日記外その20 タリナイ

「やっと見付けたわ。散々手間を掛けさせてくれやがったわね」


 雨が降る中でアカギツネは目の前のセルリアンに向かって指を差しながらそう宣言する。

 全身が紫色のフレンズそっくりな形をしたセルリアン。

 大きさで分類するなら中型。

 戦闘が苦手な子でない限りは一人で対処が可能なサイズである。


 だが、アカギツネはそのセルリアンの容姿を見て何か引っ掛かるような感覚を覚える。


「ほ、本当にフレンズそっくりだな」

「ええ……そうね」


 フレンズ型のセルリアンは本来顔があるべき位置に付いている一つ目でアカギツネを捉える。


「こんな気持ち悪いのはさっさとやっつけちゃうに限るぞ!」


 さっさと帰りたいナミチスイコウモリがフレンズ型のセルリアンを退治するべく躍り出る。

 以前は逃げていたフレンズ型のセルリアンだったが、今回はまるで動じていない。


 何故かしら?


 アカギツネが疑問抱きながらもしもの為にナミチスイコウモリをサポートするべく構えた。


 そして、ナミチスイコウモリが不自然に低い位置にピンと伸びた蔦を蹴飛ばしたのを偶然見付ける。


「ナミチー!!飛びなさい!!」

「へ?」


 一瞬なんの事か分からなかったが、ナミチスイコウモリはアカギツネの指示に従って飛び上がる。

 すると、ナミチスイコウモリがいた場所を先端を大きな丸太が通過した。


「なんだ!?今のは!?」

「木が飛んで来たぞ!?」

「罠よ!アイツ罠を使いやがったわ!」

「わな?」


 ヒトを勉強していたアカギツネだからこそ、咄嗟に先程の物が罠であることに気が付いたのだろう。


「さっきの蔦を踏むことで木が飛んで来るようになってんのか。じゃあ、アレとアレもか。あぶねぇな」

「そうなのか?」


 罠の構造を看破したゴリラが他にも仕掛けられている罠を見つけ出して、罠を破壊していく。

 それに対して危機意識を抱いたのかフレンズ型のセルリアンが逃げ出した。


「待ちなさい!」


 アカギツネ達は罠に掛からないように慎重にフレンズ型のセルリアンを追い詰めていく。


 そして、フレンズ型のセルリアンが突然苦しむように顔を押さえて踞る。


「これも罠かもしれないわ。アタシも良くやるもの」


 突飛な行動で獲物の気を引こうとする習性のあるアカギツネが二人に対して警告をする。


『……タリナイ』


 アカギツネは耳を疑った。


 確かに今目の前のセルリアンから言葉が聞こえてきたのだ。


『……タリナイ』


 セルリアンが言葉を発しながらこちらを振り返る。


『……マダ、カガヤキガ』


 セルリアンが手を顔から離した。

 そこにはセルリアンにはあってはならないものが存在していた。


『タリナイ』


「「「!?」」」


 先程の一つ目が消えてなくなり、そこにはまるでフレンズのような顔が存在していた。

 それとほぼ同時に周囲から突然何かが近寄ってくる気配が現れる。


「この音は……セルリアン!?」


 周囲の木々の合間から小型のセルリアン達が飛び出してアカギツネ達を襲う。


「こんなもの!!」


 だが、小型のセルリアンではいくら集まったところでフレンズ達に勝つことは出来ない。

 小型のセルリアンの内の一体がフレンズ型のセルリアンの右手に収まり、その姿を変えていく。


 それはまるで角の生えたフレンズが使う槍のような形状へと変化し、それと同時にフレンズ型のセルリアンの右側頭部から角のような物が生えてきた。


『カガヤキ!』


 フレンズ型のセルリアンがアカギツネ目掛けて槍を振るう。


「ナメんじゃないわよ!!」


 不意を突くような攻撃だったが、アカギツネは紙一重で槍を避けてフレンズ型のセルリアンの脇腹を爪で切り裂いた。


「流石、アカギツネだぞ。いつもこんな感じだったらなぁ」

「何か言ったかしら?あ、また来たわね!」


 脇腹に痛烈なカウンターを受けたフレンズ型のセルリアンは、形勢が不利と見たのか小型セルリアンを大量に差し向けて逃げ出してしまう。


「コイツらを片付けてさっさと追うわよ!」



 アカギツネ達は現れたセルリアンを退治すべく奮闘する。


 そしてフレンズ型のセルリアンはアカギツネ達から逃げながら、壊れたレコードのように言葉を繰り返した。


『……タリナイ』

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