思うのだが、意外なことにトラは案内を引き受けてくれた。


 だが、条件としてトラから約半径2m以内には近付くなと言われた。

 特に私を名指しにして。

 だが、あまり距離を取り過ぎると離れ過ぎと怒られる。

 離れて欲しいのか近付いて欲しいのかはっきりして欲しい。


 このフレンズ、かなり面倒臭い性格をしている……


 トラの案内で私達は順調にジャングルの中を進んで行く。

 気温は高いが覆い繁るジャングルの木の葉によって日光が遮られるため、意外と体感温度は高くない。


 そろそろ到着するかどうかトラに聞こうと思った時、突然トラがバランスを崩して転んだ。


 どうしたのかとトラの足元を良く見ると、何やら片足が膝の位置くらいまで地面に埋まっているではないか。

 先日も雨が降ったので地面がぬかるんでいる所は多いが、この場所は見た限りでは沼か何かには見えない。


 では、いったい何が?


 その疑問に答えるようにトラの足元から私達の方へ地面に亀裂が走る。


 逃げなければ!


 と、思ったが時は既に遅く、私とトラとオオウミガラスは地面の亀裂に飲み込まれて落下して行った。


 あまりに突然な出来事に私とオオウミガラスは何も出来ずに空中でもがく。

 それを見たトラが空中で瓦礫を蹴って跳び、私とオオウミガラスを空中で捕まえて華麗に地面に着地した。


 トラの凄まじい身体能力に関心をしていると、我に返ったのかトラが顔を真っ赤にして私とオオウミガラスをその辺に放り出した。


 結局、地面に叩き付けられることになったが、上からそのまま落下するよりはマシだろう。


 オイッ!オイッ!


 頭上から何やら間違った呼び声が聞こえてくる。

 四人の中で一人だけ空を飛べたコンゴウインコだけが難を逃れたようで、亀裂の上からこちらを心配そうに見ていた。


 とりあえず、大丈夫だとコンゴウインコに声を掛ける。


 しかし、何故突然地面が崩れたのだろうか?


 亀裂から僅かに射し込む光に照らされて、うっすらとだが周囲の様子が確認できた。

 木の根に侵食されてボロボロになったコンクリート壁、足元に広がるアスファルト。


 どうやらここは人工的に作られた地下道のようだ。




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