第83話 糸を垂らして
そして今日もまた日は昇る。
人一人が記憶喪失や遭難していても地球は今日も平常運転である。
今日の私は昇る朝日を見ながら港の桟橋の端から海へ向かって釣り糸を垂らしていた。
ちなみに機械の故障か何かで食材が届かなくなった訳ではない。
この釣りに特に理由はない。
強いて言うなら暇潰しだろうか。
見るだけで嫌悪感を掻き立てられるような気持ち悪いフォルムの虫っぽい生き物が餌として使えると言うのは知っているが、それを何処で調達できるか分からないので今回はルアーを使っている。
ツンドラ地方の旅は砂漠地方と対称的に何かと精神的に負担が掛かる出来事が多かった。
色々と疲弊し切っている精神とは真逆に、体調の方は温泉に入ったお陰かすこぶる良好である。
しばらくすると朝食を食べ終えたオオウミガラスが私を探しにやってきた。
少しじっと私が釣りをしている様子を眺めてオオウミガラスは私に声を掛けてきた。
何してるの?
まぁ、フレンズには何をしているのか分かり難いか。
とりあえずオオウミガラスには簡潔にこの下で泳いでいる魚を取ろうとしている伝える。
すると、予想通りと言うかオオウミガラスから潜って取ってきた方が早いよと提案が……
これは魚を食べたいからではなくて、魚を釣ると言う行為を楽しむ為にやっている事だ。
確かにオオウミガラスが直接潜って取ってきた方が多くの魚を取れるかもしれないが、それでは意味がない。
つまり、これは遊びなんだ。
そう言うとオオウミガラスは分かったのか分かっていないのか、私の側に腰を下ろして釣りの行方を見守ることにしたようだ。
30分後、オオウミガラスは桟橋から海へ身を投げた。
どうやらオオウミガラスに取って釣りは酷く退屈な物だったらしく、それに耐え兼ねて海を飛び込んでしまった。
オオウミガラス、ここで貴女に魚を取られると釣れるものも釣れなくなってしまう。
後でちゃんと調理してあげるから沖の方で魚を取ってきてくれ。
さて、オオウミガラスが沖に魚を取りに行った事だし、私もそろそろ本気を出して魚を釣らねばならない。
とは、言ったもののずっと釣糸を海の中へ垂らしているのだが、未だに魚が仕掛けに掛かる様子はない。
本の通りに竿や仕掛けを組み立てた筈なのだが、何か足りなかったのだろうか。
仕掛けさえしっかりしていれば無条件に魚が掛かるものだと思っていたが、一筋縄では行かないようだ。
少し仕掛けを見直そうとリールを巻くと、竿が大きくしなる。
これは私が気が付いて居なかっただけで、仕掛けにしっかりと魚が食い付いていたと言うことか。
私は魚を逃がさないように素早く糸を巻き上げる。
糸がリールに巻かれるに連れて段々と影が見えてきた。
これは……デカい!!
私はラストスパートを掛けるように一気に巻き上げるスピードを限界まで上げる。
ザパンと海面を突き破り、遂に大物の姿が私の目の前に現れた。
私は釣れたものを見て思わず言葉を失う。
それは……とても大きな………
ワカメだった。
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