第87話 小さな音楽会

 しとしとと降り続ける雨の中、昨日手に入れた傘を気に入ったオオウミガラスは傘を差して1人で港を散歩していると、妙な音が聞こえてきたそうだ。


 ポーン……ポロン……


 急いで逃げ帰ったオオウミガラスは私と一緒に再度そこを訪れる。


 ポーン……ポーン……


 確かに音が聞こえる。

 オオウミガラスには聞き慣れない音のようだが、私には割と聞き慣れた音だった。


 それはピアノの奏でる音色。


 流れてくる音色に惹かれて私達は楽器店の中へ足を踏み入れる。


 無論、怪奇現象など起こるわけもないので、ピアノの音が鳴ると言うことは、それを鳴らしている犯人が居ると言うことに他ならない。

 店の外からでは分からなかったが、中に入ると誰が音を鳴らしているのかすぐに分かった。


 そのフレンズ達は私達に気が付いて手を上げる。

 ピアノの音を鳴らしている犯人はアデリーペンギンとキングペンギンだった。


 何しに来たと問われれば、二人揃って遊びに来たと言う返事が返ってくる。

 フレンズ達がここに来る用事と言えば遊びに来るくらいしかないか。


 陸路で数日掛かる距離を泳げばほぼ一日で移動できるのは本当に便利なものだ。


 二人は港にやってきたは良いものの寮のある位置が分からずフラフラとショッピングエリアの中を探検していたそうだ。

 その最中に綺麗な音の出るものを発見して、今まで遊んでいたらしい。


 話を聞く限りどうやら楽器を知らないようだ。


 折角なので、三人に楽器のことを教える。


 楽器一つにも色んな物がある。

 ピアノのような鍵盤楽器、ギターやヴァイオリンのような弦楽器、フルートやリコーダーのような管楽器。

 他にも私の知らない楽器も沢山あるだろう。


 人は昔からこれらの楽器を使って音楽を楽しんでいたんだ。


 まぁ、フレンズ達に分かりやすく言えば声以外で奏でる歌と言うところか。


 アデリーペンギン達が周りの楽器を見て、全部綺麗な音が出るのかと聞いてくる。

 綺麗かどうかは分からないが、少なくとも不快な音は出ない筈だ。


 かつてのペパプもこれらの楽器の演奏と共に歌ったり踊ったりした筈だ。


 ……今のペパプは演奏抜きでアカペラで歌っているのだろうか?

 いや、遊園地のような音を出す設備も残っているし、それを利用して演奏を流しているかもしれない。

 一応、アカギツネが出来たことなので、他のフレンズの中にも機械の操作ができるフレンズは居るだろう。


 説明を大人しく聞いていたアデリーペンギンが不意ににやっと口角を上げる。


 突然、アデリーペンギンが私の歌を聞いてみたいと言い出した。

 そして、直ぐ様オオウミガラスとキングペンギンに同意を求めて、私の逃げ道を塞ぐようにする。


 自分達は歌とか音楽は知らないけど、私は知っているから見本をみたいと……


 確かに歌えるか歌えないかと問われれば歌えるのだが、人前で歌うのはどうにも恥ずかしい。


 既に退路は無いので歌うしか無い。


 さすがにピアノを弾きながら歌うと言う芸当は出来ないので、アカペラで勘弁してほしい。

 曲はあのジャパリパークの曲だ。


 三人の前で耳を赤くしながら歌っていて私はつくづく思った。


 ああ、私はアイドルには向いていない。

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